今日も朝食会参加者は6人。でも……メンバーがいつもと少し違った。
 まず、朝一に霧切さんが厨房に顔を出した。挨拶をし、早いねと返すと、彼女は朝食会参加拒否を連絡しに来たのだと言った。
「どうしたの? ……体調不良?」
「……苗木君が帰った後に、また来るわ」
 呆気にとられた私は返す言葉がすぐ出て来ず、そのまま霧切さんは行ってしまった。
 昨日の何かは、宵越しの怒りだったらしい。……苗木くんは霧切さんにいったい何をしてしまったのか……。

 そして、霧切さん以外は順調にいつものメンバーが集まる中で、珍しく姿を現したのは腐川さんだった。ジェノサイダーが朝食会に乱入したことはあったものの、腐川さんとしての参加はおよそ10日ぶりになるだろうか。
 心境の変化の理由は、「白夜様がぽっちゃり体型が好みと言ったから」。……それでも参加して一緒にご飯を取ってくれるのは嬉しい。それに、腐川さんは確かにもっとふくよかになって全然大丈夫な体型だ。
「食べるの! 強制的に胃に流しこむの! 倒れるまで食べるわよッ!」
「負けないよッ!!」
 フードファイトに応じる構えの朝日奈さんに、大神さんが制止をかける。
「よく噛んで、急に無理しないで食べてね……?」
灯滝っち……今度は子育てかーちゃん化してきたべ……」
 料理をしているのに、料理人から遠ざかっているとは……どうしたらいいんだろう……。


 話題は霧切さんの話に戻って、苗木くんとのトラブルが恋愛問題だと決めて掛かっている朝日奈さんは彼に非難轟々だった。
 そんな朝日奈さんに、腐川さんは「朝っぱらからいやらしい」と吐き捨てると、朝日奈さんがどんなにいやらしいか(という想像)をそういう類の小説さながらに描いていった。恍惚とした表情で酔う“超高校級の文学少女”は……恋愛だけでなく卑猥な描写も得意ということがわかった。
 大神さんが途中で腐川さんに顔に拳をキメる予告をしなければ、腐川さんの妄想朗読は続いていたんだろう……。朝食会が違った意味を帯びそうなほどの世界観だった。
 煩悩でジットリした空気は、大神さんによってだいたい一掃された。物語の主人公に仕立てあげられてしまった朝日奈さんは、余韻で真っ赤になっていたけれど……。

「とにかく、苗木っちと霧切っちは、ちゃんと仲直りしといた方がいいべ?」
 俺みたいに女から訴えられるよりマシだべ、と溜め息混じりで苗木くんを励ます葉隠くんを見て、……葉隠くんの通常の生活に途轍もない不安を感じた。昨日言っていた“山ほどの訴訟”の内の幾つかなんだろう。

 そんな流れで苗木くんは、何故か大神さんと後で話をしたいと切り出した。でも大神さんは「体の節々を痛めたので休ませてほしい」と断っていた。
「節々って……風邪とか高熱じゃない?」
「いや……違う。おそらくは休養で治るだろう。灯滝よ、食事は通常通りで構わぬ」
 暗に病人食を作るべきかと聞いたのを、大神さんは読み取ってくれたようだ。本人が言うのなら、気にしないことにした。

 そしてやっと朝食を食べ始めると、腐川さんの生い立ちエピソードに仰天しながら時間は過ぎた。ずっと一人で食事をしていたから人前で食べることに慣れていない、父と母と母とで暮らしている……などなど。
 葉隠くんといい……超高校級の人たちはやっぱり、育ちや生活が特殊な人も少なくないらしい。まあ……料理が生活の中心にある私も、似たようなものかもしれない。
 みんなが話す最中から苗木くんは急いでご飯をかき込んで、いち早く食堂を後にしていた。……霧切さんへの思いやり、だろう。



 霧切さんは、みんなのご飯が終わった頃にやって来て食事を取っていた。それとなく何があったのかを尋ねてみたけれど、彼女は鉄壁で開ける取っ手も見当たらない返しに、私はすごすごと諦めた。……残念ながら、苗木くんの力にはなれなかった。

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