翌朝、食堂に集まったのは昨夜の夕食時と同じ6人。メンバーがだんだんと減っている現状を実感して、寂しさを感じる。
 石丸くん、山田くん、セレスさん。昨日だけで3人もいなくなってしまった。
 私はセレスさんに嵌められた側だったけど、彼女に怒りは湧かなかった。たまたま彼女の計画上邪魔な存在になっただけで、そこには私に向けての個人的な恨みなどの感情はなかったからだ。
 ただ、理不尽な理由で標的にされた葉隠くんは、セレスさんに対してそういった感情を抱いてもおかしくないと思っていた。でも、あれから何一つそんな様子は見えなかった。
 私と疑い合ったことを和解した件と同じで、葉隠くんはその時限りで気持ちを切り替えられるのかもしれない。


 朝の挨拶の後に黙りこんでしまった私たちに、朝日奈さんはたくさん食べようと意気込んで提案した。……ドーナツも焼き魚も用意はある。けど……組み合わせ的にはどうかと思う。葉隠くんの意見に私も同意だった。
 でも、明るい話題が無いわけではない。アルターエゴという今後の手掛かりも戻ってきた。
「大丈夫だべ! 俺は死なん! なぜなら、もう殺人は起きん!!」
 俺の占いで出た以上間違いない、と力強く断言した葉隠くんに、みんなの注目が向く。
「昨日の夜……あれから一人でもう一回占ったんだべ。だから灯滝っちも大丈夫だ。安心するべ!」

 名前を呼ばれて彼を見ると、バチコーンと擬音が出そうなアイコンタクト(片目を瞑る)をもらった。葉隠くんの、このノリは……良い結果で上機嫌なのか。……私の心臓は、不意打ちに跳ねた。
 殺人は起きない。だから万が一、私が2日後に血を流しても死ぬことはない。葉隠くんはそう言いたいのだろう。
 ただ、葉隠くんの占い的中率は自称3割だ。両方当たるかもしれないが、片方だけ当たるかもしれないし、どっちも外れる可能性だってある。

「なーんか、灯滝ちゃんにだけ手厚くない?」
「……それ以上は野暮というものだ、朝日奈よ」
 朝日奈さんの突っ込みを葉隠くんは意に介さずで、大神さんが彼女を諌めていた。
 昨夜の食堂でのやり取りを知らない彼女たちからすれば、葉隠くんが特別な感情で言っているように見えるのかもしれない。……そうじゃないのに。
 だからといって、私だけが関係する不吉な占い結果をわざわざ話すこともないだろう。周りに余計な心配を掛けるだけだ。


 釈然としない様子の朝日奈さんは、それでも葉隠くんに一言言いたかったようで、占いの曖昧さを指摘した。葉隠くんは恒例となった「占いとオカルトを一緒にするな」の主張から、何故かキャトルミューティレーション体験談を語り始めた。
 宇宙人が牛を連れ去る都市伝説……とは違い、葉隠くんが体験したのはハンバーガーが空中で分解されて一部が手元に戻ってきて、店のウリのはずのビーフ100%パティが実は合い挽きだったことが判明した、という話だった。

「……意味わかんないけど、嘘つくお店は悪い。食べ物で詐欺とか……それは訴えていい場面だよ!!」
「うわ、灯滝さんが急に熱く……」
「食関係には厳しいわね」
 苗木くんと霧切さんの声がしたけど、ハンバーガー屋の対応がどうだったかを葉隠くんに聞いていた私には内容が耳に入ってこなかった。

 そんな、脱線しつつの朝食会は相変わらずで、メンバーのタフさに救われる。
 ここに十神くんと腐川さんも居れば……と、大神さんが口にしたが、これはまだ叶わない。「自己中の嫌なヤツ」「性格悪いから俺らとはムリ」――朝日奈さんと葉隠くんの持つ印象が、そのまま不和の原因と言える。
 それでも、“殺人が起きない”――この占いだけは当たって欲しい。ここにいるみんなの願いだった。



「バイクがあればモノクマを倒せるって占いで出たべ! 今回の探索では主にバイク探しするべ!」
「さすがに、バイクは無いんじゃないかな……」
 朝食後、みんなは探索に出た。意気込む葉隠くんに苗木くんは控えめに突っ込みつつ、食堂から出て行った。
「昨日から占いの大安売りだね……」
「とにかく俺は早く外に出たいんだって! ……んじゃ、また後で集合だな!」
 私は見送った後に厨房での用事を済ませてから加わる。前回と同じ流れだ。



 全員が食堂に戻ってくると、夕食を取りながらの報告会が始まった。
 今回の探索場所は新しく開放された4階部分。他のエリアに追加は無かった。
 やはり脱出は出来ない仕様で、主な施設は音楽室、化学室、情報処理室、職員室、学園長室。
 化学室にはサプリや栄養剤、そして毒薬があったと朝日奈さんと大神さんが報告してくれた。
 音楽室は教室というよりホールのような場所。職員室の各教卓には花の鉢植えが置いてあり、何とも異様な光景だった。
 情報処理室と学園長室は鍵がかかっていて開かなかった。鍵を壊せばいい、と葉隠くんが強気に出た瞬間、モノクマがやって来て『鍵の掛かったドアを壊すのは禁止』という校則を追加していった。大神さんが睨むように、この二つの部屋に重要な手掛かりがありそうだ。葉隠くんは占い結果からバイクがあると思っているみたいだけど、部屋の名前からして物凄く可能性は低いと思う。

 最後に、苗木くんはまた“写真”を見つけたと報告した。今度はセレスさん、山田くん、舞園さんが、鉄板の入っていないごく普通の教室で笑顔で写っていたという。
 やはりねつ造だとみんなが言う中、出てきたモノクマは本物だと言っていたと苗木くんは写真の真相を考えあぐねていた。
「じゃあ、あなたは死んだ彼らの事より、モノクマの事を信じるの?」
 急に、霧切さんが苗木くんに突っかかり、仲間を信じていないと追及し始めた。施設についての報告時、いつもとまた違うオーラを纏って厳しい表情だった彼女は、朝日奈さんが先に指摘したとおり“怒っていた”のだ。
 ……だけど、何故。少なくとも朝食会の時はそんなことはなかったのに……苗木くんは探索時に何かやらかしてしまったのだろうか。

「まぁまぁ、ケンカしてっと運気が逃げんぞ。」
 口撃で噛み付きかねない霧切さんと躱せない様子の苗木くんの間に、葉隠くんが入って場を取りなす。石丸くんがいなくなったからか、葉隠くんは前ほど先陣を切って仕切る感じは無くなったけど、フォローに入るタイミングが絶妙だった。
「どうした、内輪もめか?」
 ふいに、ここに来ていないはずの人の声がして、振り向くと十神くんが食堂に現れていた。
 敵意を顕にして追い返そうとする朝日奈さんに嫌味を連ねながら、十神くんは「“例の物”が重要な手掛かりを得た」ことを教えてくれた。……親切にも。
「俺は今まで風呂に入ってたんだよ。後は何を知りたい? 今日の運勢か?」
 “風呂”のキーワードからして、アルターエゴ絡みなのも間違いない。

「混浴だべ……」
「混浴だね……!」
 カモフラージュだ何だと、四の五の言っていられない事態だ。
 葉隠くんと朝日奈さんが言うように混浴状態で、私たち6人は脱衣場へ向かった。

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