セレスさんのオシオキを愉しんだモノクマは、彼女が霧切さんに遺した“カギのようなもの”について尋ねた。
「あなたの質問に答える前に……私の質問に答えて。あなたは、私の体に何をしたの?」
 質問返しをされたモノクマは、バツが悪くなったと言って、すぐにいなくなった。
 霧切さんの意味深な問いと、答えない黒幕。“体に何かした”……これが核心に迫る要素なのだろうか。



 “カギのようなもの”は、脱衣場のロッカーの鍵だった。無くなったと慌てていた私たちの扉越しに、アルターエゴはあったのだ。
 裁判場を後にした私たちは、大人数で怪しまれないようアルターエゴの確認を霧切さんと苗木くんに託し、食堂で待機することになった。
 食堂に行くと、今朝大テーブルに並べた料理はなかった。不明者の捜索に出る前に、朝日奈さん、大神さん、霧切さん、苗木くんがしまってくれたらしい。
 厨房を確認するとほとんど減っていなかったので、温めなおして夕食として振る舞うことにする。……気がつけば、もうそんな時間だった。


 数分後、お茶の準備が整ったところで苗木くんと霧切さんが脱衣場から戻ってきた。
 “例の物”アルターエゴは無事で、ハードディスクの解析は早ければ明日にも終わりそうだ、という報告だった。
「苗木、霧切は怪しい行動をしなかったか?」
「そ、そんなことするわけがないよ」
「フン、どうだかな……」
 十神くんは、今朝の不明者捜索途中に姿を眩ました霧切さんを裏切り者と疑って掛かっている。その不穏な発言が、空気に暗い色を差す。

「十神くん、そんな言い方って……」
「庇うことで点数稼ぎか、灯滝? お前も裏切り者候補だぞ。霧切と双璧だ」
 “夜時間に食堂にいても罰せられなかった”のは、黒幕と繋がりがあるからではないか――。
 十神くんの指摘は尤もだ。私も、死ぬかもしれないと思った。江ノ島さんの最期の姿を何度も思い出した。……だけど、黒幕の判断は“スルー”だったのだ。

「……灯滝っちが、裏切り者……?」
 葉隠くんは驚いた後、疑念の目で私をまじまじと見る。……私もさっきまで、彼をそうやって見ていたんだと思うと……思い違いだったとはいえ、悪いことをした気分になる。
「…………自分の時だけ信じてもらえるとは思ってない。違うと証明できるものもないから、疑われても仕方ないと思う」
「葉隠っ、どうしてそういう事言えるの!? 信じてあげるのが男ってもんでしょ!」
 朝日奈さんがテーブルを叩いて葉隠くんに声を荒らげた。私の肩を持ってくれているのはありがたいけれど……こんな状況で確証もなく信じるなんて、難しい話だった。

「でも、黒幕側の人間なら、誰も入って来られない食堂で馬鹿正直に徹夜なんてするかしら」
「十神クン、灯滝さんが起きないから往復ビンタしたって言ってたよね……。普通に起きてたら耐えられないよ、こんな……」
 学級裁判のように霧切さんと苗木くんが指摘を十神くんに投げる。
「ヒャーッ! 女に手を上げる白夜様っ! ドS炸裂じゃねーの!! 褒美を受けた気分はどうよ灯滝チャーン? ん? ん?」
「そりゃ、刺激的な目覚めだったよ……」
「刺、激、的……ッ! アタシもして差し上げたい! 白夜様に往復ビンタっ!」
 ジェノサイダーは私に迫ったり、両手で頬をおさえて興奮気味に叫んだり……相変わらず忙しなかった。私は……ああいう起こされ方は、もうされたくない……。


「エッ……灯滝っちの頬が腫れ気味なのって……十神っちが殴ったから!?」
「殴ったんじゃない、叩いたんだ。俺の手を煩わせた灯滝が悪い」
「この天上天下唯我独尊っぷり! そこにシビれる憧れるぅ! ああああねじ伏せたい!!」
 十神くんは何度目かの質問に苛つきを覚えたようで、そんな彼の姿にジェノサイダーは悶え自分を掻き抱いていた。
 また目を丸くした葉隠くんは、さっきとは違った視線で私をまじまじと見た。

「そんで痛くて泣いたんか……目も腫れてるべ」
「えっ」
「それは朝の時点からよ。目の腫れだけでなく顔や足のむくみも酷かったし、保健室の睡眠薬を服用した線も薄いんじゃないかしら」
 霧切さんの話に朝日奈さんと大神さんも同意する。睡眠薬の件は十神くんの疑念を先回りして答えたらしく、十神くんは小さく唸って考えるように黙りこんでしまった。
 というかそれより……今の私は、目も頬も腫れて顔や足がむくんでいるってことなのか!!
 そう言えば……だるさや腫れを感じなかったわけではないけれど、気にする暇がなかった。……思えば今日になって私は一度も鏡を見ていないし、顔も洗っていない。しかも昨日は脱衣場集合もあって、お風呂に入れていなかった……!

「あっ……別にその時、泣いてないよ? 痛かったけど、それだけだし、結果的に起きてよかったし、大丈夫だよ」
 取り繕うように言葉を並べたけれど、頭の中は、鏡見たいお風呂入りたい……で埋め尽くされていた。今の私はどんな顔で、どんな姿でみんなの前にいるのか……!
「十神君。私はともかく、これらの要素から灯滝さんは濡れ衣と言えるんじゃないかしら」
「…………限りなくシロに近いグレーだ」
「それってボクたちと変わらないって事だよね」
 霧切さんの言及で、十神くんからの疑念はほぼ覆せた。諍いの種を収められたことに苗木くんはホッと息を吐く。
 霧切さんにお礼を言うと、「素直に徹夜の証が出る体質のおかげね」と返された。……複雑だった。


 それでもこの中に裏切り者の存在を睨む十神くんは、アルターエゴ関連の話がもう出ないと踏むと、馴れ合いを嫌って食堂から出て行った。その後をジェノサイダーが追って行き、残ったのは私を含めて6人。
 夕食時ということもあって、そろそろご飯を食べようかという流れになった。
 でも私は用意を済ませると、みんなと食べるのは固辞して自室に駆けた。……シャワーを浴びるのだ……!





 自室のシャワールームの鏡で自分を見て出てきた言葉は、「ひどい顔」。……朝日奈さんもそう言うわけだ、と納得な腫れむくみ具合だった。
 シャワーを浴び、水で顔を洗って、生き返った気持ちで夕食を摂りに食堂へ戻った。
 今ごろは、私が別れた後に食べ始めた人たちが終わるタイミングだろう。私が食べて、片付けと仕込みをして、ちょうど夜時間になるくらいの時間帯だった。

「あれ、他のみんなは食べ終わったのかな……?」
「まあ……そうだったり、部屋で食うっつって持ってったりだ。」
 食堂には葉隠くん一人だけが残っていた。食べかけらしく、お皿には切り分けられたローストビーフや付け合わせが乗ったままだった。
 食事を取ってきた私は、葉隠くんと一緒にご飯を食べることにした。
「むちゃくちゃ豪勢な飯だな。苗木っちや朝日奈っち、みーんなが、ウマいって食ってたべ」
「そっか、よかった。……ようやく料理人らしいところ、見せられたかな」
 煮込まれたシチューの肉はいっそう柔らかくなっていて、ほろりと口の中で溶けた。朝から何も口にしていなかった空腹も手伝って、私はしばし黙々と口に運んだ。





「疑ってゴメンな」
 前触れもなく、流れから言えば脈絡のない言葉だった。
 私は弾かれたように、葉隠くんを見ていた。真っ直ぐ私を見据えていた彼と、瞳をかち合わせた。
 それがほんの刹那か、数秒かもわからない。
 先に、伏せるように目を逸らした。後ろめたさ、ではないけれど……見ていられなくなった。
「……お互いさまだよ。……私も、学級裁判まで疑ってて、ごめん」
「オメーの言葉を借りるなら、それもお互いさまってことで……この話は終いにするべ。な?」
「……うん」
 最後に同意を促すところで、葉隠くんは少しだけ目尻を下げた。……私のよく知る葉隠くんが戻ってきた気がした。
 それでも、最初の一言が私の中で反芻されていた。どちらかと言うとよく喋るほうの葉隠くんが、こんな言葉少なに何かを伝えたことが、鮮烈だった。


「それとな、俺の占いによると、もう俺が犯人扱いされることは無いからよ……。さっきみたいのはこれっきりだべ」
 葉隠くんは、私を待っている間に占いをしていた、と話した。自分に関していい結果が出たので今夜はぐっすり眠れそうだと大げさに安堵するのを見て、クスリと笑ってしまった。
「大丈夫? 葉隠くんの占いだよ?」
「だ、大丈夫ってどういう意味だべ! 俺の占いは3割当たるぞ!」
 占いを軽んじると怒り気味に声を荒げる。こういう姿を見ると、葉隠くんだなと安心する。
「……オメーがそう思うってんなら、それでいいべ。そろそろ食い終わっちまうし……もう一つ灯滝っちに伝えたら、俺は部屋に帰るべ」
 葉隠くんのほうのお皿は間もなく空だった。最後のおかずがフォークに刺さる。


 食べ終わった葉隠くんはフォークを置いた。
「待ってる間、オメーのことも占ったんだ。でもよ……この占いはサービスだから、安心して聞いてほしい。」
 私はご飯を飲み込んで、前置きをした葉隠くんの、次の言葉を待った。
「俺の占いによるとだな……灯滝っちは、3日後に自分の血を見ることになる。」
「……え……」
「オメーが狙われんのか、料理かなんかで指でも切るのか、それ以外かはわかんねーけどよ……気をつけようが何しようが俺の占いは3割当たる。」
「…………」
 不吉な予言に、絶句した。

「まあ、灯滝っちが言うように、俺の占いだからな。」
 私の顔色を窺うように覗きこんでから、葉隠くんは席を立った。私が何も言わないのを気にしていないような、普段通りのマイペースな素振りをしていた。
 よくない占い結果でも、私がいつものように冗談程度のものだと茶化すと思って、言ったのだろうか。
「……外れることを祈ってるべ」
 珍しく食器をカウンターまで上げて、葉隠くんは食堂を後にした。



>>>CHAPTER3_END


【 DEAD 】
・石丸清多夏 a.k.a“超高校級の風紀委員”
 被害者:ハンマーによる撲殺
・山田一二三 a.k.a“超高校級の同人作家”
 加害者/被害者:ハンマーによる撲殺
・安広多恵子 a.k.a“超高校級のギャンブラー”
 クロ:オシオキ・ベルサイユ産 火あぶり 魔女狩り仕立て


>>>生き残りメンバー 残り8人

>>>To Be Continued.

←BACK | return to menu | NEXT→

(→CHAPTER3あとがき)
加筆修正:140728

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル