「第1回希望ヶ峰学園定例報告会の開催を宣言するッ!」
 高らかな石丸くんの声を皮切りに、私たちは持ち寄った情報を交換し始めた。
 時刻はおそらく夜の8時。おそらく……なのは、日の光が1ミリも差し込まないこの校内では、時計の針だけが頼りだから。
 集まったのは食堂。朝に居た校舎側とは別に、この学園には寄宿舎が併設されていて、そこにある施設の一つがここだ。

 モノクマに今後の学園生活について説明された後、私たちはしばらく体育館で話し合った。まあ……話し合いというには、一方通行な発言が多かった。
 最初に玄関ホールで顔を合わせた時にも思ったけど、ここにいる人たちはどうも……協調とかそういう部分に欠けるタイプが目立っている。個性の強さイコールそういう事なんだろうか? ……ちゃんと話を聞いてくれる人もいるから違うか。

 とにかく、まずは渡された電子生徒手帳を確認した。みんなの基本的な情報や学園生活を送るにあたっての“校則”が載っていた。校則は、大まかにはモノクマが言っていた事柄だ。本当にこのルールに則らせるつもりなんだろうか……真意は謎だ。
 そして、外に出られる場所がないか学園内を探索することになった。でも、そこで単独行動すると十神くんが言い出した事で、大和田くんと小競り合いが起きかけた。止めに入った苗木くんが大和田くんに殴られ、なんと気絶。“超高校級の幸運”のはずが、とんだアンラッキーに巻き込まれてしまった。
 苗木くんは夜まで意識が戻らなかったらしいから、当たりどころもよくなかったんだろう。ろくに謝らない大和田くんもさすが“超高校級の暴走族”というか……近づくのはちょっとこわい。

 そんなトラブルもあって、探索は協力して行うも全くしないも個人に任せる形となって一旦解散した。
 私はというと、少しだけ出歩いたものの、寄宿舎で自分のネームプレートが掛かった個室を見つけると、引きこもった。一人で考える時間が欲しかったのだ。
 かと言って、現状を何とか出来るようなアイデアなんて出るはずはなく……。次第に空腹を感じて、先に見掛けていた食堂に入った。

 食堂は、寄宿舎住まいの人たちが一斉に集まっても充分足りそうなスペースで、厨房も併設。学校の食堂としては洗練された雰囲気だった。
 吸い寄せられるように厨房に入れば、目の前に食材が山積み。使いきる前にダメにしてしまいそうな量だった。想像よりも凝った調理器具もある。この状態からして、出来合いが出てくる……なんて親切なこともないだろう。
 ――「作れ」と言われている気がした。


 料理を始めると、妙な出来事続きで参っていたのが嘘のように体が動いた。せっかくなので全員分の昼食を用意していると、入れ替わり立ち代りに人が入って来たので都度振る舞った。苗木くんやほか何人かの姿は見えなかったけど、だいたいはお皿を空にしてくれたのでお節介じゃなかった、と思う。
 途中、舞園さんが代わりに洗い物をすると申し出てくれた。どうしようかと躊躇っていると、
「だって灯滝さん、まだお昼ご飯食べていませんよね?」
と言われて、そこで自分が食べていなかった事に気付いた。厨房に立っていると料理第一で、つい他が疎かになってしまう。
「……確かに、食べてなかった」
「やっぱり。だったら休憩もしちゃってください」
「いや、そこまでは」
「いいから代わらせてください、ね?」
 結局私は押し問答に競り負け、舞園さんにお礼を言って少しの間代わってもらった。
 腹ごしらえをすると再び夜まで厨房に篭っていた。今度は夕食作りのためだ。



 そういうわけで、私はろくに探索していなかったことになる。食堂と厨房しかわからない、と正直に話すほかなかった。
 食材は定期的にモノクマが補充してくれるらしいです、と舞園さんが補足してくれた。なんでも私が食事中にモノクマが厨房に現れたらしい。……なんて神出鬼没なクマ。
 ひとまず、食糧については安心できそうだ。補充がなければ皆飢え死にしてしまう。だけど……この学園内に閉じ込められている間は、生かすも殺すもモノクマ次第なのか。あらためて感じると、また気が重くなる。

「……ってことはよ、料理しねぇとマトモなモンは食えねぇのか」
「そう、なるね」
 大和田くんと苗木くん(少し前に目覚めたらしい。よかった。)が言うように、食材だけはやたらと豊富だけど、そのままでは生野菜くらいしか口に入れられない。

「や、料理つったらアンタしかいないよね」
「え」
 江ノ島さんがねぇ? と私に振ると、皆の目が一斉にこっちに向いた。三十の瞳に見つめられ、思わず心臓が跳ねる。
「だな。オメー“超高校級の料理人“だろ? オレだって知ってんぜ? つかさっきも食ったし」
 何をいまさら、と言わんばかりに桑田くんはため息混じりだった。いや、でも、まさか“超高校級のギャル”や“超高校級の野球選手”なんて呼ばれてるような人が私を知っていたとは……。

「では、今後もここでのお食事は灯滝さんに腕をふるっていただくことにしましょう」
「名案ですな。超高校級の料理人たる灯滝実ノ梨殿の手料理を毎日……これは期待せざるを得ないッ!」
「リアルな話、この中でいちばん料理できんのは灯滝っちだろ。うめー飯食えるに越したことねーべ」
 当然のようにセレスさんがニッコリ微笑めば、山田くんも葉隠くんも便乗した。
「その……私は構わないっていうか、任せてもらえるなら作るよ」
 料理はライフワークだから、それくらいはお安い御用だ。
「お前の唯一の取り柄を披露する場があるんだ、むしろ感謝すべきだろう?」
 確かにそうだけど、……十神くんに言われるとどうも、ぐぬぬと奥歯を噛みたくなる。
 精一杯の営業スマイルで乗り切った。……若干引きつってるかもしれない。

「それでは、ここから外に出られるまでは灯滝くんが毎食料理を作ってくれるということで、みんな構わないな?」
「別に、いいんじゃない? 今のところ、混入できそうな毒劇物も見当たらないし」
「ちょっと……ぶ、ぶ、物騒なこと言うんじゃないわよ……!」
 石丸くんがまとめると、賛成の言葉が周りから挙がった。
 腐川さんが苦々しい顔で霧切さんに返しているけれど……そういえば霧切さんは私が調理中に厨房内もくまなく調べていた。そういう危険を考えての事だったのかと今になって納得する。彼女はこんな状況でも冷静で、細かいところまで目配りできる人らしい。
「じゃあ……全員分、ちょうど食べきるくらいの量で用意するよ。好みもあるだろうし、何種類か作ろうかな」
「作ってもらえるだけでも充分ですよ。ありがたくいただきますね。」
 舞園さんの反応が、だいたいの人の総意と言えそうだ。妙な状況になってしまったけれど、料理人として仕事ができるのは嬉しい。悪いことばかりではないかもしれない。

「あっそうだ、灯滝ちゃん! 灯滝ちゃんてドーナツ作れる?」
 突然朝日奈さんが手を上げて、私に聞いてきた。何か、さっきまでと勢いが違う。
「え、うん、レシピは頭のなかに入ってる」
「本当!? じゃあ今度作って! お願い!!」
「い、いいけど」
「やったーー!!!」
「おい騒がしいぞ、黙れッ」
 間髪をいれず喋る彼女のキラッキラな期待の目。これは……大好物ってことか。
 十神くんの苛立たしげな声も全く気にしていない。相当楽しみに思ってるみたいだ。ならば期待に応えなくては。近いうちに作ろう。


「……えーと、料理の話に戻るけど。毎食、人数分を作っておくよ。それぞれ適当な時間に摂るってことで」
「で、でも……料理人さんだからって全部やってもらうなんて、悪いよぉ……」
「ま、この女だけ働かせるワケだしな」
「いや、逆に料理してたほうが落ち着くから。気にしないでいいよ?」
不二咲さんが気を遣ってくれたけれど、本当に料理をしているほうが調子がいいのだ。大和田くんも、もしや気に掛けてくれたのだろうか……まだちょっと怖さが先に立って推し量れない。

「……では他の事は僕達に任せるといい! 君は料理に集中したまえ!!」
「そういう事なら灯滝ちゃんの洗濯物は私が洗っとくよ!」
「ならば我も手伝うとしよう」
「ええっ、それは悪いよ」
「女の子同士だし遠慮はナシだよ! ドーナツ待ってるからね!」
 石丸くんと朝日奈さん、大神さんで話が勝手に進んでしまった。私は好きで料理するだけなのに……。
「あら。すっかり取り引きになってますわね」
「もし良かったら、私にもお手伝いさせてください。お料理でもお掃除でも!」
 セレスさんは止めないし、舞園さんもすっかり受け入れている。もはやそういう流れで、逆らうのはよろしくなさそうだ。お言葉に甘えさせてもらって、いいのか……や、出来るのに人にしてもらうのは落ち着かない。手が空いたらちゃんとやろう。



 ご飯のくだり以外でも、みんなとの話は脱線を繰り返して進んだ。16人もいればまとまりがないのも仕方ない、かもしれない。
 腐川さんの言葉に江ノ島さんが怒って葉隠くんが諌めたり、急に山田くんが興奮しだして桑田くんがキレツッコミしたり……。あれ以来話に混ざれてないけど、私が加わったところで話が進む気がしない。苦笑する苗木くんと目が合って、つられて私もおんなじ顔をしてしまった。
 情報を総合すると、やっぱり私たちは希望ヶ峰学園内に閉じ込められている状態で、この事態を仕掛けた犯人や脱出のための有力な手掛かりは見つからなかった、という感じだった。
 最後にセレスさんが“夜時間は出歩き禁止”のルールを提案したところで、報告会はお開きとなった。


 厨房を片付けて自室に戻ると、まっすぐベッドに突っ伏した。思った以上に疲れていたらしい。気を張っていたんだと自覚する。
 わからない事だらけの状況で、知らない人たちと共同生活をしなければならない。無期限かもしれない。あるいは、コロシアイが起きるかもしれないーー
 そんなの全然現実的じゃない。葉隠くんが言っていたようなドッキリだったら、今すぐにでもネタばらしして欲しい。万が一の確率でもそういうオチだったって方がよっぽどいい。
 でも嘘だったとしたら、窓の鉄板は、あのクマの爆発は、そもそも希望ヶ峰学園を封鎖してまで行う意味は……?
「……だめだ、もうやめよ」
 これ以上考えても仕方ない。切り替える。水が止まる前に、早くシャワーに入ろう。疲れているなら寝てしまおう。明日は朝からご飯の用意をするのだ。
 ここにいる間の役割を全うしていく。シンプルにそう思うくらいが、今の私には丁度よかった。

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