「なに、モブ系コック女がヘチャむくれなんだけどっ! どうせまた占いバカが絡んでんだろ? 面倒くせーな!」
 赤い扉に入ると、ジェノサイダーが開口一番に言い放った。……昨夜から閉じ込められたり、往復ビンタされたり、こんな言われようだったり……散々だ。
「あら……鋭いですわね。全ての元凶は葉隠くんですわ」
「ううッ……! 俺じゃねーんだべ……信じてくれ……」
 セレスさんはゴミでも見るような視線を葉隠くんに向けている。その葉隠くんはと言うと、証拠品を見つけられなかったと悲嘆に暮れていた。



 誰がどんな思いであろうとも、学級裁判は開始される。
 まず、最も疑いの濃い葉隠くんについてが議題になった。
 苗木くんと十神くんは葉隠くん犯人説に疑問を持っていた。葉隠くんの部屋にあったというジャスティスロボの設計図の筆跡が葉隠くんのそれとは全く違うことが根拠だった。
 ジャスティスロボに扮していた不審者は、衣装が葉隠くんしか着られない以上、彼以外に考えられない。だけど屈めない仕様のジャスティスロボの衣装を着ていては、石丸くんの死体を取っ手のない台車では運べない。そもそも自力で脱げず、ロボの恰好で現れたら怪しまれるに決まっているのに、どうしてそんな格好をしたのかも疑問だと彼らは言った。

 早々に葉隠くん犯人説が否定される流れに、私は戸惑いを隠せなかった。
「ずいぶんと怪しんでいる奴も少なからずいるが……その程度の頭ではこのゲームを勝ち残れないだろうな。雑魚もいいところだ」
 十神くんは吐き捨て、話し合いは犯行時間とアリバイの確認に移っていった。


 石丸くんがしている腕時計が壊れた時間は朝の6時。番号の順番通りに使われたように見えたハンマーが引っ掛けで、腕時計の指す時刻が殺された時間なら、全員のアリバイがない。私は食堂に閉じ込められていた時間帯だけど、それを証明できる人はいない。
 また、保健室での山田くんの殺害から二人の死体が消えた時までは、葉隠くんと霧切さんと私以外は誰かしらと一緒にいて実行不可能だったという。
 でも、物理準備室と保健室でほぼ同時に二人の死体が発見されたにも関わらず、死体発見アナウンスは一回で、その後の美術準備室で二回目が流れた。
 そこで、保健室では“死んだふり”をしていた山田くんが石丸くんの死体を運び、その直後に美術準備室で殺された可能性が挙がった。不自然に血が拭き取られた山田くんの眼鏡と、血塗れで捨てられていたキャラクターものの眼鏡拭き……血を拭いて得をする人間は、眼鏡の使用者くらいしかいないのだから。

 『山田所持のメモには、早朝6時に物理準備室に集合とある』――この時間と場所は、石丸くんが殺されたそれだ。その一部がちぎれたメモはパンツに隠されていて、石丸くんが握っていた紙切れと切り口が一致した。
 ……山田くんは死ぬ直前の石丸くんに会っていて、メモが重要な手掛かりだと知っていた。これらから弾き出されるのは……“山田くんは石丸くんを殺した加害者でもあった”ということだった。

 そして山田くんは美術準備室にあったハンマーで殺された。その時間帯は全員別れて消えた死体を探していたので……全員のアリバイが成立しない。
 石丸くん殺しと山田くん殺しは別々の犯人によって行われ、山田くんを殺した人物が共犯を企てて裏切った真犯人。
 別々の事件をそれぞれが起こして共犯し合えば、リスクを減らして共に“卒業”の可能性が見える。山田くんが誘いに乗ったのは、相応のメリットがあったからだろう。
「では、山田を操っていた真犯人とは何者なのだ?」
「それが問題だな!!」
 大神さんの言葉にジェノサイダーが便乗する。こんな事件を企んだ人は誰なのか……私は考えてもわからなかった。



 会話が途絶え、数人の唸る声が聞こえた。静かな空間を破ったのは……小鳥のさえずりのようなソプラノだった。
灯滝さん……あなたが真犯人なのですか……?」
「え……?」
 伏し目がちに私に問いかけたのは……セレスさんだった。
 全身に電気が走ったように、私は目を見開いて固まった。
「昨日の夜時間直前に、あなたは葉隠君から食堂に呼ばれていましたよね……? あれを逆手に取って、あなたは葉隠君と山田君と共謀したのではありませんか?」

「私、が、犯人……? そんな、」
「夜時間直前で呼び出す葉隠君も葉隠君ですが……灯滝さんは葉隠君と逢引きする中でこの計画を思い立ち、葉隠君に協力を取り付け、最近石丸君と衝突のあった山田君と共犯関係を結び、実行した……」
 私の否定を遮るように、セレスさんは続けた。目線は上がり、今は少し目を細めて私を見つめている。何の表情も読み取れない彼女に、背筋が涼しくなった。

「あ、あ、逢引きって……!」
「おデート? 夜更けにデート!? あんのモジャモジャ、着実に進んでんな!! ヒュウ〜!」
 朝日奈さんが口を抑えて動揺した。ジェノサイダーも間違った方向でテンションを上げている。
「お二人はそれなりに懇意だったではありませんか。わたくしたちの見えないところで何をしているかなんて……ね」
「そ、そんな、灯滝ちゃん……ど、どこまで進んじゃったの!?」
「進んでないし逢引きもしてないし私は食堂に閉じ込められていたんだよ!?」
 朝日奈さんは完全に問い詰める内容を間違えている。必死に突っ込んだけれど「大人の階段……」と呟いている彼女にはたぶん届いていない。


「つまり夜時間に何をしていても、個室に居るわたくしたちには知るすべがない、ということです。……あなたが“閉じ込められていた”と嘘を付いていたとしても、わからないのです」
「……だが、そうなると葉隠は単なる協力者ということか……? それではあいつは助からないぞ……」
 大神さんからの尤もな問いにもセレスさんは動じず、むしろ微笑み混じりに返した。
「好きな人から口八丁手八丁されたら、殿方はコロッと騙されてしまうものでしょう? それに葉隠君ですもの。騙される為に生まれてきたような方ではありませんか」
「確かに……」
「惚れた女に騙されて死ぬ……憐れの極みじゃねーの! ああ……地味いコックも男ってシチュなら薄い本買うのに……! 惜しい、惜しすぎるッ!」

 頷く朝日奈さんと、どんどんベクトルがおかしくなるジェノサイダーに反論したのは、渦中の葉隠くんだった。
「何そこ納得しかけてんだべ!! つーか、惚れた腫れた以前にだな! そもそも俺は灯滝っちを呼び出してなんかいねーぞ!!」
「それでも灯滝さんを庇うのですか……葉隠君が馬鹿なのか、灯滝さんが魔性の女なのか……」
「私は葉隠が馬鹿なんだと思うよ!」
「魔性か……? 占いバカ限定なんかねー」
「オメーら人を馬鹿バカって……俺のどこが馬鹿なんだべ!?」
 セレスさんが話すたび、朝日奈さんとジェノサイダーが反応し、葉隠くんが突っ込む。……容疑者に挙げられたはずの私は、置いてけぼりだった。



「……茶番もいい加減にしろ。」
 一喝で、場は静まり返った。
 声を発した十神くんは……心からの苛立ちオーラを全身から沸き立たせていた。
「こんな話題で時間を浪費するのは苦痛以外の何物でもない。とっとと潔白を証明しろ、灯滝
「えっ……ど、どうやって」
 十神くんのこめかみに筋が浮いた……気がする。目を閉じ一回深呼吸をした彼は、私に先ほどしたような質問を始めた。

「……灯滝……昨晩どうやって葉隠に呼び出された」
「セレスさんから、葉隠くん直筆の手紙を見せてもらった……」
「はぁっ!? 俺は渡してねーべ!」
「黙れ低脳。続けるぞ。その手紙の内容は」
 辛辣な言葉で葉隠くんを突き刺す。十神くんの表情だけを見れば、まるで尋問のようだった。
「“食堂に集合せよ!”ってだけで、でもそれは葉隠くんが男子を脱衣場に呼ぶのに使った手紙と全く一緒で……」
「へっ? なんでそれをセレスっちが持ってたんだ?」
「セレス。手紙を一緒に見たと灯滝に聞いたが、内容に間違いないな?」
「……ええ」

 セレスさんの返答を聞いた十神くんは、薄く笑った。苗木くんが補足を求める。
「十神クン……どういうこと?」
「昨晩の招集では、女子は霧切から直接話を聞いたそうじゃないか。だがセレスは“男子を呼ぶための手紙”を持っていた事になる。どうしてだろうな……?」
「葉隠君は文面を考えるのが面倒で、同じ内容にしたのではありませんか」
「……セレスが言うように葉隠が恋愛感情を持って灯滝を呼んだのなら、尚の事“灯滝だけに宛てる内容”にするのではないか?」
 セレスさんと大神さんが問い掛けに意見を出すと、満を持したと言わんばかりに十神くんは核心に持っていった。


「俺の考えはこうだ……“石丸から男子宛ての手紙を盗み、灯滝を閉じ込める為に流用した”。……そして俺は、セレスが一連の事件の真犯人だと睨んでいる」
「……セレスさんが、真犯人……!?」
「昨晩、俺が葉隠からの手紙で食堂に来た時、おかしくなった石丸をセレスが大人しくさせていたな。二人が隣に座っていたのは、後で来た朝日奈や大神も見たはずだ。石丸に出させるなり、盗むなりで手に入れるのは容易だ……そうだろう?」
「その内容では……灯滝さんの潔白証明には根拠が足りないと思いますが」
「だけど、セレスさん……ボクもキミが真犯人かも知れないって考えている。だって、灯滝さんは真犯人にはなり得ないんだ」
 十神くんの言葉を引き継いだのは、苗木くんだった。

 苗木くんは霧切さんに目配せをすると、霧切さんはある物を取り出した。
「これはさっき、灯滝さんに取ってもらった捜査メモよ。彼女の筆跡は……ジャスティスロボの設計図の文字、山田君が隠し持っていた“石丸君を呼び出すメモ”、どちらとも違っていた。同じ単語も幾つかあるから、皆で比較して見るといいわ。素人が筆跡を誤魔化そうとしても、クセは必ず現われるものよ」
 それは、霧切さんに言われて書いた、捜査のメモ……!
「霧切さん……まさか」
「騙すような形になってごめんなさい。でも……貴方の潔白を明かす決定的な証拠になったわ」

 ずいぶん断片的なメモだと思いつつ書いていたものが、こんな形で使われることになるなんて……。霧切さんが策を巡らせていたことに、全然気付かなかった。
灯滝が真犯人なら、どちらかと似ている筈だが……一致しないな」
「……本当だ。どっちとも違う」
 周りで、文字を比べ見る大神さんや朝日奈さんの声が聞こえた。
 メモはセレスさんの手元にもまわった。ほんの一瞥だけして、彼女はみんなに語りかけた。
「そう、ですか……。では……わたくしと山田君が組んでいたと、おっしゃるのですね。――そんな事ある訳ねぇだろう、このクソボケがッ!!」
「ひ……!」
 失礼しましたわ、と最後に微笑んだセレスさんは、途中のブチギレが嘘のように、いつもどおりに戻っていた。



「根拠が足りないとお前は言ったがな……灯滝の件も含め、不審者の目撃から消えた死体の第一発見者まで、一連の事件はセレスか山田が起点になっているんだ。山田が犯人の一人なら、もう一方のセレスの証言も、怪しいと見るのが当然だ。」
 セレスさんと山田くんが犯人と仮定して事件を振り返ると、全てがしっくり来るのだと、十神くんも苗木くんも言う。起点かつ、誘導、扇動的な意見の数々……さらに、犯人しか知り得ないはずの情報も、セレスさんはこぼしていた。
「“彼らのように殺される”なんて発言は、出て来るはずがないんだよ。あの時、ボクらはまだセレスさんに、石丸クンの件を伝えてなかったはずだよ? それに霧切さんも姿を消していたし、灯滝さんだって捜索側にいなかった。彼女たちが殺された可能性だって、あるはずだよ?」

 それでもセレスさんは自分が犯人ではない証拠として、二つを挙げた。
 一つ目は、デジカメに写ったジャスティスロボに連れ去られる山田くんの写真。でも霧切さんと苗木くんが、“山田くんが”ジャスティスロボ……つまり不審者を連れ去る写真だと指摘した。“腰が曲がらない仕様”で設計されたジャスティスロボなら、気絶状態の葉隠くんが入っていても真っ直ぐの姿勢でいられるのだ、と。
 二つ目は、山田くんの遺言“犯人はやすひろ”。これも“山田くんはフルネームで人を呼ぶこと”“セレスさんだけ本名を明かしていないこと”を根拠に覆した。電源をいれる時に必ず本名を表示する電子生徒手帳の開示を拒むセレスさんは、潔白を証明できなかった。

 チェックメイトをされても認めなかったセレスさんに、苗木くんは事のあらましを並べ、突きつけた。
「セレスさん! キミの負けだッ!!」
 セレスさんの本名はセレスティア・ルーデンベルクではなく――安広多恵子。本人の口からその名が出たことで、事件の真犯人は確定した。
「負けを宣告されてあがくほど、往生際は悪くありませんの。」
 追い込まれた状況とは思えないような、いつもと変わらぬ笑顔を作って、セレスさん……安広さんはモノクマに投票を促した。

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