忘れかけた頃にモノクマが口を挟み、忘れかけていた投票タイムが始まった。
 結果は満票で大神さん。もちろん正解だった。
「俺にはまだわからないことがある……。朝日奈……お前はなんの為に、大神の死を隠そうとしたんだ……」
 自分も処刑されるかもしれないのに何故、と十神くんが問うと、葉隠くんも、みんな死ぬところだったと朝日奈さんに向かって抗議した。
 そんな彼らに、朝日奈さんは……それこそが目的だ、と声を張り上げた。

 自分やみんなが大神さんを追い詰めて殺したのだから、みんなで償うべきだと涙を流して睨む朝日奈さんは、懐から紙を取り出した。
 娯楽室の前に落ちていたのを見つけて拾ったというそれには、『すべてに絶望した、殺されるくらいなら自らの手で終わらせる』という主旨の内容が書いてあった。
 それを大神さんの遺書だと思った朝日奈さんは、大神さんが絶望して自殺に至ったのだと考え、彼女の無念を晴らすために道連れを企てたのだと語った。

 
 そこで、これまで影の薄かったモノクマが一通の手紙を見せた。大神さんの署名が入ったその遺書は、朝日奈さんの部屋に置いてあったといい、朝日奈さんが見つけたものはモノクマの書いた落書きだと言い放った。
「……そんな、ひどい……」
 騙したのか、汚い、という非難にも、これは演出の一環で私たちが勝手に引っ掻き回しあっただけだと、モノクマはしゃあしゃあと語る。
 モノクマへの怒りで爆発しそうではあったけれど……どうにか堪えて、読み上げられる真の遺書の内容に耳を傾けた。

 大神さんは学園生活の初日の夜、一族の道場を人質に取られたことで黒幕の内通者となり、殺人を犯すよう命じられたが、最初の事件が早々に起きたために待機を命じられた。
 でも、私たちと過ごすうちに、大神さんは内通者として行動する決意が揺らいでいき……何より、親友と呼んでくれる朝日奈さんを裏切れないと思った。
 そして決心をして、モノクマに戦いを挑んだ。そのせいで内通者とバラされ周りから非難されても、彼女は受け入れる覚悟をしていた。
 だけど、そこから生まれた不協和音や疑心暗鬼は、大神さん以外にも向いていった。そこで彼女は事態の収拾を付けるために、黒幕からの命“殺人を犯す”を自分自身に向けて執行したのだった。

 人質となった道場を救い、他の誰も殺さない策。それが……自殺だったのだ。
 争いを止めるため、私たちを守るための行動だったのかと、朝日奈さんが呟くように漏らすのが聞こえた。
 大神さんの強さゆえの自己犠牲がこの結果となったのだ――そう言った霧切さんの声には、大神さんへの敬服の念が感じられた。
 また、遺書には朝日奈さんへの謝罪と仲間への想いも綴られていた。
 打ち明けずにすまない、遺書をもって真実を明かす役回りにしてすまない……。そして、自分たちは憎しみ合う敵同士ではなく“協力すべき仲間同士”なのだ、必ず生き延びるんだ……と。


 いったん読み終えたモノクマは、失笑混じりで朝日奈さんに、余計なおせっかいをしたせいで大神さんが無駄死にした、みんなに責められると囃し立てた。
「そもそも……お前が偽物の遺書なんかで、朝日奈さんを騙したのが悪いんだ……それに……大神さんは無駄死になんかじゃないッ!!」
「あぁ……そーだべ……俺らが、オーガに間違った憎しみを向けたせいで、こんな事になっちまったんだし……責めらんねーべ! 誰も……朝日奈っちを責めらんねーべ!」
 苗木くんの怒りを帯びた反論に、葉隠くんも追従した。

 内通者なんて関係ない、戦うべきなのはモノクマ――黒幕だけ。力強い苗木くんの言葉が、不和などなかった頃の姿勢を呼び戻していた。
「私は……大神さんの決意にも、朝日奈さんの覚悟にも気付けなかった。……力不足だった。だからこれからはその分、二人を……みんなを引っ掻き回した黒幕に、全力で立ち向かう……! 絶対、負けない……」
 彼らに煽られ私まで、できる限りの宣戦布告をしていた。でも、本気の本心だ。
 空気が変わったことを感じたモノクマは、敵はオマエラ同士だ、と“コロシアイ学園生活”の本分を唱えた。

「俺はこのゲームを降りる事にするぞ。」
 モノクマの言葉に乗りかけたように見えた十神くんも、朝日奈さんと大神さんの命を懸けた行いに“ゲーム”の状況の変化を見ていた。曰く、全員が恐怖心を捨てたこのゲームに参加する意味は無い、残った楽しみは黒幕に仕置きを食らわせること……。
 センチメンタリズムで決めたわけではないと釘を刺されても、ずっと敵扱いされていた十神くんの言葉を、苗木くんは心強く感じたようだった。
 ジェノサイダーは当然のように、十神くんに付いて行くと即断。
 みんなの様子を見ていた霧切さんが、モノクマに大神さんの死が無駄だったかと問う。私たちは……かつてない程に、団結していた。


「フン……つまんないの……だけど……いいもんねーだ……」
 いじけたように吐くモノクマは、最後の砦と言わんばかりにおしおきタイムを宣告した。
 だけどクロの大神さんはすでにいない。代わりの生徒をオシオキするわけでもないと言う。
「そこで、スペシャルゲストを用意しました〜! では張り切っていきましょう! おしおきターイム!」
 オシオキ開始のスイッチは押されず、呆気にとられる私たちの目の前でそれは始まってしまった。
 現れたのは――アルターエゴだった。

 ノートパソコンのディスプレイからキョロキョロと周りを覗うアルターエゴ。周囲に見えるは、青空の下の高層ビルと鉄柵を模したハリボテ。……さながら都会の工事現場だ。
 ウェブカメラは正面を映す。離れた距離から見つめる私たちは見えているだろうか。
 アルターエゴの声は届かない。その背後から、鈍いエンジン音を立てて近付く、大きな巨体があった。ハリボテの背景をなぎ倒したそれは……ショベルカーだった。
 希望ヶ峰印のショベルカーには、黄色いヘルメットを被ったやたらと筋肉質なモノクマが運転席にどっかりと座っていた。
 モノクマはレバーを操り――アルターエゴにショベルを落とした。

 それからは一瞬だった。
 ぐしゃり、と潰してから、目にも留まらぬ早さで部品レベルまで砕いていった。
 衝撃に痛そうな顔をしたアルターエゴの表情が、最後の姿だった。
 モノクマは器用なレバー操作で作業を続ける。
 最後にショベルが動き離れると……そこには匠の技によって変わり果てたボール状のアルターエゴがあった。
 ――ボールの向きを正面に直した“ショベルの達人”は、モノクマの顔を模したそれを……アルターボールと名付けた。


「よ、よくも……ボクらの仲間を……ッ! よくも殺したなッ!!」
 怒りに震える苗木くんを茶化したモノクマは、アルターエゴが目障りだったのだと吐き捨てた。
 モノクマは最初から今まで、敢えて泳がせていたのだ。アルターエゴを仕立てることやパソコン内の情報を解析することまでは、許容範囲かつ到達特典だったものの、ネットワークへの干渉は目に余ったので処分を決めたのだ、と言った。
 ……ネットワークに繋ぐのはリスクが大きいから今はやめよう、という話になったのは、解析途中の時だった。
 役目を終えたアルターエゴを誰かがネットワークに繋げたのだ。おそらく私が部屋に篭っていた間のことなんだろう。初耳だった。


 モノクマは最後に、大神さんの遺書の最終部分を読んだ。
『黒幕は我らの体に“ある事”をしている。その“ある事”とは、おそらく……』
 さっきの憂さ晴らしと言わんばかりに、モノクマは中途半端なところで止めた。
 しかし結びの言葉に機嫌を損ねたモノクマは、コロシアイから対黒幕へと団結した私たちに“卒業”への未練を問うて去って行った。
『我は、ただでは死なん。必ずや黒幕に一矢報いる……』――それは私たちへの後押しになると思わせてくれる、強さを感じる言葉だった。

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