校舎側へ移動した私は、先に最上階である5階まで一気に上り、フロア全域を捜査してから下の階へと降りていく作戦に決めた。もちろん、気になる点が出てくれば捜査済みの部屋でも再捜査する。そこは臨機応変に、だ。
 モノクマによって全ての部屋が解錠されたので、まずは入れなかった生物室へ向かった。

 生物室に立ち入ると、異様な冷気が足元から伝わってきて、私は思わずぶるりと身を震わせた。
 冷気の原因は、壁の片面に埋め込まれている装置だった。テーブルに置かれた説明書を読んで、それが遺体の冷蔵庫と判明すると、モノクマが最後までここに鍵を掛けていたことに納得がいった。
 使用中のランプの数は9。それは……今回の学級裁判で問題になっている戦刃むくろを除いた、今までの死亡者の数だった。
 つまりここは、亡くなったみんなが眠っている場所なのだ。
 ――私はしばらく目を閉じて手を合わせると、そっと部屋から出た。

 ……生物室というとホルマリン漬けの爬虫類なんかが置いてあるイメージだったのが、一変してしまった。
 黒幕によって作り変えられてしまった施設。あんな大掛かりな装置すら用意し設置できる存在……やはり強大な組織に他ならない。



 他の5階の施設を調べたところ、武道場にあったという凶器に使われた疑惑のジュラルミン製の矢とガムテープや、死体発見現場の植物庭園にあった戦刃むくろの死体が無くなっていた。葉隠くんがやけにこだわっていた、ニワトリの数も4羽に減ったままだった。
 でも考えてみたら、学級裁判が終わると現場は何事もなかったかのように片付いているのが通常だった。さすがの黒幕も急に捜査再開が決まっては、現場を元に戻すまでは出来なかったのだろう。

 ただ……これでは現場の再捜査の意味があまり無い。望み薄と思いつつ回収された戦刃むくろの死体があるかと、元・死体発見現場周辺を探したものの、見つけられなかった。
 それに、そもそも死体を放置していたら劣化してしまう。置いておけないのは道理だった。黒幕が回収した先は、生物室――死体安置所だろう。
 だけど、さっき見たところによると、保管されている遺体は9人分のはずだ。中を確認したわけではないので、確定ではないけれど……。戦刃むくろもそこに含まれているならば、計算の合わない1体は、どこに……?



 頭を捻りつつ廊下を歩いていると、ちょうど階段から上がってきたところの葉隠くんに出くわした。
 葉隠くんは4階の解錠された部分を見てきたと言い、小さく溜め息を付いた。
 数日前の占いにモノクマを倒せるアイテムとして出てきたバイクが見つからないので、いよいよ本気で占いで犯人当てをしようかとこぼしていた。
 なんでバイクなの? とか、それってモノクマを物理的に倒すって意味なの? というのは前々からの疑問だけど……葉隠くんの占い結果だから突っ込んでも仕方がない。3:7で出る予言と妄言がだいたい突拍子のない内容だというのは、この数週間でよくわかっていた。


「あ、そういえば……さっき霧切さんが説明してた、モノクマとの交渉の話は、結局把握できたの?」
「いや、わからん!」
 もはや気持ちいいくらいにスッパリ返された。それでいて一人捜査に出て行ったのだから、度胸がいいというか……たぶん、何も考えていない気がする。
「でも、捜査しなおして黒幕と最後の勝負って事だろ? そこ押さえとけば問題ねーべ」

 確かに、とどのつまりはそういうことだ。今は行動すべき時だし、葉隠くんに補足をする必要は無さそうだった。
「まあ、そうだね。葉隠くんは占いでもいいのかもしれないけど、……絶対黒幕に勝とうね」
「おう。絶対外に出てやる! 俺らは自由を手に入れるんだべ!」
 そんな数分の現状報告を交わすと、葉隠くんと私はそれぞれの捜索のために別れた。



 遺体について考えていたことを思い出し、再び思考に戻る。
 しかし、生物室の冷蔵庫の中身――遺体をを一つ一つ確認する作業は……私には荷が重かったので、ひとまず他の場所を回ることを優先させようと4階へ降りた。
 葉隠くんと入れ替わるように解錠された学園長室に向かい、さっそくそのドアを開けると……室内は床いっぱいに書類が落ちていて、足の踏み場に困るほどだった。前に霧切さんが言っていた、“荒らされていた”というのはこれだろう。
 これらを整えてしまうと、逆に現場を荒らしたことになりかねないのが難しいところだ。片付けたい気持ちを堪えて、手がかりになりそうなものを探した。


 書類を漁り始めてすぐ、署名から学園長の名前を知った。
 霧切仁――霧切さんと同じ苗字の男性。その人は彼女の言うとおり、霧切さんの父親なのだと思う。
 その霧切学園長のデスク周りを見ると、学園の沿革、運営についての書類、教職員名簿、そして……在学生名簿があった。
 在学生名簿は数冊あり、第78期が最新のもの――つまり私たちの情報が記載されている名簿だった。

 手にとって見てみると、入学式から顔を合わせた面々の写真とプロフィール、そして学園による調査情報が記されていた。
 一人につき2ページという構成の中、戦刃むくろだけが1ページのみで、破り取られたような跡があった。……霧切さんが入手した戦刃むくろの情報の断片は、ここから得たのだろう。
 ただ、新たな戦刃むくろの情報としては、写真で見た目が判明したことと、身長・体格の数字、傷ひとつ無い程に軍人として優秀だったということくらいだった。

 モノクマファイルの情報と照らし合わせて考えると……もともと傷ひとつ無い戦刃むくろが、死ぬ数日前から全身に無数の傷を負い、頭部を殴打されて死んだ後、偽装工作時に腹部にナイフを刺された……のだろうか。
 優れた身体能力であろう戦刃むくろでも、傷を負った満身創痍の状態では頭部への打撃を回避できなかった? でも全身の無数の傷はどうして出来たのか……。不意打ち? 合意の上で受けた罰か何か? 黒幕同士で揉め事でもあったとか……?
 頭の中で思い描いても、それらはまだ想像でしかなく……確証はなかった。

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