情報処理室から全員で植物庭園に戻り、現場と死体の状況の確認が始まった。
 ……といっても、主だって動いているのは十神くんと苗木くんだけだった。腐川さんは気絶しないように死体を見ることを避けている。朝日奈さんと葉隠くん、そして私は死体に近づけず……というか近づかず遠巻きにしていた。自然と現場保持役が何人もいる形だ。
 死体からは、今も焦げた上半身から異臭が漂ってくる。破れて煤けた白衣……その腹部に刺さっていた刃物は、爆発で抜けて1メートルほど離れた場所に落ちていた。

 今は11時、と葉隠くんが苗木くんに話す声が聞こえた。移動や探索でバタバタとしていたので、思ったより時間が過ぎていたのだ。
 通常なら昼食の準備に取り掛かる時間帯だけど、この死体発見から今までの衝撃的な出来事続きでは、さすがに私でもご飯を気にすることがナンセンスな気持ちになる。
 そもそもこの状態を目の当たりにして、食欲を感じるかといったら……いいえ、だ。朝日奈がさっきに言ったような精進料理でも、難しそうだった。


「おい灯滝。昼の頃合いだぞ。突っ立っていないで役割を全うしろ」
 ぼうっと考えていたところに厳しい声が飛んできた。縮こまって振り返ると、相変わらず上から見下げる十神くんがいた。
「ごめ……捜査するね」
「そうじゃない。そもそもお前の捜査で成果など期待していない。……お前は“7人分の料理を、ここを出る最後の日まで作り続ける”のだろう?」

「え、……作りに行っていいの?」
「上からの指示は死んでも守れ。それが下に付く者の存在価値と思え。」
 料理なんてどうでもいいと考えていそうだった十神くんが、私が言った言葉すら覚えていたのは……意外だった。
 ただ、意外すぎて恐る恐る聞き返したら、単に指示を守らせるためだったらしい。……まあそうか、と私は少しばかり肩を落とした。

 しかしそこからの十神くんは、端的かつ必要十分な指示を振るった。
「最小限の時間で、最低限のものを仕上げてこい。片手間でも摘める軽食……と言わんでもわかっているだろうな。俺と苗木は後で食堂に取りに行く。霧切の分も置いておいていい。ここの奴らには運んでやれ。お前を含め4人だ、2人ずつ交代で昼食を取っておけ。……今後も何があるか分からんからな」
「……わかった、準備してくる」

 十神くんからの指示を頭に入れると、短く返事をして、早足で植物庭園を出た。
 内容からして……昨夜から展開が目まぐるしい中で、十神くんは補給も重要と見たのだと思う。
 ただ、みんなの食欲の問題は度外視しているから……それでも口に入れられるものを用意しなければならない。
 料理で縛りがつくと、腕の見せどころだ。必ず要求以上に満足させるものを作るべく、私は移動しながら献立を考えた。





 軽食を携えて植物庭園に戻ると、現場に残っていた朝日奈さん、腐川さん、葉隠くんたちと交代で食事を取って、私も本格的な捜査を始めた。
 十神くんにはああ言われたものの、何もしないで学級裁判を待つのも嫌だった。万が一、良くない結果になってしまったら、後悔する間もなく死んでしまうのだ。

 まずは状況の整理から始める。
 死体を見つけたのは腐川さんがツルハシを持ち出しに植物庭園に行った時間、9時頃。そして植物庭園には、前夜の夜時間を少し過ぎた頃まで葉隠くんが居て、十神くんに呼ばれて離れるまで異常がなかったことを確認している。
 つまり22時から9時までの間に、植物庭園に死体を置くことのできる人間が怪しい。
 でもその時間帯は……モノクマ分解で集まっていた時間帯だった。十神くんが敷いた2人行動ルールもあって、徹夜組は単独行動できる隙がない。腐川さんのツルハシ探しの時間もほんの数分なので、あんな死体を用意する時間はないだろう。
 となると、犯人は苗木くん、霧切さん、戦刃むくろ……被害者は苗木くん以外のどちらか……。


 大方の目星をつけたので、次は現場を見ていく。
 死体の近くに落ちている、爆発するまで刺さっていた刃物はサバイバルナイフだ。数日前に腐川さんが見つけて苗木くんに渡したものにとても似ている……というかそのものだ。苗木くんの所持品が使われているなんて、とても怪しいけど……彼を疑えと言っているようにも思える。
 モノクマファイルを見ると、死体の死因ははっきりとは書かれていなかったが、爆破は死後であったことと、“背中まで達した腹部のナイフの傷”“後頭部に鉄パイプ程度の太さの棒状の物で殴られた形跡”“以前からあったと見られる全身の傷跡”という3つの特徴的な外傷が記されていた。
 このナイフ以外に、後頭部を襲った凶器も探す必要がありそうだ。

 それに、死体の周りに散らばった欠片は……爆発の名残だろうか。覆面を剥がそうとした時に爆発したのだから、そこにスイッチかセンサーがあったのだろう。爆発の範囲的に火薬も顔付近に置かれていたと考えられる。
 女性である以外の外見的特徴がわからないように見えた死体も、再度見ると手の指先には赤いつけ爪、甲にはイヌのような動物の紋様があった。
 霧切さんは両手に手袋をしていた。この紋様を隠すためにそうしていたのか……それとも死体は戦刃むくろなのか、判断はできなかった。


 いったん死体周辺から離れて、植物庭園を見て回る。
 先ほどの食事中に葉隠くんが“ニワトリが1羽減っている”と半泣きで話していたので、ニワトリ小屋を覗いてみた。
 5羽のはずが4羽。確かに減っていた。
 昨日の夜時間までは5羽いたらしいので、それ以降に脱走でもしたのだろうか? でも出られる穴は見当たらない。誰かが外に出したのなら、その意図は何なのか……。
 葉隠くんのほか、朝日奈さんや腐川さんと話をしてみたけれど、手がかりらしいものを掴むことはできなかった。

 他はこれといって植物庭園に変化は確認できず、最後に物置を開けて例のツルハシや汚れたビニールシートを見ていたところで調査終了のチャイムが鳴った。
 今までより、やや調査の時間が短かった気がする。別の場所の捜査もしたかったけれど仕方がないので、現場に残っていた4人で赤い扉まで向かった。
 その数分後に、苗木くんと十神くんは二人でやって来た。共に捜査する予定があったので、二人の軽食を食堂に置いておくように十神くんは言ったのだと、ここで合点がいった。


 6人が集まっても、モノクマはしばらく現れなかった。10分以上待ったあと、ようやく姿を見せたモノクマは、待たせたと怒る私たち(主に十神くん)に「全員揃っていないから待っていたが、来ないヤツは校則違反」と企み顔で笑った。
「……私ならいるわよ。」
 耳に飛び込んだのは、数日ぶりの声色だった。
「き、霧切さん……!!」
 行方がわからなかった霧切さんが、私たちの前に姿を現したのだ。

 驚きとともに彼女を迎え入れた私たちを横目に、モノクマは急かす言葉を残して先に行ってしまった。“ちゃんと来た”霧切さんを校則違反にできなかったことに、苛立ちを覚えたようだった。
 モノクマが去ると、再び霧切さんに話題は集中した。ただ、生きていてよかったと話している中で、十神くんは「俺達に喜ばしい事態とも言い切れん」と厳しい顔で言っていた。
 そして葉隠くんは突然登場した霧切さんを幽霊だと決めつけ、エレベーターに乗っても、全員が無言の空間でガタガタ震えていた。

 ――もう起こらないと思っていた学級裁判は……今まで以上にわからないことだらけの状態で、再び7人で……始まろうとしていた。

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