話が盛り上がってきたところで水を差すようなことをしてしまったものの、時間も時間だろうと湯船の女子会はさっくりと切り上げられた。結果的には大神さんを救った……のかもしれない。
 幸い私は湯あたりとまではいかず、気持ちよく浴場を後にすることができた。
 大浴場から脱衣場に戻ると、湯船での会話とは打って変わって、黒幕やモノクマの話になった。
 今までのパターンからして、モノクマは私たちが交流を深めると決まって“動機”を突き付け揺さぶってきている。ということは、近いうちにまた何か仕掛けてくるのかもしれない。
 いつ何が来てもおかしくない――心構えを忘れないようにと肝に銘じる。
 お風呂の気持ちよさだけに流されず、少し気を引き締めて、私たちは食堂に向かった。

 食堂では、先ほど脱衣場の外で別れた男子3人が待っていた。山田くんは上機嫌で、葉隠くんはいつもどおりに見える。苗木くんは何となく落ち着かない様子……だった。
「ずっと食堂に居たの? 結構待ったでしょ……」
「そ……そうでもないよ。3人で話したり、少し洗い物もしてたんだ」
「あー、ありがとう苗木くん」
「僕は今日の素敵な出会いによる多幸感に包まれておりましたので……時間なんていくらだって潰せますよ、フフ……グフフフフ……」
「風呂に限らず、女の用事は何だって長げーもんだべ。男は男でテキトーにしてるべ」
 成り行きとはいえ、ただただ待機をしていたら長い時間だったはずだ。誰かしら機嫌が悪いだろうと思いきや、男子は大人の対応だった。

「お風呂、気持ちよかったよ。男子も入ってくるといいよ! あとさ、これから男女日替わりで入るとか……やらない?」
「それは……例の件で却下せざるを得ないわ」
 ……ここまで言えば分かるわね、灯滝さん。そう霧切さんに目配せされ、脱衣場ロッカーにある存在――アルターエゴを思い出す。
「そ、そうだったね……。もちろん例の件優先で」
 何かあった時に全員が集まれる状態でないと困るだろう。今回はイレギュラー、あるいはその回避のためにお風呂に入ったに過ぎないのだ。

 みんなに飲み物でも、と用意をした頃合いで、脱衣場で予想したとおりにモノクマが現れた。例のごとく体育館に集まるように告げられ、私たちは辟易しながらも移動した。……男子のお風呂はしばらくお預けになりそうだ。





 8人で体育館に行くと、十神くんとジェノサイダー……ではなく腐川さんが既に来ていた。腐川さんは気絶かクシャミをすると人格が入れ替わるらしい。迂闊にクシャミができないなんて、不便な体質だ……。
 二人から毒舌を浴びせられているところに石丸くんも来て(モノクマに連れて来られたのかもしれない)、もうお決まりになったパターンでモノクマが壇上に飛び出た。
 モノクマはみんなからの敵意の目も華麗にスルーし、今回の“動機”をバラバラと積み上げた。
「ひゃっくおっくえーん!!」
 壇上に大量の札束を出し、埋もれて見えなくなったモノクマは前に出た。
 北風だけではなく、今回は暖かい太陽を――。次のクロが卒業した場合は、“金”という分かりやすいプレゼントをすると告げ、札束とともに引っ込んでいった。

 100億円。十神くんは「少なすぎる」、葉隠くんは「実感湧かねーし」というその金額で、たった一人の“卒業”を目指す人が出てきてしまうんだろうか。
「お金なんかの為に仲間を殺す人なんて……いないよね……?」
 朝日奈さんの不安げな声に、腐川さんはお金に困ってる人を探そうと手当たり次第に聞いた。
「私は……自分の仕事の対価で得た報酬で充分だよ。例え少なくとも、それ以上は要らない」
 私の他、セレスさんや山田くんが生活に不自由していない、金には困っていないと言っていても……何らかの切っ掛けで殺人が起こる状態であるのは否定できなかった。大和田くんと不二咲くんの一件のように……。

 話の途中で“夜時間”を告げる校内放送が入った。……今日はなんだか時間が過ぎるのが早い。
 十神くんと腐川さんが早々に去った後、霧切さんは私たちに“例の件”――アルターエゴ保護のために部屋のドアを開けておくという話をもう一度言った。襲撃されたら返り討ちにするかもしれない、と脅しも加えて。
 ここまで言って霧切さんに殺しを仕掛ける人は居なさそうだ。でも、私たちに可能性があるように、彼女に来る可能性もまたゼロではない。
「ありがとう、霧切さん」
「アルターエゴのためよ」
 顔色一つ変えずに言う強さに敬服する。予定通り、霧切さんに任せるしかなかった。

「いいか! 金の事なんか考えんじゃねーぞ! わかったら、解散だべ!!」
 ……でいいよな、と葉隠くんは石丸くんに確認を取る。無言の彼の内なる声を聞いたかどうかは定かではないけど、同意見とみなしていた。いつもの石丸くんだったら……きっとそう言うだろう。
 一人体育館から出ようとしている石丸くんは、ますますやつれたように見えた。
 残っていたメンバーもそれぞれの部屋に戻っていく。私も後に続いた。


 閉じ込められた中での学園生活は、毎日少しずつ変化していく。悪いことばかり目についてしまう中でも、いいことだってある。
 仲間と打ち解けることは決して悪いことではないはずだ。そのせいでモノクマが動機を投げてきたって……きっと。

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