十神くんと腐川さんに約束した手前、日中に食堂には行けなくなったので強制的に時間が空くことになった。……さて、どうしよう。やる事なく、手持ち無沙汰になると落ち着かない。
 部屋にいても仕方がないので、私は探索以来行っていない2階に行ってみることにした。図書室に行って本を探すのもいいかもしれない。

「あっ灯滝ちゃん。なんか用事?」
「ううん、暇ができたから何となく図書室行こうかなって」
「だったら一緒に泳がない!? 気持ちいいよ! すっごく!」
 階段を上ろうとしたところで朝日奈さんに会い、激しくプールに誘われてしまった。泳ぐのはいいんだけど、ちょっと問題はある。
「んーでも、水着無いから……」
「私も無いよ! だけど服でも泳げるじゃん! 泳ごうよ!」
「えっ……」
 服のまま泳ぐとは……朝日奈さんの泳ぎたさは相当だったらしい。……でも当然か。彼女は“超高校級のスイマー”だ。私だって厨房を見つけたその日に料理をしていたんだから、呼吸をするように泳ぎを求めるような感覚は何となく分かる。

「あっ、いくら私だってこのまま泳いだりはしないよ? 替えの服とか用意してるから。灯滝ちゃんも何かあるよね?」
「替えの服……うん、あるある」
 この前倉庫で手に入れた服が役に立ちそうだ。エプロン……じゃなくてジャージを使おう。
「だったら決まりだね。行こう! 泳ごう!」
「待って、ジャージ取ってくるから先に行ってて」
「わかった! 泳いで待ってるからねっ!!」
 勢い良く階段を駆け上がって行った朝日奈さんを見送る形になった後、私はいったん部屋に戻ってから水練場に向かった。



 水練場周りは探索の時に詳しく見た場所ではなかったので、更衣室の電子キーシステムや充実のトレーニング機材に特級学園の片鱗を感じつつジャージに着替えた。
 希望ヶ峰学園のプールは、朝日奈さんと私だけで使うには贅沢なほどに大きかった。学園の地図的に見れば体育館の真上がここにあたるから、言わずもがなではあるけれど……応援席まで設置されている屋内プールなんて、私が以前いた学校にはなかった。

 既に泳いでいた朝日奈さんの泳ぎは、見惚れるくらい綺麗だった。綺麗なだけでなく、おそろしく速かった。普段の可愛くてよく食べるイメージとは一変し、才能が活きる場ではさすが記録保持者というオーラを感じる。
 共同生活をしていても、みんなの才能の凄さを目の当たりにする場面はなかったので、彼女の姿は鮮烈だった。(……数日前の占いは結果がいつ出るか不明だから、今は微妙としかいえない。)

 朝日奈さんを横目に、私も素人なりに楽しんで泳いだ。水を吸ったジャージは重く、水着の感覚と同じようにとはいかなかったけど、以前の学校で体験した着衣水泳を思い出して徐々に慣れていった。
 朝日奈さんが一泳ぎしてからは、彼女にに泳ぎのコツを教わったり、軽いゲームをしたり、久しぶりに体を動かして過ごした。たまには体力作りもしておこう……と思ったのは、水から上がった時に予想以上の疲労を感じたせいだ。料理人も体が資本だ。部屋と食堂の往復だけでは運動不足になる……気をつけよう。



「あ、TORNADOだ」
「とるねーど?」
「うん。アイドルグループのトルネード」
「あんまりアイドル系のテレビ見ないから、わかんないや」
 二人で更衣室に戻り着替えていると、壁のポスターに目が行った。朝日奈さんは知らなかったようで、困り笑顔で首を傾げていた。

「私もそうなんだけど……私がいるお店でロケしてた事あって、この人会ったなーって」
「えっ! ロケってすごいじゃん!」
「私の師匠、料理界のトップだから……」
「そっか、そうだよね! で、話とかした?」
 トルネードの人が来たのは、数ヶ月くらい前だった。料理を作って出して、まではいつもの仕事と同じだったのに……ロケの終わりに呼ばれたんだっけか。
「まさか。自分に話せることなんて無い、って丁重にお断りしたよ」
「断ったの!?」
「仕事に戻ったよ。握手だけして」
灯滝ちゃんに取材したかったんじゃないの?」
「そういうのは師匠が受けるものだし……話すより料理作りたいし」

灯滝ちゃんも好きなことに一直線タイプかー」
 “も”というのは、朝日奈さん自身もそうだってことなんだろう。確かに、見ていてわかる。ただ、彼女はそれが外に向くタイプで、私はどちらかと言うと内向きだ。
「希望ヶ峰学園に来る人って、一つのことを追求している人が多いんじゃないかな」
「むー、そうかも……。でもさ、今いるメンバーだけでも、すっごいキャラ濃いよね」
「そうだね……」
 その道のエキスパートとは言え……いや、だからこそなのか。みんなが個性的すぎた。それで意見の食い違いや衝突が起こるのは、むしろ自然かもしれない。
 一致団結がこの異常事態の解決に最良かはわからないけれど、共同生活する中ではいざこざなく過ごしていきたい……というのが本音だった。


 水練場を出て、寄宿舎に入ったところで朝日奈さんと別れた。時計を見れば、そろそろ夕食の準備に向かえそうな時間だった。
 プール上がり独特の疲労感が心地良く、体をまどろみに誘う。このまま眠れたら最高……だけど、それは夜にとっておいて、一息ついたらご飯を作りに行かなくては。
 ……今日は早く眠りにつけそうだ。ぐっすり寝て、いい明日を迎えよう……なんて、少しポジティブになれた気がした。

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