『オマエラ、おは――』
 馴染み始めた朝の校内放送が今日も聞こえてきた、と思ったら部屋のインターホンがそれを掻き消すように鳴った。ずいぶんと早い来客だ。……とはいえ校内放送が終わったら部屋を出るつもりだったので、身なりを気にして慌てることもないのだけど。

灯滝くん! グッモーニンッ! だ!」
「ぐ、ぐっもーにん……?」
 ドアを開けた途端のハキハキとした挨拶に面食らいながらも、オウム返ししてしまう。満面の笑みをたたえて立っていたのは石丸くんだった。朝でもいつもと変わらない様子の彼は……もしかしたら血圧が高めなタイプかもしれない。
「うむ。さすがに灯滝くんは早起きだな」
「まあ……これから朝食の準備するから」
「そう、それで僕は来たのだよ!」
 聞いてくれ、と言わんばかりに輝く瞳が朝から眩しい。

 曰く、みんなで集まり朝食会を開いていくことを伝えるために、石丸くんはここへ来たらしい。
「全員で会食すれば結束力も高まるというものだろう? おっと、そろそろ他の者を呼びに行かなくては。君は準備を頼むぞ。楽しみにしていてくれたまえ!!」
 ハッハッハ! と笑い声を廊下に響かせながら石丸くんは去っていった。私が返事をしたのも聞いたかあやしいほどの早さで……。
 嵐のような出来事に呆気にとられてしまったが、気を取り直すと私も慌てて部屋を出た。皆で集まるのなら、なおさら早く厨房に行って準備をしなくては――。



 石丸くんの呼びかけの甲斐もあって、(集まり終わるまでにはかなり掛かったけれど)初の朝食会は無事全員集合した。渋々なテンションで来た人たちも、食事が始まるといくらか態度が柔らかくなったように見えた。
 全員が食堂に集まったのは最初の日の夜以来だ。あまり顔を見ていなかった人もいて少し安心した。
 どうやら私は、この奇妙な共同生活をしているというだけで連帯感を覚えてしまったみたいだ。まだ仲が良いとまでは言えないような人たちなのに、ただ一緒にご飯を食べるのがこんなに心に影響するのかと驚いた。

 みんな食事が済んだ頃合いで、私は洗い物をしに厨房へ行った。なんで今、と引き止められたけれど、空の皿がたくさん見えると洗いたくなるのは下積み時代で染み付いた習慣のようなものだった。
 食後にと用意したお茶を置いておいたから、一服したらみんな解散するだろう。
 洗い物途中で厨房にモノクマが現れたりもして少し遅くなったし、人数も減っているに違いない……と思って戻ったのに、何故か全員残っていた。

「あっ灯滝ちゃんおかえりー」
「……あれ? あれからそこそこ経ったよね……?」
「そうね。でもちょっと興味深い話題になったものだから」
 朝日奈さんに隣に来るよう促されて席につく。興味深い話題、のところで霧切さんは、少し不敵に笑った。

「フフフ……今北さんにはこの僕が教えて差し上げましょう。ズバリ、“ジェノサイダー翔”について語っていたのです!」
「ジェノ、サイダー、ショウ?」
「あー。これ変換うまくいってないやつだべ」
 ビシィ、と効果音が聞こえてきそうなトーンで山田くんが言ってくれたのに、私はイメージすらできなかった。……葉隠くんの言うとおりだ。

 ジェノサイダー翔とは、死体近くの壁面に“チミドロフィーバー”の血文字を残す超猟奇的連続殺人鬼、だそうだ。申し訳ない気持ちになりながら説明を受け、やっとその存在を理解した。
 今巻き込まれている事態が、ジェノサイダー翔の所為かはまだ不明だ。でもこんなに大掛かりな事が起きているのに、警察が動かないわけがない――。みんなの話を追いながら私は頷いていた。

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