CHAPTER6
モノクマに“最後の学級裁判”を交渉した経緯は、主に霧切さんから話された。
戦刃むくろ殺しの犯人は苗木くんではなく、黒幕の仕業で、仕組まれた罠だった。
しかし、罠と気付き止めようとした苗木くんは、そのせいで処刑対象になってしまった。
犯人ではない苗木くんを処刑しようとした黒幕は校則違反を犯しているので、学級裁判のやり直しを求めたところ、黒幕はそれを受け入れたのだという。
交渉材料は、先述のルール違反と、この学園生活が生中継されていること。
苗木くんと霧切さんによってルール違反を暴かれた黒幕は、視聴者が納得するように正々堂々と私たちを打ち負かす必要があったのだ。
つまり、本当に電波ジャックしていたからこそ、この交渉は成立したのだった。
どこかで信じられない気持ちだった私は、ここであらためて黒幕が強大な存在であることを実感した。
昨日の学級裁判の真実に一同が驚く中、十神くんは、苗木くんが黒幕の罠に気付いていたこと以外はすでに察した様子で二人の説明を聞いていた。……葉隠くんは置いてけぼりと宣言していたので、後でフォローしておこうと思う。
“最後の学級裁判”では、戦刃むくろを殺した真犯人――つまり黒幕と、その犯行、さらに学園の謎を全部解き明かさなければならない。そして、こちらが負けた場合は全員処刑される、という特別ルールで行われるのだという。
正真正銘の最終決戦……厳しい条件ではあるけど、黒幕側が追い詰められているというのもまた事実なのだ。やるしかない。
だけど、「敵はハッキリしているのだから、みんなで協力して捜査していこう」と提案した苗木くんの意見に、霧切さんは反対した。
学園の謎を解き明かすだけならその方がいいが、黒幕の正体を明かすにはリスクがあった。
モノクマの言葉――「コロシアイ学園生活が始まった後、希望ヶ峰学園に生きたまま足を踏み入れた人間は17人だけ」というのが本当なら、黒幕は私たちの中にいる可能性が高いのだ。
素人が分解してもわからないような超高度な機能をモノクマが持ち合わせているのなら……遠隔操作でモノクマを操れたのなら、学園外の人間が黒幕かもしれない。……でも、モノクマがほぼ自律して動けるようだったら、この中の誰かが黒幕であってもカモフラージュ可能だ。
今は、どんな可能性も考えられる以上、過剰に信頼しては結局共倒れになってしまう危険があった。
「みんなを信じ切らないほうが、最終的にはみんなのためになる……そういうことなんだね」
そう口にすることで、私は覚悟を決めた。みんなで生き残るために、個々が頑張るしかないのだ……。
*
「だ、だけど……やっぱり……!」
躊躇う苗木くんの言葉を遮るように、チャイムが鳴った。
モニターに映ったモノクマからは、怒りも焦りも見えなかった。
コロシアイ学園生活が“真の解答編”に突入したとして、学園内の部屋のロックも解錠したと宣言し、楽しそうな大笑いで結んで放送を終えた。
「学級裁判でお会いしましょう」という言葉からして――モノクマはそこでの“絶望”を期待しているのだろう。
校内放送が終わると、いち早く十神くんが単独捜査をしに食堂を出た。
他人を気遣っている場合じゃないと言いながらも「自分のやるべき事をちゃんとやれ」と一言残したあたり、彼なりの気遣いに聞こえたのは私だけだろうか。……そんなこと言ったら怒られそうだから、気遣いじゃなくて発破と言い換えておく。
腐川さんは十神くんが連れて行ってくれなかったと嘆いて、十神くんのいない私たちには価値がないと去って行った。
彼女の場合、結果的に単独行動といった感じだ。でも処刑は嫌だろうし捜査はする……かと思ったけど、十神くんについて行けるなら何でもいいと前に言っていたのでわからない。
葉隠くんは、霧切さんに一人で行くのかと尋ねて肯定されると、残った私たちをじいっと見た。
「じゃあ、一人で行動したほうがマシだな……!」
憤慨する朝日奈も気に留めず、占いで当ててやると景気良く笑って出て行った。
捜査で最も頼りになる霧切さんの協力を仰げないならと、さっさと出る姿はいっそ潔い。葉隠くんはいつだって、自分の最善を選んでいる。
「……私も、一人で調べてくる。みんなで生き残るために、私も最善を尽くしたい。」
私の最善の選択もまた、単独捜査だ。もうご飯は済ませたので、今回は食事の用意も必要ない。
「あっ、苗木くん、霧切さん。二人分の夜ご飯、用意してあるからね。捜査はもちろん重要だけど、途中で倒れたりしないように……ってだけ言っておきたくて……」
「あ、ありがとう灯滝さん」
「気遣い感謝するわ……」
「灯滝ちゃんも、一人で行くの……?」
「うん。……出来ることを出来る限り、やるしかないから。……いってきます!」
不安げに見る朝日奈さんに私なりの決意を告げて、食堂から出た。
苗木くんと霧切さんが作り出した、勝負の好機だ。捜査にあてなど無いけれど、私が私なりに考えて行動することが糧となると信じて……私はまず校舎側へ向かった。