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「扉」 (3)




唇を塞がれ、目を閉じる。

長い指は、立ち上がったものに絡みついてきている。感触を確かめるように力を加えられて、ロイドは眉根を寄せる。触れてくる力を緩めながら、根元まで指の腹を押し付けられ、摩り下ろしてくる。付け根のあたりを気まぐれに探ってくる指にはほとんど力が加えられていない。指の感触というより、ぬるりとした液体の感触が強い。

じわじわと身体の中の温度があがる。

五本の指で頭のあたりを囲むように抑えられ、包むように上下に動かされる。付け根へ向かうときは、ぬめりを押し広げるように、先端へと戻るときは、絞り込むように。何度も繰り返される、女との性交にも似た感触。腰のあたりに、けだるい感じがたまっていく。強く突きこんで放ってしまいたいと、自分の身体が勝手に撥ねあがろうとするのを、なんとか抑えつける。手を伸ばし、ラガルトの上衣を強く掴む。なだめるようにもう一方の手が右肩のあたりを撫でてきた。二の腕のあたりを撫でられ、肘を爪でくすぐられる。

扉の外、ライナスの、靴の立てる音。意識が散る。

緩い刺激に慣れかかってきたところに、ぐい、と掌全体で強く先端を擦られた。むき出しの強い快感がくる。ぬるついた快感に浸っていた体は驚いて撥ねる。合わされていただけの唇は外れ、息を吐き出す。

「は…っ」

声帯の揺らぎが声になって出る。自分の耳にはずいぶんと大きく聞こえて、驚いて身体がすくんだ。

「そのぐらいじゃ、聞こえねえよ」

低く潜められた声が耳朶に吹き込まれる。反射的に身震いするのを見られ、顔を覗きこまれる。

「扉一枚は離れてるからな。まあ、こっから先はどうなるかわかんねえけどなあ」

てめえは、人の上に覆いかぶさったまんま、人事のようにしゃしゃあと言いやがって―――怒る、というよりは呆れる。この男は、黒い牙の中にあって、ロイドやライナスと対等な口をきける、貴重な人種だった。飄々と、人にへつらわず、かといって周囲から浮き上がるわけでもない。

ロイドにとっては、貴重な同年代の友人であり、気のおけない男だ。その延長に時折こういった行為が紛れ込む。たしかに、自分はこの男に甘いところがあるのかもしれない、が、愛だの恋だのといった生ぐさい感情を持っているわけでは無い。少年時代、まだ自分より背の低かったライナスをみそっかすにして、二人で悪い遊びをたくらむ、そんな時間の延長として、こうしているだけだ。

「どうする、その口塞いでもいいか」

「てめえが、そこからどいてくれりゃ済むこったろ」

「つれない。つれないねえ、おまえさん。俺とあんたの仲でさあ」

「どういう仲だよ」

「こういう、仲だろ」

裸の腰骨のあたりを撫でられ、顔を顰める。

ラガルトが声を上げて笑う。

がん、と扉が鳴る。うが、と聞こえる唸り声。

「うるせえ」

ロイドは押し殺すように出した声には、殺気に近いような凄みがあって、扉の外が静まりかえる。

「口を塞ぎな」

投げやりにロイドが言う。

「どっちの口だい」

ちらりと扉に目をやり、ロイドに視線を戻す。

「あっちの躾の悪いわんこにも、口輪でも咬ませとくか」

「やれるもんなら」

「じゃあ、遠慮なく」

あえて論旨を外した会話を仕掛けてくるのは、ラガルトの好む遊びの一つだ。ガキのころから、口一丁で大人を煙に巻いていた。こんな際どいシチュエーションで、あえて身体を交わそうとするのも、この男には遊びの一つなのだろう、と思う。ラガルトと不謹慎極まりないアソビをするのは嫌いではないけれど、うっかりすると、こうして一方的にもて遊ばれるから油断がならない。

ラガルトは髪を止めていたバンダナを外した。たたみ直して両手に持ったそれをロイドの口に咬ませる。首の後ろで外れないように縛る。

「きつくねえか―――大丈夫だな」

指を差し込んで、確かめている。

「しかし、まあ、めったなことじゃあ拝めねえイイ眺めだなぁ。ほとんど犯罪だろ、そりゃ」

いや、犯罪者はてめぇだろうが。声には出せずにそう思う。こんな格好して、馬鹿じゃねえのか、俺は、とも思う。ラガルトを見返す視線は、相当に剣呑なものになっている違いないのだが、相手は気にする様子もない。

「ああ、悪いなァ。途中でほったらかしにしちまって。こんなになってんじゃねえか。すぐによくしてやるからさ」

こっちが口を利けないのをいいことに、ラガルトのほうは、わざとろくでもないことを、耳元にふきこんでくる。耳の中に息がかかるのをいやがって、ロイドが睨み付けてくるのを楽しんでいる。

不安定に腰掛けていた椅子から、抱き下ろされ、身体を返される。椅子の腰かけを抱かされる形になり、後ろから尻を持ち上げられ、軽く足を開かされた。指が入り口近くの皮膚を開くように撫でられる。すぐに、もっと濡れた感じのものが触れてくる。つつかれたあと、ぺたりとおしつけられる肉の感触。

しゃぶられる。音を立てて。わざとやっているのだ。ぴちゃ、とか、ちゅとかいう音が部屋に篭る。後ろから袋を捉えられ、それも唇で挟むようにしてしゃぶられる。

声を殺し、息も殺す。

それでも、鼻から抜けた息が唸るような音になる。身体に震えがくるのを抑えようと、椅子にしがみつくと、重い椅子がわずかに動いて、床と擦れて軋む音がした。ロイドは動きを止める。それを見計らったように指を差し込まれた。入り口のあたりを、ゆるゆると出入りする。濡らされているから、痛みはない。異物に入りこまれる感じは残っているのだがそれも、ぬるぬるした感覚とすり変えられていく。嬲られては、止められるのを繰り返されていた体は、熱くなっていて堪えがきかない。数を増やして探ってくる指に反応して、ひくひくと引き攣る。硬く目を閉じ、継ぎ目なく与えられる刺激をやりすごそうとするが、上手くいかない。さんざんいじられて、我を忘れそうになったころに指が出て行く。

「やっこさんに見せてやりたいねえ。あんたがそうやって、俺に抱かれてるところを、さ」

熱に浮かされた脳みそから、すうっと血の気が引くような気がする。

扉の外に座り込んでいる弟の存在。忘れかかっていた自分に気づく。それをわざわざ思い出させるようなことを言う。意地が悪い。それに、簡単に振り回される自分に呆れて、身体から力が抜ける。崩れそうになっている膝を裏側から掴んで直され、椅子を抱かされ、指の変わりをあてがわれる。今、ラガルトの顔を見たら、きっとニヤニヤ笑っていやがるに決まっている。この野郎、いっそ真っ二つにしてやろうか、と思うことは時折―――今もだ―――あるにもかかわらず、残念ながら、実行出来ずにいる。




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