灯滝さん、おはようございますぅ」
「!!?」
 振り返れば、奴がいた。
「起きちゃってるんだもん。つまらないなぁ」
「な……なに、モノクマ、なんで来たの」
「今日は趣向を変えて、ボク自らモーニングコールしてるんだよぅ」

 モジモジと体をよじり、かわいこぶるモノクマ。時計を見ると、間もなく朝の校内放送の時間だ。
「食堂は開けたから、ご飯作るならご自由に。でも……そんなことしてる場合じゃないかもよ? “何かあった”みたいだし……! それじゃあ他の人のところに行ってくるね〜うぷぷぷぷ!」
 それだけ言って、モノクマは引っ込んだ。
 内心、物凄くびっくりした。突然出てくるのは心臓に悪い。……目が覚めてモノクマがいるほうが、もっと心臓に悪いか。みんなそうやって起こされるのかと思うと……私は少しマシだったかもしれない。



 モノクマが言い残した“何か”については引っ掛かったけれど、これからみんながモノクマに起こされるなら食堂にいたほうがいいと判断して準備をしながら待つことにした。
 モノクマは律儀に一人ずつ起こしに行っているのか、今日は石丸くんが一番乗りではなかった。早くに来たのは、朝日奈さん、大神さん、珍しく葉隠くん、そしてもっと珍しいことに十神くん。
「十神くん……朝食会に参加するの……?」
「俺は食事に来たわけではない」
「そうだよね。了解」
 違うだろうとは思っても、食事の分量的な都合もあるのでいちおう聞いてみた。今の十神くんとは残念だけど相容れない。

「じゃあなんで来たのさ」
 尋ねた朝日奈さんを無視し、十神くんは端のテーブルに一人掛けてコーヒーを飲んだ。答えたくない内容にはこうなるということか……。
「なんなのあいつ、ムカツク!」
「まぁまぁ……」
 葉隠くんがなだめようとしたところで、慌てた様子の苗木くんが食堂にやって来た。彼もモノクマに不吉な話をされたようで、話題はすぐにそちらへ向いた。


 他のみんなは食堂に集まるよりモノクマの言う“何か”を探りに行ったか、あるいは――。
 昨日に懸念を知りつつ指摘しなかった十神くんを朝日奈さんが追及しても、これは蹴落とし合うゲームなんだと悪びれもしなかった。不敵に笑う姿は異様で、薄ら寒く思う。
 悪い予想が当たるまいと、私たちは6人で手分けをして調べることになった。寄宿舎は大神さんと朝日奈さん、1階校舎は葉隠くんと私、2階校舎は苗木くんと十神くん。

 食堂を出てすぐ大神さん・朝日奈さんと別れると、十神くんは単独でスタスタと先を行ってしまったので、苗木くんは途中まで私と一緒に葉隠くんの“十神くんは洗脳されている説”を聞きながら校舎へ向かうことになった。
「私は教室から調べるから、葉隠くんは体育館側から調べてみてくれるかな」
「おう。んじゃココらは頼んだべ」
灯滝さんよろしくね」
「で、だ。苗木っち、占いと洗脳は全く別ジャンルだべ! そんなうさんくさい非科学的な――」
 ……私が最初に抜けたせいで、苗木くんは葉隠くんの話に付き合わされることになってしまった。階段までの辛抱だ苗木くん、そしてゴメン。心の中で謝って、私は1-Bの教室に入った。



 結果から言えば1階に“何か”はなかったが、2度目の死体発見アナウンスが流れた。
「ああ、灯滝くんっ! 2階だ、女子更衣室で、不二咲くんが……」
「……わかった、連絡ありがとう石丸くん」
「即刻現場へ向かってくれ。僕はまだ伝えに行かねば……!」
 階段側から血相を変えた石丸くんが来たと思ったらまくし立て、早足で抜けていった。
 死体発見アナウンスの数分前に「“捜査”の為にロックを解除してある」という校内放送が入ったのは、現場が更衣室だったからのようだ。
 2階への階段に近い場所で捜査していた葉隠くんは、すでに連絡を聞いて向かっているだろう。石丸くんの指示通り、現場へ急行した。

 女子更衣室に辿り着いた時、すでに扉は開いていた。そこで……不二咲さんは頭から血を流し、両手首をトレーニング器具に縛り付けられ、磔のように吊るされていた。後ろの壁面には、“チミドロフィーバー”という真っ赤な血文字。
「ふ、じさき、さん……っ」
 凄惨かつ衝撃的。死んでいる、だけではない……恐ろしく異様な光景だった。


 大方集まると、十神くんは不二咲さんの状態と後ろにあった壁面の文字に注目して、犯行が“ジェノサイダー翔”の模倣あるいは本物の可能性を示唆した。確かに、数日前に話していた特徴と一致する。
「うううううそ……どうして……どおしてぇぇぇええええッ!!」
「倒れたべ! しかも、確実にマズイ音がしたぞ!」
「ふ、腐川ちゃん!」
 遅れて来た腐川さんはひどく混乱した様子で、不二咲さんの姿を見て卒倒した。朝日奈さんが駆け寄り揺り起こそうとする。
 腐川さんは血を見ると気絶してしまうと言っていた、と山田くんが思い返した。現状は、まさに当てはまる状態だった。

 朝日奈さんの懸命な呼び掛けに、腐川さんは飛び起きた。でも、彼女の様子はおかしかった。
「あ、死体だ! おいっ、そこ死んでるぞ! ゲラゲラゲラ!」
「やっぱ……頭を打ったのがマズかったべ……」
 目はうつろ、動きはデタラメな俊敏さを見せ、根明で狂気を感じる口調。明らかにいつもの彼女とは違っていた。
 異常な腐川さんを朝日奈さんと石丸くんが連れ帰ることになったところで(山田くんの申し出を朝日奈さんは何故か無視して)、十神くんは捜査を急かすように現場の見張りを決めた。
 しょせん血は液体、死体は物と言い放ち、いい加減に慣れろと見下す十神くんの姿もまた、私には異常に映った。


 ジェノサイダー翔犯人疑惑を考慮してか、モノクマは『同一のクロが殺せるのは2人まで』という校則を追加した。1人でたくさん殺してしまうとすぐに終わってしまう、でもミステリー的に“連続殺人事件勃発”という響きは捨てがたい。身勝手な理屈で、この事件が続いてしまう可能性が残されてしまった。
 もとより殺人事件が起こってしまった段階で、私たちの命は危機的状況だ。クロを突き止めなければ、クロ以外が死ぬのだから。

 かくして、捜査が本格的に始まった。見張りは前回と同じく、大神さんと大和田くんが請け負ってくれた。
 十神くんは苗木くんの前回の手腕を買ったようで、俺の捜査に協力させてやると一方的に苗木くんを助手扱いして現場を見ている。
 霧切さんは死体にベタベタと触れて調べている。ガッツがあるというか……なかなかできるものではないと思う。少なくとも私にはまだ無理だ。


「おや、灯滝っちは食堂に戻らんの?」
「えっ」
「俺はとりあえず飯食って、落ち着いてから捜査することにしたべ。」
「こんな時に呑気ですわね」
 飯担当は戻るんじゃねーのか、と葉隠くんが私に尋ねた。セレスさんがチクリと返しても、葉隠くんはスルーだ。

「腹が減っては何とやらだべ。それにほら、ホトケさんは逃げねーし。何つったって、死んじまってんだからな!」
「それは確かに一理あるな!」
「……悪意なき無神経もまた悪しきなり……」
 大神さんの静かな呟きは、葉隠くんにも石丸くんにも届かない。
 葉隠くんはさっきまで、またこんなのは嫌だと喚いていたはずだ。繊細と無神経の境界線が近しいのか……どこでどうスイッチが変わるのだろう。

「朝食は作ってあるから、ご自由に……なんだけど、ううん……」
 前回のようにみんなに捜査を丸投げするわけにはいかないだろう。不慣れなのは全員だ。一度甘えたのだから、今回はしっかりしなければ……。
「……とにかく俺はここから離れたい。不二咲っちのこんな姿を見続けるのはつらいべ」
「…………」
 心情的には私もその通りだった。

 迷っている間に、朝日奈さんと石丸くんは腐川さんと共に寄宿舎へ向かっていた。セレスさんや山田くんも、別の部屋から調べようと更衣室から出ようとしている。
「……私も、いったん食堂に行って……ちょっと考える」
「おう。んじゃ朝飯の用意頼むべ」
 ここでずっと何もしないでいる方がよくないだろう。何者かに殺されてしまった不二咲さん……真実を暴くしかないのなら、その覚悟のために私の“ホーム”に向かっても悪くはない、はず。とにかく行動を始めなくては。

←BACK | return to menu | NEXT→

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル