――「霧切は15分を目処に戻って来い。朝日奈は20分以内。葉隠はゴミを回収しつつ、灯滝と共に30分後だ。……この手段と決めたからには、手早く行うぞ。」
 そう十神くんに言われて各自が散ったのが、20分以上前になる。既に脱衣場には霧切さんと朝日奈さんが戻り、霧切さんの詰め込み作業が行われていることだろう。
 私は軽食を包み終わり、ゴミの片付けに入ったところだった。そして、そろそろ葉隠くんが来てもいい時間になる。

「おーい、灯滝っちー」
「あ、葉隠くん! ……どうしたのそれ? 台車まで引いて」
「まあその……ゴミ当番だったのをすっかり忘れててな、どうせならまとめて捨てに行こうと思ったんだべ……」
「じゃあ丁度よかった、これも……と思ったけど、なんか大変そうだね。手伝おうか?」
「エッいいんか? 頼むべ!」

 適当に話を合わせ、実際に厨房のゴミも載せて、脱衣場に向かう。
 葉隠くんのズボンのポケットから、ペットボトルのフタが覗いていた。私も上着の間に軽食を滑り込ませている。
 互いに確認しあって、頷いた。



 脱衣場に入ると、あとは袋の口を縛るだけといった状態でみんなが待機していた。
 飲食物を霧切さんに渡し、しばしの別れに言葉を交わした。
「今になって聞いて悪いんだけどさ……霧切ちゃんには、戻って来られるアテがあるの……?」
「明確な根拠はないけれど、必ず戻ってくるわ。何より……苗木君は諦めていないと、信じているから……私は行くわ」
「霧切さん、……待ってるからね。」
「今度会う時は、苗木っちと一緒に、だべ」
「ええ。」

 心配そうな朝日奈さんに、霧切さんは静かに、しかし力強く返した。
 私は気の利いたことも言えず……ただ一言に込めた。葉隠くんは特に緊張もない様子で、霧切さんにまた後でと手を振った。
「……食堂に常駐させておく。夜時間なら俺の個室のインターホンを鳴らせ」
「わかったわ」
 十神くんの短い伝言は、戻って来た時の連絡についてだ。……彼も、帰還を待っているということだろう。

「ぜ、前方、上下左右……モノクマなしよ。……そろそろ出たらどうなの」
 監視役の腐川さんの声が合図となり、霧切さんの入った袋は閉じられた。
「葉隠と灯滝が出た後、順次解散。以降は夕食時に食堂だ。いいな?」
 各々の了解の声を聞いた十神くんは、台車を押す葉隠くんと私を外に促した。



 適当に雑談をしながらトラッシュルームに入ると、葉隠くんは鍵を使ってシャッターを上げ、さらに奥に台車を入れた。
 カモフラージュで持ってきた生ゴミは燃やすため、焼却炉のスイッチを入れる。葉隠くんは隣で、ダストシュートの扉を開けていた。
「たまには片付けんと、ゴミって溜まる一方だべ……」
「そうだよ……ってその大きいの、一緒に持つよ」
「さすがに燃やせんから、こっちにそのまま放り込むべ」

 ダストシュートの中は当然真っ暗だ。人が通ることを想定していない作りは、入り口だけを見ても、どこぞのアトラクションでも敵わないような急勾配だった。
 クッションになるかはわからないけれど、霧切さんの入った袋より前に、別のゴミ袋を置いて準備をした。
「……おーし、行くぞ?」
「危ないから、ゆっくりで……」
 ギリギリでバレないような配慮の言葉を霧切さんに掛けて、葉隠くんと袋の端を掴んだ。


「……せーのっ!」
 中に置いて僅かに押しただけで、彼女の入った袋はすぐに見えなくなり――少しして、落下音が小さく返ってきた。
「落ちちゃったね」
「そうだな……」
「…………焼却炉、温度上がったよ」
「おう、こっちも入れるか」

 霧切さんを地下に送り込む任務を終えたので、あとは通常のゴミを燃やして完了になる。
 厨房からのゴミ袋を焼却炉に放り込む。終わった頃に葉隠くんが確認と処理に来るということで、いったんシャッターを閉じてトラッシュルームから出た。
 葉隠くんは台車を倉庫へ戻しに、私は食堂に戻るまでの少しの間を、二人で歩く。
 ……霧切さんの安否については、脱衣場以外では話せない。苗木くんの話題も、避けたほうがいい気がする。
 いったんそんなことを考えてしまうと、さっきまでどうでもいい雑談ができていたのが不思議に思えるほど、言葉に詰まって黙っていた。


「……そういや……霧切っちって、マジで記憶喪失だったんかな……」
 ふいにポツリと、葉隠くんがこぼした。
 霧切さんの話題を振ってくるとは思わなかったので、一瞬ドキリと心臓が跳ねた。でも……出来るだけ平静を装って、返した。
「……そうなんじゃないかな。嘘で言うには状況が悪すぎたよ。それに……霧切さんがそんな嘘を付きそうにないと思う」
「だよな……。しかも学園長が父ちゃんとか、嘘ならもっと上手い嘘付くべ……」

 記憶が無い、なんて異常な状況の中で一心に捜査に……そして苗木くん救出作戦に取り組む霧切さんを思うと、そのメンタルの強さにおののくとともに、記憶の回復を願わずにはいられない。
「霧切さんは、自分の素性もわからないんだよね。……早く全部思い出せるといいけど」
「いや、この3週間そこらで断片でも思い出せたっつーのもスゴくねーか? そんだけ学園長に会いたかったんか……」
「絶縁を言い渡したい、って言ってたね……。確かに、強い想いだね」
「……強烈な感情は、記憶の取っ掛かりになるんかな」


 倉庫と食堂へ分かれるべき地点まで辿り着いてしまったので、私たちは歩みを止めて、話の区切りがつくまでと立ち話を続けた。
 専門的なことはわからないけど、葉隠くんの言う通りかもしれない。強い想いが失ったはずの記憶を呼び覚ます……そう考えると、人間とは存外ファンタジックな作りをしている。
「料理を舌で覚えるように……“人”は心で覚えるだろ? 覚えたモンを仕舞うとこは脳ミソだけどよ……その場所場所で感じたことは、経験として残るんかもな……」
 感覚や感情を覚えた器官の経験は、記憶を失ってもそのまま……という意味か。だとしたら、……葉隠くんはどういうことを言いたいのだろう。

「…………葉隠くんが難しいことを言ってる……!?」
「何だべ! 人をバカみたいに……!」
「いや、なんか……一歩先に行かれちゃった気分ていうか」
 今の私は、思い切り眉間にシワが寄っていることだろう。互いに同じくらいの、自慢できないかしこさだと思っていたのに……理解できなくてちょっとショックだった。
「だったら灯滝っちも頑張れって! 何をどうしたらいいかは分からんが、頑張れ頑張れ出来る出来る!」
「あっ、こっち側に戻って来た気がする……おかえり」
「そのただいま現象は嬉しくねーべ!」

 結局どういうことを言いたかったのかと聞いても、葉隠くんは説明できないと言ってそれ以上を話さなかった。
 誤魔化しているわけではなく、本当にそう見えたので追及はしなかった。それに、立ち話が長引くと後に差し支える。
 さっくり話を切り上げて葉隠くんと別れ、私は厨房に向かった。
 片付けの続きを終えたら、“7人分”の夕食作りだ。
 近いうちに、必ず……苗木くんと霧切さんは戻って来てくれるはずだ。



>>>CHAPTER5_END


【 DEAD? 】
・戦刃むくろ a.k.a“超高校級の軍人”“超高校級の絶望”
 被害者:??による刺殺
・苗木誠 a.k.a“超高校級の幸運”
 クロ?:オシオキ・補習


>>>生き残りメンバー 残り7人?

>>>To Be Continued.

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(→CHAPTER5あとがき)

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