CHAPTER1
突然、全員がいる食堂にモノクマが現れた。しかもごく自然に会話に入り、「警察に助けを求めるなんてベタすぎる」「そんなに出たいなら殺しちゃえばいい」などと煽る。
異分子の介入に、みんな敵意を向け……いや葉隠くんだけはモノクマの“演技”に爆笑して感心していたけど、とにかく空気は一変した。
学園の外の映像を見せたいと言って、モノクマはすぐ引っ込んだ。
映像を見る場所と言えば……。大和田くんに使い走りされるような形で苗木くん(と一緒に行った舞園さん)が視聴覚室を見つけ、食堂に残っていた私たちを案内してくれた。
そこにあったのは個人個人に宛てられたDVDと、おあつらえ向きの個人用モニター。私も自分の名が書かれたそれを取り、再生してみた。
映ったのは師匠と何年も過ごした厨房。いわゆるビデオメッセージで、師匠と同僚たちが私を励ます言葉を残して手を振っていた。……だが、それで終わりではなく、徐々にノイズが増えて画面が切り替わった。
私の拠り所が、師匠の居るあの厨房が、無残な廃墟になっていた。更には、師匠は……――
『元・超高校級の料理人でもある、灯滝さんの師匠の身に一体何が……? ――正解は卒業の後!』
バラエティ番組のようなふざけたテロップが画面に広がって、DVDは再生を終えた。
「…………」
言葉も出なかった。これが冗談で作ったものなら、怒りを覚えるほどの悪趣味だ。すでに気分は最悪だった。
「いやあああああああっ!!」
悲鳴にハッと我に返る。長い黒髪とスカートが出口で揺れ、人影は去った。……舞園さん、だった。
周りを見れば、誰も彼も顔面蒼白で強ばっていた。すでに話し合っていた人たちも、数人。でも、舞園さんの錯乱具合は群を抜いていた。
「ボク、捜しに行ってくる!!」
放っておけない、と苗木くんは舞園さんの後を追っていった。それに続く人、ただ自室へと戻る人がまばらに部屋を出て行く。私は、というと、茫然とするばかりだった。
嘘、でっち上げ……そうは思えない真実味が、そのDVDにはあった。
廃墟に転がっていた時代遅れのスライサーは今や一点もののはずで、師匠が普段隠していた切り傷の痕も、その腕に見えた。それらは……半端な知識じゃ用意できない。
それからは、自分の動揺を鎮めるだけで精一杯だった。
舞園さんをはじめ、みんな私と同じようなものを見せられたのだろうか。じゃあ、全員の大切な存在に何らかの危害が……? なんて、考える余裕はその時にはなかった。
一人、また一人と居なくなっていく視聴覚室を私も出た。自室に帰っても、何もする気になれなかった。
時間はゆっくり過ぎた。昼食のことを考えなくては、と思うも正直食事どころではなかったし、あの様子ではみんなも同じだろう。
事実、食堂に入っても誰もいなかった。料理中も誰も厨房に来なかった。少なめに昼夜分を見積もり、持ち帰りやすいものを揃えて、私は再び自室に戻った。