「はー、とにかく外に出たいべ……。俺のオーパーツ、無事なんかな……」
「オーパーツ……?」
「あれっ、灯滝っちにはまだ話してなかったか? ふっふっふ……聞いて驚くなよ、俺の家には古代文明の秘宝がわんさかあるんだべ!!」
 葉隠くんはシリアスに心配事を呟いたと思ったら、私が聞き返すと身を立てて自慢気に胸を反らした。
 楽しそうではあるけれど……今後のことを考えて張り詰めた気分が、一気に緩んでしまった。

「へー、古代文明……」
「う、薄い……反応があっさり塩味だぞ灯滝っち! オメーは本物のピラミッド・アイ・タブレットやネブラ・ディスクが手元にあるという事のヤバさがわかんねーのか!?」
「すごそうだけどさ、そういうのって博物館とかに置いてあるんじゃないの?」
「ところがッ、超秘密裏にネット通販してるところがあるんだべ! ……あっ、これ内緒な! オフレコなっ!」

 仮に本物の古代の品物が売られるとしても、普通は競売とかで大々的にしそうな気がする。そんな貴重品が話題にもならず流れてくるなんて、私には考えにくかった。
 これは……きっと偽物を掴まされている。
「……それじゃあ、いい値段するんだろうね」
「まあ、なんたってオーパーツだかんな……だからあらゆる手段で金儲けして、コレクションを増やしたいわけだ!」
「あー、そうなんだ……」

 占いで稼いでいるはずの葉隠くんが、さらにお金を求めている理由が見えた。
 趣味につぎ込む額が、半端ないのだ。しかも贋作と気づかずに、お金を落としているのだ……。
「葉隠くん……ここ出たらナントカ鑑定団みたいなの出演してみたら?」
 所持品の本当の価値を知ったらショックで立ち直れなくなるかもしれないけれど……強引なお金の回収を改めてもらう為には、現実を見せるしかないだろう。

 私の提案を聞いた葉隠くんは、少しだけ考えるような顔をしてから、すぐ爽やかに笑った。
「んー……。でも俺は、本物のオーパーツが手元にあるってだけで満足だからな……。そういう大切な物の価値ってよ、幾らになるかじゃないと思うべ。」
「……ああ……。良いこと言ってるんだけどな……」
 物の価値は値段ではない。――その通りだと、私も思う。
 でも、根本的なところから間違っている葉隠くんと同じ意味で通じ合えた気は……しなかった。



 その後も何だかんだと話をして……、私も私で師匠に出会った経緯や、ゆるキャラに対する熱意なんかを語ってしまった。
 葉隠くんは自分から話すことが多いけど、相手の話を引き出すのも上手いと思う。それは占いの仕事柄と、以前に言っていたのを思い出した。
 話題が一区切りつくと葉隠くんはニワトリを構って、私はそんなやり取りを見たり、緑を見たり、…………うとうとしていた。

「……ギャー灯滝っち! 危ねーっ!! 前に徹夜した鋼の意思はどこ行ったんだべ!? 身代わりとか関係なく俺の目の前で死ぬのはやめろってー!!」
「――んん!?」
 激しく揺さぶられて意識が戻ると、葉隠くんが半泣きだった。……この前は焼き立て餃子を食べて泣きそうになってたし、涙腺が弱いんだろうかと半覚醒の頭でぼんやりと思う。
 とにかく、助かったとお礼を言って、体を目覚めさせようと大きく伸びをした。

「あー、何だろう、疲れかな……。葉隠くんありがとうね。一躍、命の恩人になったよ」
「……こんなところで油断したらダメだべ」
「ごめん。気をつける」
「部屋に戻って昼寝したらどうだ? 飯作るまでは時間あるべ?」
「って、今何時だろ? ……思ったより長居してたな」
 時計を確認すると、昼休みの半分くらいをここで休憩しようと来たつもりが予想以上に時間が過ぎていた。


「たまには、のんびりもいいべ。居眠りは勘弁だけどな」
「うん、寝ないよ……だって死にたくないっ」
「なら部屋で30分でも1時間でも寝とけって。こっちだって死なれたら困るべ」
 今から部屋に戻れば、少しは寝られる。もとより、休養にあてると決めた時間だ。しっかり疲れを取ったほうが後々楽になるだろう。
 本当に居眠りで殺されるなんてことになったら……不注意にも程がある。

「……そうしようかな」
「おう。それが吉だって俺の直感が言ってるべ!」
「葉隠くんの直感って当たるの?」
「わからん!」
 自分の直感を持ち出した葉隠くんは、自信満々の表情そのままに即答した。
 期待値は急降下だった。
「えー……」

「正確には、当たったか細かく計算したことがないから、わからん。なにせ直感は突然、ふいに出て来るからな。……でも、直感を信じて失敗した記憶はないっ」
 言い直してまでキッパリ言い切られると、……その自信が本物かと試してみたくなる。
「葉隠くん……記憶力いいほう? さっき言った、私の師匠の通り名覚えてる?」
「んー…………なんだっけ?」
「……うん、直感は占いよりあやふやってことだね」
「ちょっ、早いべ! 灯滝っちって俺の能力関係全然信じねーのな……!」


 葉隠くんの特殊な能力を認めていないわけではない。実際に当たった占いもあったのだから、彼の才能は本物だと思う。
 ただ、信じきるのは良くないと思っているだけだ。……誰かに頼りきっては今後の“独り立ち”も独り立ちと言えなくなってしまう。
「でも、直感に従うよ。少し寝てくる。」
「おー行って来い。俺は飯までここにいるべ」

 敷いてくれた上着のことでもう一回ありがとうと伝えて、また後でと手を振って植物庭園を出た。
 ただ葉隠くんと一緒にいて、話したり何もしなかったりな時間だったけれど、気持ちは充分に満ちていた。葉隠くんの場合、存在自体が特別なところがあるし、別段特別なことはいらないんだと思う。
 あとは仮眠をして体の疲れを減らせば、今日の休養計画は大成功だ。
 いい気分で校舎の階段をするする降りた私は、寄宿舎の自室へとまっすぐ帰った。

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