CHAPTER1
『オマエラ、おはようございます。朝です、7時になりました。起床時間ですよ〜!』
チャイムが鳴り、モニターからモノクマが朝を告げた。
夜時間の始まりと終わりは校内放送が入るようだ。これでシャワーが使えるようになり、食堂のロックも解除される。
放送の前から起きてはいたけれど、モノクマのあの声を聞くと、昨日の出来事は現実で続いているんだと自覚させられる。
あまり気にしないように、作業に集中してしまおうと食堂へ向かった。仕込みは済んでいるから朝食は用意するだけだ。
みんなは思い思いの時間に食堂に来て、私が用意した中から種類や量を告げていく。手が離せなかったり長く厨房を離れる時はセルフサービス。夜までにそういう流れを作れたので、明日からは少しずつ効率を上げて手の空く時間を増やしたい。……でないと、朝日奈さんに洗濯物を奪われ、舞園さんがニッコリしながら洗い物をしに来てしまう。
というか舞園さんは……職業的に手を大事にしなくていいんだろうか。肌も荒れるし万が一割ったら危ないし、手慣れていてもついハラハラしてしまう。
今日は(昨日に続いて今日も、かもしれない)ほぼ食堂に居たから、そこで見えた様子が私の知りうるみんなの全てになる。
食事の取り方も十人十色だ。和食や洋食で統一させる人もいれば、好みでちゃんぽんだったり、私がいない時間を見計らって来ていたり、部屋に持ち帰っていたり。
本当に手伝いを申し出てくれる人もいて嬉しかった。まだ気後れしてるところは若干あるけど、何とか馴染んでいけそうな感触を覚えていた。
*
翌日……希望ヶ峰学園に来て、3日目。
食堂で話を聞くに、まだ探索で収穫という収穫はないみたいだった。
今日は私も校舎や寄宿舎を見て回った。明かりも内装も、学校としては異様に思える。保健室や倉庫らしき場所など開かない扉も多いし、ずっと共同生活するとしたらずいぶん不便だ。上への階段はシャッターで塞がれている。ここが開けば屋上あたりから助けを求められないかな、なんて思うけれど大和田くんや大神さんでも壊せないなら違う方法を探す方が早そうだ。
昼食後、朝日奈さんと約束していたドーナツを揚げていると、彼女より先に山田くんが来た。好きなポテチの話を熱弁されたので、明日のおやつに油芋風ポテチでも作ろうと思う。……山田くん用以外はヘルシー路線で。
ちなみに、ドーナツは大成功で半分以上を朝日奈さんが平らげる素敵な胃袋を見せてくれた。それでいて夕食も普通に食べるんだから、スポーツする人って果てしなくカロリーを使うんだろう……そうに違いない。
*
「あっ、アンタも今食べんの? なら隣来なよー」
少し早めに夜ご飯を取っておこうと厨房から出ると、江ノ島さんが手招きしてくれた。大きなテーブルでは、桑田くん、少し離れて不二咲さん、さらに少し離れて大和田くんが食べている。
「ありがと、江ノ島さん」
「なんだよそこ。端で固まっちゃってさあ……こっち来ねーの?」
「いいの?」
桑田くんが私たちを呼んだ。ちょうど食べ終わったみたいで、頭の後ろで手を組み、背もたれに寄りかかっている。
「オレは大歓迎、っつーか華やかなのは悪いことじゃねーだろ? な、大和田」
「あぁ? ……まぁ、勝手にしろや」
「不二咲さんも良ければ、そっち行ってもいいかな?」
「えっ、うん! 一緒に食べよう!」
大和田くんにも不二咲さんにも急に話を振っちゃって悪い気もしたけど、せっかくの機会だ。一緒に食べさせてもらおう。
「桑田なんなの、灯滝狙いなの?」
「やーぶっちゃけここのメンツわりとレベル高いから灯滝でなくとも……って何言わせんだアホ!」
「うーわ、サイテーじゃん」
……江ノ島さんの言葉がみんなの総意だったと思う。
「やっぱアンタの料理ってマジおいしいわ。別格。」
「……だよな。こんなうめぇ飯、初めて食ったぜ」
「本当? 口に合ってよかった」
いただきます、と一口。私がそれを飲み込むより早く、江ノ島さんと大和田くんからべた褒めされてしまった。嬉しいけどこそばゆい。普段は厨房にいて直接言われる事も少ないので尚更だ。
「とっても美味しいよぉ。いつもありがとうね」
ありがとうなのはこちらこそ、だった。昨日今日と、不二咲さんが山田くんや石丸くんと食堂を掃除していたのを見ている。
複数でご飯を食べるのは賑やかで楽しかった。桑田くんが取り留めのない話をして、江ノ島さんがツッコんで、不二咲さんは笑ってて、大和田くんは言葉少なでもちゃんと答えてくれる。希望ヶ峰学園に来なかったら、こんな不思議な組み合わせで話すこともなかっただろう。
「あーそうだ。なんかさ、料理リクエストしてもいいか?」
「食材的にできそうなものなら、何でも作るよ」
「マジで?! 何頼むかなー何個頼んでもいいよな?」
「いいけど、全部一気には無理だよ?」
リクエストがあれば、献立を考えるのが楽になるので大歓迎だ。桑田くんがあれこれ出していると、大和田くんや不二咲さんも考え始めた。
「リクエストか……」
「うーん……考えてみようかなぁ」
「今でなくても受け付けるから、いつでも言ってね?」
そんな話をしていたら、苗木くんと葉隠くんが入ってきた。食べ終わったところだし、彼らのご飯を取り分けに行こう。
「あたしはアンタのご飯なら何でも食べるから、別にいいや」
「あ、ありがとう……?」
「ごちそーさま。じゃね〜」
江ノ島さんの言葉は意外で、呆気にとられてる間に彼女は行ってしまった。
残されたお皿の片付けなんて喜んでするくらいに、最高の褒め言葉だった。