翌日、朝食後から再び探索したものの、やはり新しい開放区域はないという結果に終わった。
 苗木くんへのオシオキが不完全だったせいなのか、寄宿舎の2階部分も校舎側の鍵のかかった部屋も入ることは出来なかった。
 入れる場所の探索もしたものの、新たな手がかりや苗木くんがいそうな所へ繋がるような道も見つけられなかった。

「私から提案があるのだけど、いいかしら?」
 落胆の色が目立つ昼食時の集まりで、霧切さんは切り出した。
「……久しぶりに、“混浴”しましょうか」
 それは、何日ぶりかに聞いたそのキーワードだった。ハッと顔を上げると、彼女はまだ策があるといった表情で片目を瞑った。
 監視カメラの前では言えない話をするため、私たちは食事を終えるとすぐさま脱衣場へと向かった。



「学級裁判の終わり際の、モノクマの言葉を覚えているかしら」
 脱衣場に入って開口一番に、霧切さんはそう言った。
「“ゴミだらけの地下でじわじわと殺される”“二度と戻って来られないはず”……この言葉から、苗木君は穴から落ちて以降そのまま地下にいて、自力での脱出が困難な状況にあると考えられるわ。そして、その地下はゴミ置き場……相当劣悪な環境に晒されているでしょうね」
 霧切さんの説明に頷いたのは十神くんだけで、私を含めてほかの4人はモノクマの言葉を聞き逃していた。

「え……ゴミじゃあ食べ物も飲み物もないよね……苗木がガリガリになっちゃうよ!」
「ゴミの中で死を待つだけ……!? さ、最悪だべ!」
「そ、そもそも……地下に落っこちて、無事でいるのかも怪しいわ……」
 苗木くんに起こっている事態は、初耳だった私たちにも、その深刻さは想像に難くなかった。いっそう居ても立ってもいられない気持ちが湧き上がる。

「とにかく、一刻も早く苗木君を助けなければいけないわ。」
「……具体的な方法はあるのか?」
 それまで黙っていた十神くんが、霧切さんに聞き返した。知っていた様子だった彼が今まで……それこそ昨日の学級裁判後からこの話題に触れなかったのは、妙案が浮かばなかったせいなのかもしれない。
 霧切さんはみんなに向き直って、まっすぐに言葉を放った。
「ゴミにまぎれてダストシュートから苗木君のところまで行き、共に脱出を目指す……」

「んなっ! 落っこちて助けに行くってか!? ……誰が行くんだべ!?」
「私が行くわ。」
「霧切さんが!?」
 驚く葉隠くんに続いて、私も素っ頓狂な声を上げた。
「そういうのは男子に任せなよ! ほら、おっきな図体のやつが二人もいるじゃん!」
「お、お、俺は、……体でかいとゴミ袋の中に入れん気が、するべ? な?」
「同意を求めるな。……確かに、それが手っ取り早いかもしれんが……共倒れになる可能性もある。別の案があれば、そんなリスキーな手段は取るべきではないだろう」
 朝日奈さんは葉隠くんと十神くんを交互に指して、霧切さんの突入役を止めようとするが、葉隠くんは避けようと必死だった。

 十神くんは同意を求めてきた葉隠くんをグイと押しのけると、霧切さんの案に慎重な姿勢で意見を出した。
「昨日から考えていたけれど、……もう、あれから丸一日になるわ。飲まず食わずでは長くもたない。これ以外にないと思ったのよ。」
「なるほどな……」
 冷静ながらも切羽詰まっている様子が見て取れる霧切さんを見て、十神くんも納得しかけていた。

「提案した以上、私が行くわ。それに……苗木君がこんな状況に陥ってしまったのは、私のせいだから」
「だけど……霧切さんが黒幕の罠から逃れるには、それしかなかったんだよね」
「そうだよ、霧切ちゃんじゃなくって、卑怯な真似をした黒幕が悪いんだよ!」
 私や朝日奈さんがそう言っても霧切さんの意思は固く……、結局潜入役は彼女が担うことになった。


 つまり、これから霧切さんは、ゴミ袋に包まれる……。カモフラージュのためとはいえ……実際のゴミと一緒になるのは、精神的にかなりつらいだろう。
「そう言えば……今のゴミ当番って、誰なの?」
 もう3週間は前になる、最初のゴミ当番は山田くんだった。私は料理以外の当番にならないために、そちらの事情には疎かった。
「……あっ、そういや俺だべ」
「えっ。いつから?」
「いやー、えーっと……ハッハッハ……」

 曖昧な発言とカラ笑いをした葉隠くんは、みんなの冷めた視線に晒されていた。
「葉隠がゴミ片付けしてるとこ見たことないんだけど」
「私もない……」
「この際それは度外視するわ。トラッシュルームの鍵の持ち主が分かったわけだし……」
 上着やズボンのポケットをバタバタと探っていた葉隠くんには、朝日奈さんと私のひそひそ話は聞こえなかったようだった。
 葉隠くんがようやく見つけたトラッシュルームの鍵を私たちに見せた頃には、霧切さんは既に策を考え始めていた。

「では、不安だが葉隠にダストシュートまで運ぶ役をさせねばならんな。不安だが」
「二回も不安とか言うなって!! だったら誰か付いて来ればいいべ!」
 葉隠くんが当番であるのは黒幕も知っているので、彼は外せない。
 頭痛を抑えるような仕草で額に手をやった十神くんは、しばらくしてこちらに目を向けた。
「……灯滝、行ってこい」
「え、……私?」
「厨房のゴミをまとめるついで……という、もっともらしい理由も付けられる。適役だ」
 指名には一瞬驚いたけれど、もっともだと納得して同行役を引き受けた。


「流れとしては……葉隠君はこれから倉庫に台車を取りに行き、寄宿舎の共同部分のゴミを回収に行く。厨房から灯滝さんと共に行動し、最後に脱衣場で私の入ったゴミ袋を台車に載せ、トラッシュルームのシャッターを開けてダストシュートに放り込む――これで行きましょう」
「わかった。じゃあ、苗木くんに食料と飲み物を用意しないとね。万が一のために救急セットもいるかな」
「地下で出来るのは応急処置程度でしょうし、救急セットは最小限でいいと思うわ。私も他に必要そうなものを取りに行くわね」
 霧切さんによって作戦の大枠が出来上がると、十神くんから指示が飛んだ。

「葉隠は倉庫でペットボトル飲料も合わせて確保しておけ。食料は灯滝に任せる。救急セットは……朝日奈、お前が保健室から調達して脱衣場に戻ってこい。各自、目立たないように用意しろ。」
「へーい」
「了解。」
「いいけど……どうして私指名なの?」
「消去法で怪我しやすそうな人間がお前だっただけだ」
「あー、そういう意味で……」

 聞かないほうが気分よく行けたかも、とごちる朝日奈さんを横目に、腐川さんは焦り縋るように十神くんに尋ねた。
「び、白夜様……! あ、あたしは何か、することは……」
「……強いて言うなら……脱衣場前にモノクマがしゃしゃり出て来たら勘付かれないようにあしらっておけ」
「は……はいッ!!」
 何気に大変な役割を任されている気がしたけれど、腐川さんは気合十分でまったく気に掛けていなかった。


「で、十神っちは何すんだ?」
「霧切をゴミ袋に押し込む重要な役目があるだろう。」
「押されなくても一人で入るわ。外から見えないように物を詰めて閉じてくれれば充分よ」
「だそうだけど?」
「…………お前らの統括が最も面倒とは思わんか?」
 葉隠くんの問いには尊大に答えた十神くんだったけど、当の霧切さんの返答と朝日奈さんの促すような聞き方には少しばかり機嫌を悪くしたらしく、フン、と息を吐いた。
「ふふ……そうだね、十神リーダー」
 つい笑い声をこぼしてしまった私を見た十神くんは、今度は大きく溜め息を付いた。……私も彼の手を煩わせている一人だと、無言でアピールされた気がした。

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