『ピンポーン、ピンポーン……』
 夜時間を過ぎたというのに、部屋の呼び鈴が鳴った。
 私は、寝ていたわけではなかったが……絶賛着替え途中だった。
「ちょっ……ちょっと、待って!」
 モノクマ曰く防音バッチリの室内から、廊下の呼び主に向かって叫んでも聞こえないとは思いつつ、叫ぶ。
 個室の扉にはドアスコープが付いていないので、誰が呼んでいるかは開けるまでわからない。
 慌てて服を着直して、ドアを開けた。

「遅い。」
「ご、ごめ……」
 開口一番の不機嫌な声色に反射的に謝ると、その後ろから違う声がした。
「よっ、灯滝っち。夜分にすまんな」
 やや眉間にシワを寄せた十神くんと、片手で拝みながらも全然すまなそうな顔をしてない葉隠くん。ある意味普段通りの二人が、珍しい組み合わせで、何故か私の部屋の前に居た。


「……んん? 二人してどうしたの? 私に用事?」
「んー、まずはだな。夜中に呼び出すような客人が誰かも確認せず、勢い良く開けるのはいろいろと危ねーぞ?」
「そう言えば、灯滝はこの前も鍵を開けて呑気に寝ていたな。……余程殺されたいと見える」
「え……死にたくない」
 十神くんの苛つきは収まったと思いきや、葉隠くんの発言を受けて余計に凄まれてしまった。声は呆れ気味だ。

「フン……どうせお前は命を狙われた経験などないのだろう」
「そんな人生歩んでるの十神くんくらいじゃ……」
「俺も追われる身だったから、そういう部分は徹底してるぞ!」
「えっ」
「……あっ」
 命を狙われるような人生を歩んでいたのは、十神くんの隣の人もだったらしい。
 破天荒なプライベートを零した葉隠くんは、私が驚いたような反応をすると口に手をやった。

「あー、とにかくだな……! もう誰も殺さんだろうけどよ、用心しとけって事だべ!」
 切り替えるように、わざとらしく私に注意をして、葉隠くんはまとめに掛かった。
「まあ、今は殺さないでやるから安心しろ。……俺たちは招集で来た。」
「こんな時間に、招集?」
 ……それより本題が重要だ。招集の理由は、十神くんから説明された。


「体育館で動かなくなったモノクマを発見した。俺は一刻も早く集まるべきだと考え、とりあえず居場所の目星がつく葉隠に声を掛けてきた。……着いた時にはすでに夜時間だったが、案の定こいつは植物庭園に入り浸っていた」
「でもな、俺の目当ては植物じゃねーぞ! ニワトリに癒やされてたんだ! あそこはニワトリ庭園に改名すべきだべ!」
「……灯滝、この面倒な男を黙らせろ」
「私は葉隠くんの保護者じゃないんだけど……」

 心底辟易しているという顔で、十神くんは葉隠くんをチラリと見て私に目配せした。十神くんは葉隠くんと相性が悪いと感じているらしい。……葉隠くん側はそう思っていなさそうなのが、余計に癇に障るのだろう。
「お前を呼ぶより先に苗木の部屋に行ったんだが、呼び鈴を鳴らしても反応がなかったのでな」
 つまり十神くんは、最初に声を掛けたものの葉隠くんの扱いに困ったので、苗木くんに助けを求めに行った……とも聞こえた。

「これから朝日奈っちと腐川っちを呼び出して、最後にもう一回苗木っちを呼ぶべ」
「あいつの今日の様子からして、どこかに出ているようには思えんのだが……」
「苗木くんは……寝込んじゃってるのかもしれないね」
 苗木くんは夕食時に食堂に顔を出していなかった。お昼の時もかなり調子が悪そうだったし、風邪を引いてしまったのかもしれない。


「葉隠を呼ぶ道すがらに軽く校舎側を見て回ったが、やはり霧切は見つからなかった。出来る限り全員で体育館へ向かいたかったが……仕方がない」
「さっき十神っちと寄宿舎側も見たけど、ぜーんぶ空振りだったべ」
「霧切さん……どこに消えちゃったんだろう」
「案外、女子トイレにでも潜伏していたりしてな。さすがにそこまでは調べていないからな」
「そこ調べてたら変態の称号ゲットだべ……ぐっ」
 急に呻いた葉隠くんを見ると、十神くんからみぞおち辺りに一撃を食らって悶えていた。

「……女子トイレ、見て回ってこようか?」
「馬鹿、冗談だ。十数時間もトイレに潜伏して何になる? それにトイレに監視カメラが無くても廊下にはあるんだから、出入りの様子はモノクマに見えるはずだ。あいつが把握していない時点で、霧切は全く別の場所にいると予想している。お前が行ったところで、どうせ徒労に終わるぞ。」
「その割に……一通り見て回ってるのは何でだべ……」
「監視カメラの動作確認だ。朝食の後から何度か見て回ったが……破壊も故障も見られなかった。……今はモノクマの動作が止まっているとはいえ、俺たちが出入りできる場所に霧切が居る可能性は、やはり低い。」

「なるほど……」
 苦しそうに腹部をさする葉隠くんが気になりつつも、十神くんの推理はもっともだと納得していた。……だけど、それが当たっているとなると、霧切さんがどうしてそんな芸当が出来るのか、ますますわからなかった。
「霧切の件は置いておく他あるまい。事情が理解ができたら早く部屋を出て来い。……女子は特に用意は要らんが、長丁場になるだろうという事は覚悟しておけ。」


 十神くんの言葉に心構えをした私は、部屋を出て彼らに付いて行った。
 その後、朝日奈さんと腐川さんにも声を掛け、事情を話して来てもらった。二人とも部屋にいたので順調だったものの、苗木くんだけは何度呼び鈴を鳴らしても返事はなかった。
 結局私たちは、5人で体育館へと向かったのだった。





 体育館には、モノクマがいた。
 が、十神くんが言うように動いていなかった。話しかけても返事はなく、軽く突付いても反応はなかった。
「うわっ、本当だ! モノクマ、どうしちゃったんだろ」
「もしかして、黒幕の身に異変でも起きたとか……?」
「単なるモノクマの故障じゃねーか? 黒幕はすでに新しいのを使ってるんだべ」
「お、大和田が爆発させた時は……すぐにスペアが出てきてたわね……」
「だが何故こいつを回収しに来ない? 俺がお前たちを呼び集めるまで数十分はあったが、発見した状態のままだぞ。……来られない事情があるのか、あるいは……。」

 みんな口々に所感を言い合って、モノクマにペタペタと触れた。動かなくなったモノクマは、魂が抜けたようというか……本当にただの“物”だった。
「……おい、状況は把握しただろう。お前たちを集めたのは単なる報告のためではない。これよりモノクマの分解作業を行うぞ。」
 不意の言葉にぎょっとして、宣言をした十神くんのほうを向いた。

「マジでバラすんか、十神っち……」
「葉隠、持って来ていないとは言わせんぞ」
 乗り気でない様子で確認する葉隠くんにも、十神くんは容赦がなかった。
 葉隠くんは観念したように、懐から何かを取り出した。
「あっ、工具セット」
「男子のみの支給品だ。苗木が不参加なので、二組しかないが……これを使って慎重かつ早急に“精密機械”モノクマを探る。……黒幕への手がかりに繋がるかもしれん」


 十神くんは全員の注目が向いたことを確認すると、続けて指示をした。
「作業は目処がつくまで、夜通し行う。手の空く者は新たなモノクマや不審者が現れないか見張りをしろ。そして体育館を出る時は必ず二人以上で行動すること。いいな!」
「か、かしこまりました白夜様ッ!!」
「えっ! 寝られないってこと!?」
「こんな千載一遇の好機を逃してたまるか。一日くらい寝ずとも死なん。」
「鬼だ、十神は鬼だよっ!」

 かしずく腐川さんとは対照的に、朝日奈さんは十神くんに抗議の姿勢を向けた。でも、状況的に渋々受け入れるようだった。
 私は納得したというか、さっき言われたとおりに心構えをしていたので、夜時間中に片がつくといいなと思いつつ、葉隠くんの工具セットの中身を見せてもらっていた。
「なんか、十神くん……生き生きしてるね」
「発言の強い霧切っちが居ないから、存分にリーダーシップを発揮してるんだべ……」
 そんな話をコソコソと喋りながら、工具セットの簡易的なラインナップを見た葉隠くんは「これだけでモノクマフルオープンはなかなか骨が折れそうだべ」と呟いた。

「それにしても、徹夜か……昼寝しておいてよかった……」
「俺の直感ぴったしだったな! 信じてよかったべ?」
「今回は当たったね」
「“は”って何だべ!」
「――おい! そこの馬鹿と大馬鹿、さっさと取り掛かれ!」
 朝日奈さんとの話を終えたらしい十神くんが、大声で私たちに発破をかけてきた。……実に十神くんらしい例えだった。

「……どっちがどっち?」
「つーか……どっちも嫌だべ……」
 どちらにしても、十神くんからしたら私も葉隠くんも“馬鹿”らしい。今更返す言葉も出て来なかった。
 馬鹿なりにリーダーの手足になるのが今の最善なんだと思うことにして、私は葉隠くんと、モノクマの開け口を探しに動いた。

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