サンタクロースってほんとにいるの? .
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すこし経った日 帽子と上着
カレンダーの扉が半分くらいは開いてしまったある日、道徳は玉泉山にやってきました。
なにせ子育てなら玉鼎は道徳の2倍も3倍も経験豊富です。
そう、クリスマスはどんどん近づいてくるのに、道徳はいまだサンタクロースをどうするのか決めかねているのでした。
「クリスマスまでには忘れてしまうかと思ったんだけどな」
「だが?」
「普賢がカレンダーをくれたんだよ!」
「成程」
玉鼎はくっくと笑いをこらえているようです。
「毎朝小窓の中はこんな絵だったって俺に報告に来るんだよ。で、あと幾つだね、コーチ、ってさ」
道徳は困っているようなのですが、玉鼎にしてみればいかにも好もしい光景としか思われません。
「いい子にしてるしさ。参ったよ」
「どうしてお困りなのですか?」
同席していたかつての子どもは、不審そうに口を挟みました。
「子どもなんだから、別にいい子じゃなくたっていいじゃないか」
至極当たり前のように言い切った道徳の考えが、まず間違いなくいい子に分類される愛弟子に伝わるだろうかと玉鼎は少し危ぶみましたが、何も言わないことにしました。
「はあ。」
さらに不審の色を濃くした楊ゼンの声を聞けば、彼が道徳の信じるところを掴みかねていることは明らかです。
「天化を騙していい子にさせるのなんて嫌なんだ」
「騙して、ですか・・・?」
思うところが噛み合っていない、そう感じながらもその噛み合わなさぶりに何を話していいかわからない。そんな当惑をあらわにして珍しく歯切れの悪い弟子の口ぶりに、玉鼎は温かい目を向けました。
「それで、どうするのだ?」
話を継いでやると、道徳は我に返ったように喚き出します。
「そう、それなんだよ問題は!玉鼎、俺はこんなときどうしたらいいんだ?!」
「お前の好きにすればいいと思うが・・・。
プレゼントを与えるもよし、お前に抵抗があるのなら与えないのも別に構わないだろう」
「でもあんなにいい子にしてるんだよ!」
「そう思うならプレゼントを遣ってもよいのではないか?」
「でもサンタクロースなんていないのに!」
このやり取りに玉鼎は失笑するところでしたが道徳は真剣なのです、それはいけません。
玉鼎は容を改めて、道徳に助言しました。
「まだクリスマスまで日はある。少しじっくり考えてみても良いのではないか?」
焦るな、と言われた道徳はしかし口を尖らせました。
「そうは言うけど玉鼎、毎日あんなに頑張ってるのを見るとさ。
やっぱりサンタクロースなんていないって、気づくのが後になればなるほど、騙されたって期間が伸びるじゃないか」
この反論は、玉鼎の予想の通りでした。
「では今すぐ夢を壊すか?」
「う、でもなぁ・・・。あんなに楽しみにしてるしな・・・」
今度はっきりと玉鼎は笑います。
「今のところ楽しみにしているなら、とりあえずは良いのではないか?
その間にお前が早く答えを出せばよい」
それが正論だということは、道徳も認めざるを得ませんでした。
これ以上聞いてもおそらく玉鼎から答えを引き出すことはできないということも。
玉鼎は道徳にお茶を勧め、道徳はおとなしくお相伴に与りました。
なんにせよ、ここで供されるお茶は絶品です。
潔く、というべきか茶菓と会話を楽しむことに決めた道徳は金霞洞師弟とともにそれを堪能したのでした。
道徳が辞去する際、玉鼎に耳打ちされた楊ゼンは頷いてすぐに奥の部屋から紙袋を一つ持ってきました。心得た弟子の手際のよさに玉鼎が内心微笑んだのはまた別の話として。
玉鼎はそれを道徳に渡しました。
「私からの土産だよ、道徳。天化の前では開けないことだ」
「何だ?」という道徳の疑問を笑い顔ひとつで封じて、玉鼎は道徳を帰します。
天化には見せるなという助言のままに、道徳が帰り道で袋を開ければそこには赤い帽子と上着が入っていました。
サンタクロースの帽子と上着。
それが金霞洞にあった、ということからは過去のひとつの光景が浮かび上がってきて。
道徳はますます頭を抱えることになるのでした。
次もあさって、かなあ?。
しかし1話がどんどん長くなるのはいかがなものか(-_-;)
2006.12.19
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