引き続き4階の捜査で移動していると、朝日奈さんが何やら意気込んだ様子で駆け寄ってきた。
 情報処理室を調べたかと聞かれたので、まだだと返すと、彼女の口から新情報を告げられた。
「中にさ、モノクマ柄した開かないドア、あったでしょ? そこも鍵開いてたから、さっき苗木と奥に入ったらね、コックピットみたいなモノクマ操作室になってたの! しかも、黒幕が床下に隠れてたらしいんだけど、気付かずに部屋を出たらモノクマが部屋ごと封鎖しちゃって……入れなくなっちゃったんだ。……だから私、皆にこの事を知らせて回ろうと思って! あーでも、すっごく惜しいことしちゃったよ……!」

 矢継ぎ早に伝えた朝日奈さんは、全員に知らせに行くため足早に去ってしまった。
 まさに突風……。静まった廊下で一人になった私は、また考えながら教室の捜査を再開した。
 モニター監視の部屋とモノクマを操作する部屋は隣り合っていて、黒幕はそれぞれに行き来していた……そうすると、黒幕が一人なら監視と操作は同時に行えない。複数で分担していた可能性が高そうだ。

 そして、情報処理室にいないとモノクマを操作できないのなら、今捜査に乗り出している生存者は誰も黒幕にはなり得ない。なぜなら、昨日の学級裁判で7人全員がいる中でもモノクマは操作され動いていたからだ。
 黒幕の一人と思われた戦刃むくろが死んだ以降も、モノクマの操作は行われている。今のモノクマを操っている黒幕は、この8人を除いた誰か……だけど、残りの参加者9人は死んでしまっている……。

 学園長も学園内にいるというアルターエゴの情報もあったけれど、モノクマは「生きて学園内に足を踏み入れたのは参加者17人だけ」と言っていた。
 ……情報の真偽がわからないと、取捨選択もできない。仮にどちらも真実なら、学園長は学園内にいても生きていないとなって、黒幕でもないと言える。となると黒幕は……“死んだはずの誰かが実は生きている”くらいの超絶トリックがないと存在し得ない。
 低い可能性とは思いつつも、いったん考えてしまうと、生物室の保管遺体数が一つ少なかったことが引っ掛かる。もしかしたら……本当にそうなのかもしれない。





『えー、校内放送でーす。オマエラ、頑張ってる?』
 室内にモノクマの声が響いて、私は捜査の手を止めた。
 朝日奈さんと別れて以降も、4階から階下へとくまなく調べて回ったけれど、これといった手がかりは新たに見つけられないでいた。
 部屋を一つ一つ見ていくと、この3週間余りの学園生活や事件のことを思い出してしまう。……少しばかり感傷的になりかけたところでの、校内放送だった。
 「頑張るオマエラにヒントを出す」「欲しい人は体育館へ」――そんなモノクマの甘い発言は、私ですら胡散臭いと思う内容だった。
 引っ掛けか、撹乱かもわからないけれど、私はその呼び掛けに乗ることにした。
 なぜなら……今、私は体育館の真ん前に立っていたから。



「急いで来てくださーい、とは言ったけどさ……灯滝さん早すぎィ!」
「たまたま近くにいたから、寄っておこうかなって思ったんだよ」
「うわー、ついでって感じ? 傷付くクマー!」
 私を迎えたモノクマは、あれから気に入ったのか新しい語尾を付け、大袈裟な動きで「よよよ」としなだれて泣き真似をした。
「ていうか、監視カメラで見えなかったの?」
「見えてたよ……いや見えててもね、そんな気分で来たって知ったら悲しいもんだよ! ……まったく正直に答えちゃってさ、これだから未成年は……大人の世界を分かってないから……」

 ぶつくさと文言を唱え続けるモノクマに放送で言っていた“ヒント”を急かすと、まだまだ言い足りないと言いながらもこちらへ封筒を投げてよこした。
 ふわりと宙に舞った封筒は、受け取ろうと駆けた私の手前で床に落ちた。
「その中身が、ボクからの最後のヒントだよ。内容に関しての質問は一切受け付けないからね。ヒントの上にヒントはないんだからね。」
 モノクマの言葉を聞きつつ……拾い上げて確認すると、中には一枚の写真が入っていた。


 写っているのは、みんな……このコロシアイ学園生活に参加させられた、私以外のクラスメイトだった。全部で16人……学園長室で見た写真と同じ女の子、戦刃むくろも写っていた。
 一面の雪景色、みんなの服装も冬仕様。しかも、揃いの制服のように見える。
 朝日奈さんと大神さんが大きな雪だるまを仕上げていて、別の雪だるまを作ろうと雪玉を転がす苗木くんを、舞園さんが応援している。それを楽しそうに見ている不二咲くんと、指示役らしい十神くんが手前にいて、少し遠目に霧切さんの姿もある。
 奥のほうでは桑田くんが投げた雪球が葉隠くんと山田くんに直撃していて、大和田くんや石丸くんを交えた雪合戦をしている。
 さらに後方にはセレスさん、腐川さん、江ノ島さん、戦刃むくろがいる。

 和気あいあいといった様子のみんなが、そこには収められていた。
 この写真が事実なら……雪が降るような頃なんて、何ヶ月も前に、“私以外のみんな”はすでに見知った仲だった……?
 いや、そんなはずはない……。入学式の日、私たちは初対面だったはずだ。自己紹介をした最初はぎこちない雰囲気だった。
 仮に顔見知りで写真のように仲が良かったら、コロシアイの前に躊躇うはずだし、戦刃むくろの存在や生死についても違った反応をするだろう。
 ……だったらこれは、モノクマのねつ造。ヒントという名の撹乱。前に苗木くんが何度か見つけたという“仲の良さそうなクラスメイトの写真”と同じシリーズというわけだ。


 最後まで意地の悪いマスコットだと顔を上げると、すでにモノクマは体育館から消えていた。……私は思いの外、長考していたらしい。
 受け取った写真はいちおうポケットに仕舞って、捜査の続きに戻ることにした。
 残りは校舎側1階部分から、寄宿舎側だ。

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