「あれ……?」
 食堂に戻って見回しても、葉隠くんの姿はなかった。葉隠くんの方が先に脱衣場から出ていたはずなのに、だ。
 時計を見ると、夜時間まであと数分。長話ができないと帰るにしても、一言告げるなり書き置きなりするだろうと手紙の類を探してみたけれど、何もなかった。
 飲み物でも取りに行ったのかと厨房を覗いても、人影はない。隠れているわけないし、いったいどうしたんだろう……。
 そうこうしているうちに、残り1分というところまで来てしまった。

 葉隠くんはマイペースだし、時間にルーズなところもあるけれど、こういう約束破りをするようには見えない。……アルターエゴの件に驚いて、忘れてしまったとか? 自分からの頼み事なのに……?
 時計の針は更に細かく刻み……残り数十秒だろうか。……セレスさんの顔を立てる意味も兼ねて、私は時間ギリギリまで待った。
 ――キーン、コーン、カーン、コーン……。
 チャイムが鳴り、モノクマの声が校内全体に響く。午後10時、夜時間だ。
『間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す。ではでは、いい夢を。おやすみなさい……』
「!!」

 そうだ、部屋に帰るかどうしようという以前に、食堂は施錠されてしまうんだった!
 さすがに今からは来ない、というか入れないんだから葉隠くんは来られない。そして立入禁止区域に残っていたら、私はモノクマから何をされるかわからない。
 慌てて食堂の出口を開け、飛び出した私は――刹那、何かに突き飛ばされ尻もちを付いた。
「えっ!?」
 食堂内に戻され、もう一度出口を開けようと扉を押しても……さらに全身で押しても、ガタガタと音を立てるばかりで……まるで、鍵でも掛かっているような感触が、返ってくるばかりだった。
「う、うそ……」
 扉から体を離して、へたり込む。……信じられないような状態に、陥っていた。
「閉じ込められた……?」



「モノクマ! 見てるよね? 出てきてよ! モノクマってば!」
 出口から離れて監視カメラの前で何度叫んでも、モノクマは現れなかった。
 夜時間になってから、数分が過ぎていた。
 電子生徒手帳の校則には、『夜時間は立入禁止区域があるので、注意しましょう。』とあった。
 私の身には何も起きていない。今すぐ校則違反で処刑されるわけではない、と見ていいと思う。この状態が校則違反かも不明だ。“注意を怠った”には当てはまると思うけれど、明確に罰を与えるとは書かれていなかった。
 モノクマから反応がない……出られないとなれば、解錠されるまで居る他ない。9時間くらい閉じ込められる事になるけど……何とかなる、と思うしかない。

 しかしもう一つの校則、『個室以外での故意の就寝は罰します。』は……これがある限り、食堂や厨房で眠ることはできない。うたた寝でもしたら今度こそ正真正銘の校則違反で罰せられてしまう。
 幸い、照明はそのままだった。ロックが掛かったと同時に落ちていたら、真っ暗な中で眠ることを許されずに朝まで一人で過ごす事になっていた。……考えるだけでゾッとする。それこそオシオキ、というか拷問だ。
「徹夜かぁ……」
 滅多にしないが、初めてというわけでもない。問題はどう過ごして、これから迫り来る眠気を追いやるかだ。

 電気は使える……。
 ならば、と厨房に行き、蛇口をひねる。コンロに点火する。……どちらも普段通りに使えた。ここのライフラインは止まらないらしい。
 ――だったら、料理だ。
 山積みの野菜、ショーケースの霜降り肉、エトセトラ。厨房だけでも充分な食材がある。そして時間も。9時間あれば、普段ここでは作っていなかった凝った料理も出来る。
 食材を確認して調理計画を立てよう。たとえ閉じ込められていても……ここは私に最も適した場所だ。
「……よし。料理人の本気、見せてやる」
 気合を入れて、私は料理に集中した。

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