遺されたもの



「ちくしょう・・・ちくしょう・・・」
何度も悔しげにつぶやく年若い道士を目の前にして、何一つ掛けられる言葉はなかった。
自分が渡した莫邪の宝剣IIを、あの瞬間、ただ自分も見つめていた。



  * * *


「天化君」
天祥が近くに居ないときを何度も見計らったのち、楊ゼンはようやく天化に声を掛ける機会を得た。
「ん〜?何か用さ?楊ゼンさん」
返ってくる言葉は以前と全く変わらない。
けれどどこか、何かが張り詰めている。
ほぐしてやりたかった。いや、周軍のためにも吹っ切ってもらわなければならなかった。 それが、太公望から仙道たちの特訓を任された自分の役目だと、彼は思っていた。



否。

天化の師父の最期を、一番間近で目にしたのは自分。
彼の眼差しを、笑顔を、宝剣と共に受け止めたのは自分。
然り、宝剣と共に自分が受け止めたのは、彼の人の希みのすべて。
天化をよろしく、と、道徳の声なき声が聞こえる。

勿論、天化だけではない。
太公望を頼む、と。
元始天尊様も、崑崙という世界も。雲中や大乙もできれば気にかけてやってくれ。

そして何よりも。  楊ゼン、君も生きろ、と。

そう、きっと自分は嬉しかったのだ。
存在することを肯定された喜びを、だから自分は彼の人の愛弟子に伝えたい。
それは役目ではなく、自分の希み。 生きていろ、と、道徳の声を黄天化に伝えたい。

けれど。
これは言葉で伝わることではなく。
だから代わりに、こう口にした。

「天化君、莫邪IIの調子はどうだい?
一手、手合わせ願えるかな?」



連作短編らしいです。
でも自分の中では/話のテーマとしては、1話完結なのです。
しかし、心理描写ばかりで、動きがないのお。
彼ら、次回はもう少し動いてくれるかな?

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