サンタクロースってほんとにいるの? .
<
>
つぎの日 アドヴェントカレンダー
その日朝から天化はとってもいい子でした。
いえ、いつもは悪い子だっていうわけじゃありませんけど、それでも、いつもよりずっといい子でした。
食事の準備も言われる前から一所懸命に手伝ったし、自分の部屋もきれいに片付けたし、ドアを乱暴に閉めたりしなかったし。さすがに道徳にもその理由はよくわかって、そうして彼は感心するよりも困ってしまって、あやうく天化を褒めてあげることも忘れそうになるくらいでした。
まして遊びの時間にまで「コーチ、何か手伝うことないさ?」なんて聞かれた日には。
「天化の分の仕事はみんな終わっただろ?こっちはいいよ、遊んできなさい」
ちょっと嬉しそうな、でもちょっと不満そうな表情が返ってきます。
道徳が次の言葉を探したときに、後ろから声がかけられました。
「おや、天化くんいい子だねえ。こんにちは、徳ちゃん」
「お!普賢!よく来たな!天化、俺の部屋に普賢に渡す荷物が置いてあるから取って来てくれないか?」
あからさまにほっとしたような、そしていつもよりちょっと強引な、道徳の声。
「わかったさ!あ、いらっしゃいませさ、普賢さん!」
そう言って駆けて行った天化の顔が、すごく輝いていたのは決して気のせいではありませんでした。彼はいまこの瞬間の安堵半分、そしてこの先の不安半分の息をつきました。
普賢はちょっと不思議そうにしましたが、追及はせずに微笑んで。
そして天化は荷物を持って駆け戻ってきました。
「コーチ?これでいいさ?」
「ああ、ありがとう」
「ありがとう、天化くん」
その言葉に天化は先刻の輝いた表情で言うのでした。
「俺っちいい子さ?サンタクロースはいつ来てくれるさ?」
それは今朝から道徳が、いつ聞かれるか、何て答えようかと思い悩んでいた言葉でした。
一方で、普賢はすんなりと、そして納得した表情で微笑んで言いました。
「うん、とってもいい子だよ。・・・・・徳ちゃんてば、さっきから何か落ち着かないの、このせい?」
どうして道徳に答えられるでしょう。
そうだとも違うとも言えず、道徳の顔にはきまり悪げな表情が浮かびます。
普賢は彼にしてはめずらしく、声を立てて笑いたそうな素振りを見せました。
道徳へのからかうような視線を改めて、普賢は天化に向き直りました。
「そうそう、天化くんにおみやげがあったんだよ」
そして小さな包みを渡します。
「ありがとうさ、普賢さん!開けていいさ?」
包みの中身は大きな絵の書いてあるカレンダー。
「これ、何さ?」
「それはさっきの天化くんの質問に答えるものだよ?
サンタクロースは天化くんがいい子だったら24日、クリスマスイブの夜に来てくれるから。
その日まで毎日、その日の扉をひとつづつ開けていってごらん」
「わかったさ!ありがとうさ、普賢さん!」
昨日は来客に抗議を試みた道徳も、今日は口を挟むことすらできないで頭を抱えています。
ついに普賢は声を立て、くすくす笑い始めました。
「徳ちゃん?徳ちゃんにもカレンダーひとつ要るんじゃない?」
道徳は頭を抱えたまま首を振りましたが、普賢は余計に笑いました。
「ううん、絶対いると思うな。あとで徳ちゃんの分も持ってくるから。」
「コーチとおそろいさ!」
「ほら、天化くんもこう言ってることだし。ふたりで一緒に待つ日を楽しんでよね」
その気になっている天化と笑う普賢に道徳が理由も説明できないまま逆らえるはずもなく。
こうして彼らはその日から、カレンダーの扉を一日1つ開けるのでした。
明日は更新なしであさって。
ほんとは昨日今日のお話は、12月冒頭のことですから(^^ゞ
2006.12.17
<前の話
次の話>
▲書斎へ
▲▲正門へ