ファースト・アタック 2

「どうした、腰掛ければ良いのだぞ?」
 天蓋付きのベッドの中に自分の立つ場所はない。しかし天蓋を開け放しておいていいのだろうか……と、悩んでいる様子のジェイルに国王は言う。
「……では、失礼致します」
 足元側の端に座り、居心地悪そうにしている。
「もっと近くへ来い。もしもの時には迅速な対応が必要だ」
 中心よりは少し頭側へ近付くへ移動したジェイルに、では俺は寝る、と声をかけ、国王は眠りにつくふりをする。
 暗殺者の話など真っ赤な嘘だ。あわよくば犯してやろうと思っていた。この日のために毎晩女も男も抱いて技を磨いた。
 昨日たしかにサーシャは妹のような存在だと言ったが、その時の彼の顔はどこまでも優しかった。もしかしたらと焦り、隣国との関係が悪化している今なら不自然ではないだろうと、実行を決心したのだ。
 1時間程過ぎた。
 セーファスは複雑であった。暗殺を用心してか、全く気を抜かない護衛官。それは嬉しい。しかし、手が出せない。
「……ジェイル」
「何でしょう」
 王が寝付いていないことには気付いていたようだ。それが分かった王は、名案を思いついた。
「ジェイル、俺と寝てくれ」
「…………」
 国王の方を振り向き、黙ったまま、真意を探ろうとする。
「俺は、不安なのだ……」
 偉そうにしていてもまだ18歳、自分より9歳も年下のセーファスの言葉を聞いて安堵し、またしても頭に浮かんだ想像を振り払う。
「ご安心下さい、私が必ずお守りします」
 少し表情を緩めて言うと、ブーツを脱ぎ、恐る恐る国王の隣へ横たわる。遠慮して中途半端に間を開けたが、すぐに国王に引き寄せられる。
「俺のことはお前が守ってくれるだろう。だが、お前のことは誰が守る?」
「私は……。…………陛下のためなら、私の命など……」
「俺は不安で仕方が無い。お前がいつか死んでしまうのではないかと……」
「………………」
 いざとなれば命をも捨てる覚悟でこの仕事に就いたジェイルは、大丈夫、とは言えなかった。
「ジェイル、愛している」
 目を見開いた彼の唇を奪う。
「ん、ぅあ……、ふぅっ……」
 こんなことをしている間に暗殺者が来たらどうする、欲情した自分は国王を守れるのか……。ジェイルはその思いで必死に抵抗する。力で敵わないセーファスの拘束は簡単に解けた。
 唇を離し、目に生理的な涙を溜めて荒い息をつくジェイルを見て、セーファスは悲しそうに言う。
「やはり俺では不満か?」
「っ……もし、今、国王の命を……狙う者が、ぁっ」
 言い終わらないうちに下の自身を握られる。
「満更でもないようだな」
「ぅ……んぁ」
 キスだけで僅かに熱を持った、自分でもあまり触れることはないそれを弄られ、快感に負けそうになる。
「くっ……ぅ、あっ、だめ、です」
 先端に爪を立てた国王の手首をつかみ、引き離す。
「……私には、貴方を守る義務があります」
 頬を染め、目に涙を溜め、まだ息も荒いのだが、しかし、そう言った彼は護衛隊長の顔であった。
「安心しろ、暗殺者の話は嘘だ。お前を抱くつもりだった」
「何故そんな……!」
「最初から言うと逃げられてしまうと思ったんだ……」
「…………」
 確かに、言われていたら逃げただろう。国王は本気で嫌がることなどさせない。
「お前の代わりの護衛官が外に立っているのだろう。だから安心して俺に抱かれろ。本当に嫌ならやめようと思っていたが……これだけ感じているのだから問題はあるまい」
「…………!」
 天蓋の外の、声が聞こえる程の距離に、自分の部下が立っている……。声を聞かれたかもしれない、いや、聞かれたに違いない。ジェイル恥ずかしさに頬を真っ赤に染める。
「安心しろ、27歳童貞の隊長がやっと『はじめて』をするのだ! 部下も喜ぶに決まっ」
「っ……!」
 調子に乗って言う年下の青年を心底憎憎しげに睨みつけつつ、その口を大きな手で塞ぐ。セーファスは負けじとその手を両手で掴み、指の間を執拗に舐める。
「ぃっ、……」
 微かな官能を感じ取り力が抜けると、間を詰められ再び口付けをされる。
「お、おやめくださ……ん、ぐっ……」
 下をまさぐられ、上げそうになった声を押さえるため袖を噛む。
「声を出せ。大丈夫だ、外に居るお前の部下には、隊長のファーストキスとバージンは頂くからそこで指を咥えておれと言ってある」
「なっ……!」
「俺と寝ろ。命令だ。男なら潔く犯されんか。服を脱がせてやろうか」
「っ……じ、自分で脱ぎます!」
 命令と聞いて、とうとう観念したらしい。手袋を外し、上着のボタンに手をかける。
「遅いぞ、早くしろ!」
 言っている間に、簡素な寝間着であるとはいえ、もうほとんど脱ぎ去ってしまった国王の身体は細く優美なシルエットを描いているが、嗜み程度には剣術も心得ており、決して華奢ではない。
 しかし、露わになったジェイルの肉体には敗北感を感じた。
「……綺麗だ」
 身長はセーファスより10pほど高く、護衛隊長にふさわしい鍛え上げられた上半身は、まるで彫刻のように美しい。
 下を脱ぐのをためらっている様子のジェイルに痺れを切らし、セーファスは彼を押し倒し、逞しい胸についた飾りに爪を立てる。
「ぁ、くぅ……んっ……」
 ベルトにかかっていた手が無意識のうちに下へと移動する。
「自分で触るのか、いやらしいな」
「んっ……うぅ」
 言われて手をまたベルトへと戻し、早く外してしまおうとするが、快感に震える彼の手はなかなか言う事をきかない。
「俺のを舐めていろ」
 ジェイルの顔の前に、彼の痴態に勃ち上がった自分の雄の象徴を持っていき、セーファスはジェイルのベルトを外す。そして下衣を下ろしてやると、勃ち上がったものが勢いよく飛び出す。
 セーファスはそれを口に含み、執拗に愛撫する。
「ぅ、ん……ぁっ……、っ!」
 程なくして、初めて他人に触れられたそこは慣れない快楽に耐え切れず、セーファスの口の中に精を放つ。
 国王である彼は、逆の経験は数あれど、他人の精を口で受けるのは初めてだ。少々驚きながらも、自分の愛撫で感じてくれたジェイルに愛しさは募る。
 精を口に含んだまま、ジェイルと顔が向かい合うよう移動する。自分の拙い愛撫では達することが出来なかったセーファスに、ジェイルは申し訳なさそうな顔を向ける。
「沢山出たぞ、自分で触ったりはしないのか?」
 言いながら、ジェイルに口付け、彼の放ったものを流し込む。
「ん゙ぅ……」
 あからさまに嫌そうな顔をしたジェイルに微笑ましさを感じる。
 口の端に零れた分を指ですくい、ジェイルの後孔に持っていく。
「ぁ、は、ぅ……」
 硬いそこをゆっくりと解していく。
「ひ、……っああぁっ、ぐっ」
 指が感じる部分に当たったらしい。押さえきれなかった声は外の部下にもはっきり聞こえただろう。羞恥を隠せないジェイルは、もう声を上げるまいと指を噛んだ。
「やめろ、傷ついたらどうする」
 慌てて手を退けさせ、唇を重ねる。
 そして、そのまま挿れる指を増やしていく。
「ふっ、ぅ……!」
 しばらくして、ジェイルに押され唇を離す。
「っ……はぁ…………」
「どうした、こうしていれば声も出ないだろう」
「……息が、できません……」
 思わず吹き出したセーファスに、ジェイルは責めるような視線を寄越す。
「そうか、それは済まなかった」
 鼻ですれば良いとは教えず、ジェイルの後孔に指を差し込んだまま、天蓋を少し開き、少し外側に居た護衛官を追い払う。
「ほら、これで思う存分声を上げられるぞ!」
「いけません、警備が手薄になります」
「人に聞かれる方が良いのか」
「そ、そういうわけでは……!」
 しかし、追い払われた護衛官はすぐに小走りで戻ってきた。
「侵入者だそうです」
「無粋な!」
「隊長、動けますか?」
「……大丈夫だ」
 脱ぐ時とは比べ物にならない速さで最低限の着衣を済ませると、ジェイルは枕元に立てかけていた剣を取る。
「あの様子からするとこそ泥の類であろう。放っておけば良い」
「いけません」
 彼のそういう所が好きなのだが、セーファスはやはり不満げな顔をする。

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