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「扉」 (4)





椅子を抱いたまま、腰をとられる。
あてがわれた硬い感触に、反射的に身体がすくんだ。

入り口に押し付けるように動かれるものの、まだ押し入っては来ない。腰から尻のあたりを撫で下ろされる感触があって、拡げられようとする場所に集中していた感覚を散らされ、声を上げる。篭った唸り声が自分の耳に響く。肌を擦る手は、腿のあたりまで下りていって、動きを逆にたどって戻ってくる。繋がろうとするその場所から外側へ、薄い肉を押し広げるように撫でられる。薄い皮膚を引っ張られる、むず痒いような感覚。その感覚の真ん中に、楔をあてられている。

じれて、身体が揺れた。

ラガルトの身体が降りてきて、背中に重みと体温を感じる。解かれた髪が、汗ばんだ体に絡んでくるのが、もどかしい愛撫のようだ。

微かな笑い声を聞いたように思う。
てめえ、笑ってんじゃねえよ、と心の中で毒づく。

ぐい、と尻を強く掴まれ、びくん、と撥ねたところに捩るように突きこまれる。きつい太さの部分がずるり、と薄く伸びた皮膚の輪を突き抜けて入り込んでくる。異物が入り込んでくる圧迫感をどうにか逃がそうと、椅子の肘掛を強く掴んだ。首の後ろの皮膚を軽く咬まれて身体が反りかえる。

突かれるたびにゆっくりと押し広げられていく。追い上げられたままでじらされ続けた体が、狂ったように反応を返そうとする。快感に溺れこもうとする自分とは別に、どんな時でも片隅に残ってしまう正気の自分が、その狂態を面白がって見ている。

 いいかげん待ちくたびれてきたらしい弟が、扉の向こうでぶつぶつと文句を言っている。

腹のあたりが苦しくなって、ずいぶんと深くまで咥えこまされたのがわかる。息を吐き出してしまいたいのだが、咬まされた布がじゃまだ。

「ん、ん」

無理やり呼吸をしているのが、泣いたような音になる。背中を舌でなぞられ、前を緩く握りこまれる。こっちの反応を見ているのだ。腰を動かして、手にこすりつけるように動いてやると、潜められた笑いが、背骨の辺りになげかけられる。ぐい、と押し込まれ、その動きにあわせ、つかまれたものを掌でこすられる。

奥まで入りこんだまま、小さく抜き差しされる。圧迫感の中に舌や、指で与えられ続ける快感を混ぜ込まれて、感覚が混乱する。

「ん」

かみ殺す声が細い悲鳴のような音になって、鼻に抜けた。

ずるり、と粘膜を擦られる。大きく引き出され、引きとめるように腰が動く。角度を変えて入りこまれる。ぐるりとかき回されると、ぬるぬると濡れた感覚を、繋がったあたりの皮膚で感じる。ぬるり、とか、くちゃり、とか、そういう音が耳を打った。実際にそういう濡れた感覚を、広げられた器官全体で感じている。頭が痺れる。

「ん、ん…、ん」

突き上げられるたびに喉が鳴った。止められない。相手の動きに合わせて、腰を動かす。引きずり出され、突きこまれる快感を貪る。

早くしろ、早く―――

早く、この気の狂いそうな熱から開放して欲しい、と音をあげる。

扉の外から、派手なくしゃみの音。

早く―――

声というよりは、音を無理やり飲み込む。喉が引き攣り、その震えが全身に広がった。

「つらいのか」

と聞かれるから、頷いてみる。

腰を強く引かれた。椅子を抱いていた上半身を、床に下ろして伏せる。腰だけを上げたかたちで交わりを続ける。

 擦れ合う動きが早くなり、手加減なしに入り込まれる。中に引っかかるような感じがあって、そこを何度も擦られると、酷く熱く、ふくれあがっていくような感覚。

床を引っかいていた右手を握りこむ。前にまわった手に、絞られるように付け根からこすりあげられ、強く目を瞑る。眉間のあたりで光が弾け、息を詰める。

「ん、ぐ、うん、ん―――」

目を見開く。がくがくと身体が揺れた。
自分の中にいるものを締め付け、床の上でもがきながらすべてを吐き出す。
ひどく息が苦しい。

「ン…っ」

ラガルトの小さな喘ぎが聞こえ、ずるりと抜き出される濡れた感覚に息が詰まる。そのまま、腿にこすりつけるようにして放ってきた。暖かい液体が脚を伝う感覚。力が抜けて、床に倒れこむ。達したあとの、どうしようもなく気だるい感覚が腰のあたりから広がってくる。

手際よく身仕舞をしたラガルトが、なんとか上半身を起こしたロイドの口もとからバンダナを外す。

「痕は…ついてねえな」

ラガルトも、まだ少し息が荒い。

ロイドは自分の顎の付け根を指で探った。痛くはないが舌が痺れている。

ラガルトが、持った布でこっちの身体を拭ってくる。中に出されなかったから、始末は楽だ。それ終わるのを待って、床に散らばった服をかき集め、ベッドに腰を下ろした。ベッドを使わなかったのも、かたずけが面倒だからだ。扉を開ければ、でかい図体が飛びこんでくるのは間違いないから、きれいに痕跡を消しておく必要がある。

 だるい体を無理やり動かして、服を着込み、長靴を履く。指に軽い震えのようなものが残っていて、金具を留められずに苛つく。

がらり、と窓を開ける音。見れば、さっさと床の掃除を終えたラガルトが、部屋中の窓を開けて回っている。篭った匂いと気配が、木の匂いと風とに入れ替わる。

背を伸ばして窓際に立ち、しつこくまつわりついてくる気だるさを振り払う。

「爽やかだねえ、男前」

いつものにやにや笑い。

その髪が風に吹かれてなびいている。

「そいつを―――」

「ああ」

ラガルトは、風に舞う髪を一まとめにして、紐で括った。

これで、元通り。ラガルトの髪を纏めているもの以外は、だが。

ロイドとラガルトの関係もそうだ。時折、息が触れるほどに近づく時もあるが、お互いに一尋ほどの距離をとって元通りになる。

一瞬だけ、笑みを交わす。

「んがっ」

ライナスの悲鳴。

ラガルトが扉を蹴り開けたのである。

そのまま、つんのめって床に伏せたライナスを飛び越え、疾風の名に相応しい脚を使って全力疾走する。みごとな逃げ足だ。

「くそ、てめえ、待ちやがれ」

ライナスが吼える。扉ごと蹴られて前のめりになった体制を立て直したのだが、すでにラガルトの姿は見えない。

「ったくよ―――見てやがれ、こそ泥野郎!」

ぶつぶつと呟きながら、弟が入ってくる。
窓際、壁にもたれたまま、笑いかけてやる。
ライナスは窓から入る光に一瞬眩しそうに目を細め、互いの温度がわかるほどの距離に近づいてきた。



END 



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