CHAPTER2
葉隠と灯滝が倉庫から出ると、見計らったようなタイミングでモノクマが現れた。
「わっ」
「おわ、モノクマじゃねーか」
相変わらずどっから出てくんだべ、と葉隠は話し掛けた。隣の灯滝は驚いて、抱えたダンボールがずり落ちていた。
モノクマはそれには答えず、二人の前で小首を傾げる。
「なんかさ、二人ともずいぶん長いこと中にいたみたいだけど、一体何してたの?」
「何って……なにも」
「うぷぷ……嘘ついちゃって。ボクは見てましたよ、こんな狭い倉庫でのドッキリハプニング……」
灯滝の顔が一瞬強張った。やましいことなど何もなかったのに、リアクションは心当たりがあるそれだ。
「ありゃ。じゃあオメーにはバレちゃってるわけ?」
「監視カメラが見えなくなってからは妄想でカバーしたよ。敢えて中に入っていかなかったボクって、とっても空気を読めるクマでしょ?」
エッヘン、となだらかな胸を反らすモノクマに、灯滝は「助けに来る選択肢はやっぱないんだ……」とごちた。何せモノクマは“人が殺されても誰かが見つけるまで放置する”のだ。当然といえば当然だった。
「落ちてきた資材から灯滝さんを守る葉隠くん……見つめ合う二人に芽生える感情……そして湧き上がる思いのままに二人は……ああっ、あそこでナニが……ッ!」
モノクマはハァハァと実際に呼吸器官があるかのような音を発して目を細める。灯滝は廊下の左右を忙しなく確認した。こんな場面を見聞きされたら、根も葉もない噂になりかねない。
「うんうん。そんくらい期待するモンだよな。」
「いや、それねつ造だからね……?」
腕組みをして頷く葉隠の落ち着きは、年の功か、経験か。
「ま、ヒミツにしておいてあげるよ……うぷぷぷぷ」
「灯滝っちの為にもひとつ頼むべ。期待してねーけどな」
「だから意味深にするのやめて、ていうか葉隠くんまで意味深に加担しないで」
「そんなに叫ぶとホントに人が来ちゃうよ?」
モノクマの言葉に、声が大きくなっていた灯滝はハッと口を抑える。
灯滝に抗議を言わせる間を与えないまま、言いたい事は言いきったモノクマはうぷぷぷと笑いながら引っ込んでいった。
「モノクマ……ただからかいに来たのかな」
「監視カメラが見えなくなった憂さ晴らしかね? まあモノクマに興味はねーべ」
「葉隠くん、モノクマに乗ってなかったっけ」
「おちょくりに来てるヤツの欲しいリアクションしても、エスカレートするだけだべ」
「……仰るとおりでした」
意外にも落ち着いた対応をした葉隠に、灯滝は釈然としないものを抱えつつ感心せざるを得なかった。