『――至急、体育館までお集まりくださーい。えまーじぇんしー、えまーじぇんしー!』
 夕食の片付けと明日の仕込みを軽く済ませ、自室でシャワーを浴び終えたところでモノクマの校内放送が入った。
 モノクマからの招集でいい思いをしたことは、今のところ一度もない。せっかくいい気分のまま眠れると思ったのに……だけど行かなければ何をされるかわからない。
 気乗りはしなかったけれど、体育館へ向かう。……それには急いで服を着なければいけなかった。


 体育館へ到着すると大方集まっているところで、十神くんが不快感をあらわに怒っていた。
「遅いぞ。……しかも揃いも揃って、お前たちが臭うのは何なんだ!?」
「あー……ごめん」
「ほ、ほんとよ……ッ! 白夜様の前では呼吸を止めなさいよ、あんたたち!」
「それ俺らに“死ね”って言ってるべ……?」
 食べ終わって数時間、歯磨きをし損ねていた状態では……致し方ない。こういうニオイは、食べたり扱っている側はどうしても鈍くなる。食べていない十神くんと腐川さんには一際強く感じているんだろう。急に呼び出したモノクマのせいにしたくなる。
「腐川、お前の臭さは別ベクトルで異彩を放っている。金輪際近寄るな」
「へっ……!?」

 腐川さんがうろたえているうちに全員が集まり、モノクマが見計らったようにステージ上に現れた。
「みんな揃ったね。それじゃあ……ってオマエラ臭くない? めちゃくちゃニンニク臭くない?」
「仕方ありませんわ。そういう物を食べたのですから」
「セレスちゃん……強い……」
 堂々とモノクマに返すセレスさんが、眩しく映る。朝日奈さんは尊敬の目で彼女を見ていた。
「とっとと終わらせろモノクマ。この空間に居るだけで死に至る」
「おや。死に至るまで十神クンを見届けるってのも、それはそれで面白そうですなあ! ……まあ今回は準備して来ちゃったからね、そっちにしておくよ」
 しばらく鼻をつまむ仕草でコロコロと動き回っていたモノクマだったけれど、ようやく本題が始まるようだ。


 モノクマが私たちを集めたのは、次のクロを生み出すべく、新しい“動機”を与えるためだった。
 取り出したのは、全員の名前が書かれた封筒。律儀に配ることもなく、体育館の床にばら撒かれた。中身の確認を促された私たちは、自分の名前が書かれたそれを拾い、入っていた紙を読んだ。
『替えの効かない高級食材で大失敗。責任は師匠が肩代わり』
「――っ!?」
 誰にも知られたくない、恥ずかしい思い出や知られたくない過去。それを外にバラされたくなければ、24時間以内に誰かを殺せ。――モノクマはどうだと言わんばかりに煽り立てた。
 殺しが起きれば、たとえクロ以外でも秘密は公開されない。でも、クロが出ない場合は……世間に知られる事となる。

「でも……こんな事の為に……ボクらは人を殺したりしないぞ……!」
 苗木くんが強い決意を言い放った。石丸くんも「この程度の事で殺人なんか起きるはずがない」と同意し、モノクマは思い描いたリアクションが来ないことに肩を落とした。
「はぁ〜あ、これじゃ殺人は起きないんだって! 残念、残念……」
 24時間後に秘密をバラして自己満足する、と去り際に残し、モノクマは引っ込んだ。
 モノクマの脅しはハッタリではなく、たぶん時間が来ればその通り公開されてしまうんだろう。
 数日前のDVDの時もそうだったけれど、どうしてか黒幕は私たちのプライベートをよく知っている。私宛に書かれていた内容は、師匠とその当時に厨房で仕事をしていた数人しか知らないはずのものだ。そのレベルの秘密を人数分揃えているとなると……本当に黒幕は大組織あるいは巨大な権力者、なのかもしれない。


 モノクマがいなくなり、周りでは、この動機では人殺しは起きないだろうと楽観的な意見が交わされていた。
「いっその事、さっきの秘密とやらをここで告白し合うのだ!! そうすれば、もう動機の心配なんてなくなるしな!」
 石丸くんの発言は、まずここだけで秘密を共有すれば、更に外部へ公開されてもショックを軽くできるというのも踏まえているんだろう。

 ただ、モノクマの用意した内容は……私も簡単に人に言うのは躊躇われるものだった。
 自分の未熟さで取り返しの付かない失敗をし、師匠に迷惑を掛けた過去。話していい気分になんてならないし……本音を言えば、今知っている人以外誰にも知られたくない。
 みんなが話すなら自分の内容を話しても構わない、そう言う人もいたけれど……大半は「話したくない」という意見だった。
「で、でも……このままじゃダメだと思うから、後できっと話すよ……頑張って……強くなって……」
 不二咲さんの顔付きは真に迫っていて、それだけ覚悟が必要な内容なのかと横で息を呑んだ。
 誰だって話したくない過去くらいある。暴くことに黒幕は何を感じるんだろう……? それとも……知られたくなさから、殺人が起きると確信している?

 秘密の話し合いはやめ、世間に秘密をバラされる覚悟を決める――そう石丸くんが念を押し、夜時間の校内放送が流れたところで私たちは解散した。
 夕食の時の和やかさなんて、欠片も無くなってしまった。いい出来事があるとモノクマは必ずと言っていいほど水を差してくる。“絶望”が見たいと、いつかに言っていたのは……こういう気分の上げ落としからも得ているということか。


 部屋に戻って、ベッドに突っ伏した。またも生まれてしまった不安と憂鬱。消えてしまえばいいのにと、かぶりを振った。
 誰かが死ぬことなんて考えたくない。だったら知られたくなくとも、自分の過去の秘密はバラされる。周りが、外の人がどんな反応をしようとも、受け止めなければ――。
 明日のその時までに、心の準備ができるように……そう願って、眠りについた。

←BACK | return to menu | NEXT→

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル