昼時。大方の片付けが終わった私は、厨房の監視カメラの上を柄の長いホウキで撫でていた。突付いて壊すわけではないので、モノクマから咎められることはないだろう。
 こんなことをしているのは掃除のためではない。……明確な目的があった。
灯滝さん、ごちそうさま」
「あー、そこに置いておいて。すぐ洗うから――」
 ちゃりーん。
 ホウキが掠め、監視カメラの上にあった硬貨が落ちた。音を立ててしまったことに思わずカウンターから食堂側を見る。
 ……苗木くんが振り返っていた。



「ボクはモノクマメダルって呼んでるよ。よくそんな所にあったのを見つけたね」
「最初、山積みの野菜の中から見つけた時は何かと思ったけどね……」
 通称モノクマメダルと呼ぶことにする、このモノクマの顔が描かれた硬貨は、時たま学園内で見かける謎の存在だった。
 野菜の中、監視カメラの上、モニターの隙間……野菜はまだしもカメラやモニターのあたりは、たまたま落として紛れ込んだとは思えない場所だ。モノクマ印なのといい、これはモノクマなりのお遊びなんだろう。
「あのさ……学級裁判が終わると、部屋にたくさん置かれていない?」
「うん。……苗木くんも、って事はみんな貰ってるっぽいね。どういう事なんだろうって考えたけど、弁論スコアみたいなものかな」
「多分ね」

 カジノのチップみたいに部屋の机に置かれているのを見つけた時は、全く意味がわからなかった。今まで積まれていた二回ともが、学級裁判の後だ。鍵を掛けている以上、モノクマの仕業以外には考えられなかった。
「だけどさ、メダルを貰っても使い道がないよね。自販機で使えるわけないし、コレクションしろってことなのかな?」
「えっ!? 灯滝さん、モノモノマシーン使ってないの!?」
「え、モノモノ……なにそれ?」
 カウンター越しに話していた苗木くんが、こっちに身を乗り出していた。





「思えば灯滝さんはボクたちより自由な時間が少ないんだから、購買部に行ってなくても当然だよ、うんっ」
「あ、いや、フォローありがとう……? でも何だか悲しくなるな……」
 お昼休みに一緒に購買部に行こう、と苗木くんに誘われた私は、言われたとおりモノクマメダルを大量に持参し二人で購買部に来ていた。
 この生活を始めてもうすぐ二週間になろうというところで、初めて購買部の中をじっくり見る。ゴチャゴチャと品物がこれでもかと置かれ、学業にはおよそ関係のなさそうなオブジェや機械まである。提灯が並ぶ賑やかな雰囲気に、小さい頃に行った縁日の屋台を思い出した。
 苗木くんは今まで来ていなかったなんて珍しいと驚いていたけれど、お金は初日に私物が無くなっていたので持っていなかったし、倉庫も開放された今となっては特に必要性を感じなかったので購買部に用事がなかった。私の中では普通の感覚だと思う……。

「やっぱり自動販売機にはコレ入らないよね……ランドリーにある自販機でも無理だったし」
灯滝さん、ああいうケミカルな飲み物好きなの?」
「そういう訳じゃないよ。でも通貨としての使い道はやっぱ無いね、って」
 持って来たからには、ここでメダルを使う用途があるはずだ。苗木くんは「さて何でしょう」と言わんばかりでまだ教えてくれそうにない。
 メダルタワーやマジックをするわけでもないだろうし……娯楽室でもあるまいし、さっき言っていたモノモノナントカが何なのか、さっぱりだった。
「うーん、降参。教えて苗木くん!」
「あれ? わからなかった?」
 苗木くんは購買部右側の機械を抱えるように手を回して、私の方を向いて笑った。
灯滝さんは、ガチャガチャって好きかな?」


 苗木くんがモノモノマシーンと呼んでいたものは、いわゆるガチャガチャだった。これにだけモノクマメダルが入り、ランダムでグッズを貰えるのだと言う。
「ガチャガチャだったかあ……気付かなかった。たまに師匠と地方に出た時に、地方限定物が欲しくて回すよ」
「へえ。何かのコレクターだったり?」
「コレクションというか、ゆるキャラが好きで……」
「そうなんだ! なんか、意外だな」
「あんまり遊びに時間を掛けられないし、パッと見て楽しめる物が好きなのかも」
「ゆるキャラなら何でもって感じ?」
「ううん。なんて言うか、狙ってる感じの癒し系や奇抜なのより、昔ながらのモッサリ系とか香ばしいやつが好き。」
「モッサリ……香ばしい……? そ、そうなんだ……」

 ゆるキャラの話はいったん置いておくとして、だったらこのモノモノマシーンに挑戦しない手はない。
 メダルは一枚から回せて、たくさん入れれば重複率が下がるとアドバイスされたので、しばらくは一枚で楽しめるだろう。
「当たり外れが激しいから、灯滝さんの好みの物が出るように祈ってるよ」
「ありがとう。……では、灯滝、いっきまーす!」
 細かくは数えていないが、100枚はありそうだった。10回くらい回して適当なところでやめよう――と、私は初陣に挑んだ。



 結果……私は30回近く回していた。
「うわぁ……大量だね」
「う、うん……たまにしか来ないだろうしって、ちょっと調子に乗っちゃった」
 モノモノマシーンから出てきたのは、ミネラルウォーターや油芋といった食料品に、子猫のヘアピンやあかの着ぐるみのような衣服装飾品、誰かの卒業アルバム、もしもFAXといった意味不明な物まで。様々なニーズに対応すべく取り揃えられた充実のラインナップだった。
 ただ……さすがに一気にやり過ぎたので、ダメ元で目の前の人に引き取り手を頼んでみる。
「苗木くん……なんか要る?」
「ボクもたくさん回しているからなあ……あ、でもまだコンプリートしてないから、ボクが出してないグッズと灯滝さんが好きな何かを交換してもらってもいいかな?」
「あ、それは嬉しいな。ぜひとも!」

「えーと待ってね……リスト見るから」
「……苗木くん、凝り始めると最後までやり遂げたいタイプ?」
「あはは……時と場合によるかな」
 そう言って苗木くんはポケットから出したチェックリストを確認する。苗木くんは中々に几帳面だ。捜査でも細かいところまで調べたり気が付いたり、地道な作業をしっかりできるタイプなんだと思う。
「……ええと……バードライス、月の石、タンブル・ウィード、あと第二ボタンをください!」
「あ、全部どうぞどうぞ」
 苗木くんが持っていなかったグッズは4種類。どれも交換しても悲しくならないものだった。

「でも……なんだろう、男の子から“第二ボタンをください”って言われるのは変な感じするね」
「そうだね……ボクも女の子に言う側になる日が来るとは思ってなかったな」
 苗木くんは少し照れたように頬を掻きながら、差し出した第二ボタンを受け取った。
「あとは、っと……この、タンブル・ウィードって……どんな使い道があるのかな」
「わからない……」
「本当に要る? 大丈夫?」
「ボクもコンプリート目的じゃなかったら、貰ったりはしないかな……」
 贔屓目に見てオブジェ……と言うのもつらいような蔓の塊を手に、苗木くんは複雑な表情だ。

「いや、ボクは……これでいいんだっ。……さあ今度は、灯滝さんの番だよ! ボクが持っている中から好きな物を――あ、ちょっと待って」
 バードライスと月の石を横に置き、苗木くんはリストを見せようとした手を止めた。楽しいことを見つけた――そんなワクワクが伝染するような表情に、すっと惹き込まれた。
「ん、何……?」
「キミの好きな物、ボクに当てさせて!」



「苗木くんありがとう、そしてありがとう!!」
「……塩を喜んで受け取る人……初めて見たよ」
 寄宿舎に戻り自室にグッズを置いてきた私は、苗木くんの部屋の前で交換品を受け取り、嬉しさに舞い上がっていた。
「えっ何で!? 舐めてよし、味付けてよし、揉み込んでデトックスによし、生きるために欠かせないミネラルたっぷりだよ?」
「あー……料理人さんらしい見方だね、はは……」
 苗木くんが選んだ4つのうち、大正解は1つ。他の3つはどちらでもない品物だったので、リストを見せてもらって好みのグッズに変えてもらった。

「でも毛虫くんは当てられちゃったなー」
「さっきのゆるキャラの話がヒントだったね」
 学級裁判の時もそうだけど、苗木くんは記憶力が抜群だ。これは平凡どころじゃない、立派な長所だと思う。
「あと貰ったのは白うさぎの耳あてと、みどりの着ぐるみだね。……やっぱり、あかとみどりは揃えないとね」
「あのキャラも好きなんだ……」
「媚びがなくてモッサリしてて、どっちもわりと理想的だよ」
「へ、へぇ……」

 耳あても着ぐるみたちも、ここで使う機会はないだろうけど……部屋に飾って置いておくだけでも気分が変わりそうだ。特に毛虫くんは気に入っているのでベッドの横に置くのは決定だ。塩は実用的だし、いい交換会だった。
「あ、灯滝さん。グッズがたくさんで困るようなら、こんな感じで誰かと交換したりプレゼントしたらどうかな? みんなの意外な好みが分かるかも」
「なるほど……使わず仕舞うよりかは、他の人に渡して使ってくれたほうがいいね」
 もう一度苗木くんにお礼を言って、別れた。……これから夕方までは自室でグッズの整理だ。

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