十神くんが食堂から居なくなってからは、気を取り直して夕食の支度をしながら定刻にみんなが集まるのを待った。
「全員、戻ってきたようだな……」
 夜になって集合した面々を確認した十神くんは、灯滝、と厨房の私に声を掛けた。それを合図に、私は料理を大テーブルに運び始めた。
 私は料理人なので給仕でもましてや召使いでもないと、強い思いを込めて事前に言っておいたはずなんだけど……十神くんがちゃんと聞いてくれた気がしない。正直、小間使い感覚だと思う。

「……おや? 十神っちも食うんか?」
 並びだす料理から、既にテーブルに並んでいる食器を流れ見た葉隠くんは、朝のやり取りを思い出したらしい。
灯滝がこれから全員分を用意し続けるのは決定事項だ」
「へっ……いつの間に」
「なんだ、やっぱ十神も食べたかったんじゃん!」
 葉隠くんだけでなく朝日奈さんが突っ込むと、十神くんの表情はご機嫌斜めに傾いていった。

 腐川さんは閉口命令継続中のようで、顔だけは驚きや怒りにくるくる変化するも、絶対に一言も喋らない。……収束に持っていくためには私が言うしかないらしい。
「夕方にリーダー命令があったんだよ。だから全部で7人分、ここを出る最後の日まで作り続けるよ」
「リーダー……って、十神クン?」
「俺以外に適す人間がいるか?」
「……あー。どうぞどうぞ」
 質問に質問返しされた苗木くんは、少しの間を置いて悟ったように返していた。もう多くは言わずに、十神くんに任せることにしたようだった。



「……にしても、7人で全員なんだな……。カバディ1チーム分しかないべ……」
「ハンドボールだって7人チームだよ! ていうか他にもあるでしょもっと!!」
 葉隠くんと朝日奈さんが言い合っている、そしてさっき自分でも言った数字。
 7人は――最初の人数の半分以下だ。もう、9人も居なくなってしまった。
 現実に沈みそうになったところを、「死んでいったみんなのためにも前を向こう」と苗木くんが励ました。

 何となくまとまったところで改めて十神くんが仕切り直し、食事を取りながらの報告会は始まった。
 今回の開放区域は校舎の5階部分。その5階でも、生物室は鍵がかかっていた。
 5階には上り階段がなかった。つまり、校舎は5階建てで打ち止め。私たちはこれらから、学園や黒幕の謎を暴いていくことになる。
 他にあった施設は教室と、武道場、植物庭園。
 武道場は桜舞い散る弓道場がメインの和な空間。植物庭園はど真ん中にモノクマフラワーなる超巨大雑食植物(モノクマ曰く、ゴミでも人でも溶かしてしまうとか)が鎮座し、壁一面が青空に塗られた、自然と人工が入り混じった空間だった。


 葉隠くんは植物庭園を念入りに調べていたようで、報告しながら気になる点をいくつも挙げていった。
 植物庭園は朝の7時半にスプリンクラーの自動散水があり、それによってモノクマフラワーを始めとした植物たちは育っているらしい。
 その中で、手前の飼育小屋にはニワトリが“ぴったり5羽”いたという話題が出て、新鮮なら生で食べようと朝日奈さんが盛り上がった。葉隠くんも便乗するかと思いきや、「食中毒になる」と冷静にツッコんだのが意外だった。
「確かに鶏肉の生食は危ないよね。鶏刺しは美味しいけど、相当気を使って捌かないとなあ……」
 もし潰すなら場所はどうしようか、と思い浮かべていたところに、苗木君が驚愕の表情で私に呟いた。

「えっ! 灯滝さん、ニワトリ捌けるの!?」
「うん。小動物までは一人でも落とせるよ」
「なッ……あんなかわいいニワトリをシメるんか!? 悪魔か灯滝っち!!」
 私の答えに、葉隠くんまでも恐怖に染まっていた。持った食器が震えている。
「一人で落とせる範囲の鳥獣……ということは、複数なら大物も出来るのかしら」
「解体が専門じゃないから、大物は流れを把握してる程度だよ。でも……このニワトリは、本当に食べ物がなくなるまでは飼っておきたいね」
 霧切さんは相槌を打って、確かに今は捌く必要性がないと私に返した。

 私がいた学校ではそういう授業があったし、師匠に付いて地方に行った時に経験したのだけど……これはやっぱり普通ではなかったらしい。
「そっか……。じゃあたくさんご飯あげて、まるまる太らせようね!」
「あああ……ドナドナ待ったなしだべ……!」
 楽しみが増えたと言わんばかりの朝日奈さんとは正反対に、葉隠くんは頭を抱えていた。
 まあ……私だって無益な殺生はしたくない。命を奪う時はそれ相応の理由がなければ許されない。……料理に携わる過程は、人以外の死を見ることでもあるのだ。


 ニワトリの話が落ち着くと、植物庭園の奥の物置へと話題が移った。そこには園芸用品が並ぶ中、柄に“暮威慈畏大亜紋土”の文字が入ったツルハシがあったという。
 大和田くんの暴走族チームの名前が、どうして開放されたばかりの場所から見つかるのか……また黒幕の悪戯なのか、新たな謎となった。
 それより葉隠くんは、物置にあった芝刈り機で助けを呼べるのでは、と意気込んでいた。
「芝刈り機でどうやって助けを呼ぶの?」
「まだ、わかんねーのか!? ミステリーサークルを作るんだ! 芝刈り機でミステリーサークルを作るんだよ!! 呼ぶんだ……呼ぶんだよッ!!」

 朝日奈さんの質問はもっともだったが、葉隠くんの答えはただのオカルトだった。
「葉隠くん……窓一つないところで作ったって、誰も見られないよ……」
「あっ……! あの青空、作りもんだったべ……」
 うっかり、といった様子で手を口にあてる葉隠くんに、こちらはがっくりと肩を落とすしかなかった。
「葉隠ってさ……どうしてそうなっちゃったの……? 最初の頃は、そんなヤツじゃなかったのに……」
「あの頃は、まだキャラが固まってなかったんだべ。」

 呆れ返った朝日奈さんは、過去を懐かしむところまできていた。私も思い返してみる。
 最初の頃の……まだコロシアイが起きていなかった頃の葉隠くんは、楽観的だったけどあまり物事に動じない人だと思っていた。
 知れば知るほどに頼れなくなる最年長というのは、たぶん珍しい。

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