イレギュラーだらけの学級裁判が終わったその足で、私たちは食堂に集まった。
 事情を把握するため、まずは学級裁判で出来事の整理から始めた。
 学級裁判中に霧切さんが“黒幕の罠”と言ったのは、もともと黒幕は霧切さんを犯人に仕立てあげようと企てていたのを指していた。
 だから霧切さんは、必死に身に振りかかかってくる火の粉を払うがごとく自分の潔白を証明していった。しかし、霧切さんと苗木くん以外のアリバイがあったために、学級裁判は自然と苗木くんとの対決になってしまい、苗木くんを犯人視することに繋がってしまった。

 だとすると、処刑対象が苗木くんになっても、黒幕が急かすようにオシオキを始めたことが不思議に思える。
 霧切さんは苗木くんを犯人ではないと見ていて、黒幕が処刑を強行したのは霧切さんに次いで苗木くんも殺しておきたかったからだと考えていた。
 ……でもそれだと、真犯人を明かさないまま黒幕が“クロ以外をオシオキにかける”というおかしな事態だ。
 「ルールを破るということは、それだけ黒幕が追い詰められているのだ」と霧切さんは言ったけれど、私にはどういう意味なのか理解しかねた。


 アルターエゴの活躍で苗木くんは命こそ取り留めたものの、ベルトコンベアーの先の穴へと消えた彼の生死と所在はわからない。
「オシオキされても死なん奴がいるって……この前占った時に出てたべ。あれは苗木っちのことだったんだべ……」
「その占いって……大神さんの学級裁判の前に言ってたよね……!」
「じゃあ、苗木はまだどこかで生きてる!?」
「早く探さないと……!」
 葉隠くんの言葉に沸き立つ私と朝日奈さんとは真逆に、十神くんは落ち着いたまま霧切さんに疑問を投げた。

「所在不明といえば……そもそも、霧切は今までどこで何をしていたんだ。」
「あっ、そういやそうだべ! モノクマが“ドロボウに宝物を盗まれた”っつって、カンカンだったべ!」
 葉隠くんも続いて霧切さんに尋ねると、彼女は一瞬の間を持って端的に答えた。
「……調べ物をしていたのよ」
「ど、どこでかを言いなさいよ! 白夜様が聞いているのよ……!」
「秘密の場所……といったところかしら」
「また秘密か……。学園の謎解きもいいが、お前自身に謎が多すぎる」


 それでは信用できないと、十神くんは眉根を寄せて小さく溜め息をついた。
 霧切さんはそんな彼を見て、私たちにも目を遣ると、口を開いた。
「……私の記憶喪失の事だけれど……少し思い出したわ」
「本当!? 思い出せたの!?」
「単に、情報を小出しにしたいだけかもしれないじゃない……」
 朝日奈さんと腐川さんの言葉を静かに聞いてから、霧切さんは続けた。

「私は、ここの学園長に……生き別れた父に会うために、自ら才能を売り込んで希望ヶ峰学園へ入学したの。」
「父親……!?」
「へっ、父ちゃん!?」
「学園長が、お父さんなの!?」
 衝撃的な告白に、みんな一斉に目を見開いていた。
 霧切さんだけが顔色一つ変えずにいることが奇妙に思えるくらいだった。
「そう。そして、彼に絶縁を叩きつけるために来たのよ」
「え、……それは、穏やかじゃない……」

 霧切さんはそれ以上、学園長との内情については話さなかった。
「大神さんが鍵を破ってくれた後に学園長室に入ったけれど、部屋は既にめちゃくちゃに荒らされていたわ。自分の部屋を荒らしはしないだろうし……彼は黒幕ではないでしょうね」
「お、大神さくらが、荒らしたんじゃないの……?」
「あいつは鍵を破ってから、自ら命を絶つまでを自分に課していたんだ。途中で黒幕に見つかるような目立つ真似はしないだろう」
 腐川さんの疑問を十神くんが補足した。私たちに託す気持ちで校則違反を犯した大神さんの心情を考えても、部屋の中を掻き回す意味は無いように思えた。


「となると、黒幕はまた別にいるんか……。そういや、戦刃むくろは結局黒幕じゃなかったんか?」
「いいえ、彼女も黒幕に違いないわ。“超高校級の絶望”は二人いるのよ」
「えっ、二人!?」
「それはまた、新情報だね……」
 葉隠くんが黒幕の話題を尋ねると、霧切さんは断定的に言った。朝日奈さんは目を丸くし、私は予想もしなかった情報続きで混乱してきた。

「黒幕は二人いて、片方がもう片方――戦刃むくろを殺した。こう考えれば、辻褄は合うでしょう?」
「そりゃそうだがよ……」
「でも、そうだと……さっきの学級裁判はますます意味がわからないよ……?」
 私も、納得しきれない様子の葉隠くんと同じ思いだった。
 “学級裁判の参加者=コロシアイ学園生活参加者”なのに、犯人が苗木くんでもここにいる私たちでもない……? 他はみんな死んでしまっているのに……?


「しかし、学級裁判は終わったんだ。……次に目を向けるほかあるまい」
「そうね……。まだ早いし、これからのための行動を始めましょう」
 十神くんの提案に、霧切さんが同意した。
 夕食まで苗木くんを見つける手がかりを探すとともに、学級裁判後ということで学園内の探索をすることで話は落ち着いた。

「――灯滝、夕食は3時間後でいいな?」
「充分だよ。」
「では3時間後に再び集合だ。各自、用事は済ませておけ。以上」
 十神くんの指示で、一同は解散した。
 ……私はまず、夕食の準備からだ。

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