ふっと現実感が遠くなる。
天祥がそばにいないからだと、わかっている。
いま自分が向き合っている現実は、天祥の笑顔を引き出すこと、だけだから。
父の死を間近に見て、けれど手の出せない遠さで見て、弟が沈むのも無理はない。
無理はなく、けれど笑って欲しいから、自分は弟が求めるままに天祥のそばにいる。
天禄や天爵も、ほかのみんなも、気遣わしげな視線を向けている。
皆、天祥の笑顔を祈っている。
自分も。いま、父のことより、師父のことより、まず天祥のことを考えている。
懐の莫邪IIの重みは、師が以前と変わらず笑っているような錯覚を起こさせるから。
夜、天祥が寝入ったあと、莫邪IIを握ってみる。
それは力に溢れていて、却って現実感がないのだ。
コーチの顔なんて、笑ってるとこしか思い浮かばないさ。
それは天化の中で、最も死から遠いイメージ。
目の前で沈んだ顔を見せている天祥の方が気になるのは、ごく自然の成り行きさ?
けれどいまは昼のさなか、そして天化は一人。
ここしばらく、なかったことだ。
この一瞬、天化は自分のその状態を、持て余した。
「天化君」
そんな天化に、声がかかる。
天化はなんとなくほっとして、応えた。
「ん〜?何か用さ?楊ゼンさん」
「天化君、莫邪IIの調子はどうだい?一手、手合わせ願えるかな?」
何だか天化が情けないような感がありますが、そんなつもりじゃないんです(涙)。
目の前の現実は大切で、感情が成熟するには時間が必要で。
感情がついていかない弟子に、道徳は甘い、と思ってます。
解説をつけたくなる文章であることが、とっても問題なんですけど。
しかし今回も、動いてないぞ・・・