ローラー捜査の最終地点は、トラッシュルームになった。
 数時間前に訪れたそこは、シャッターが閉じられていた。そこはゴミ当番だけが解錠できるという決まりだからだろう。
 シャッター越しに見ると焼却炉は電源が落ちていたので、あれから葉隠くんは片付けまで終えたらしい。……何だかんだ言われてたけれど、ちゃんと全うしていたのだ。

 そういえば……霧切さんを投下した後、葉隠くんは「強い想いがあれば、記憶を失くしても経験が残っているんじゃないか」みたいなことを言っていた。
 あのロッカーの中を見てからだと、葉隠くんはあの時から何か感づいていたんだろうか……なんて考えてしまう。
 葉隠くんは、よくわからない。たぶん、本人でさえわからない第六感とか虫の知らせ的な何かが占いや直感に出て来る、特殊な能力者なんじゃないかと思う。……確率が3割とかであっても。


『キーン、コーン……カーン、コーン』
 トラッシュルームを出たところで、捜査終了のチャイムが鳴った。
 “終わりの学級裁判の始まり”を知らせたモノクマの放送は、独特の笑い声を長く長く響き渡らせて、切れた。
 まだ調べ直したい部屋が……調べなければならないと覚悟していた、生物室に安置された遺体の確認は出来ずに捜査時間が終わってしまった。今から急いで調べに行くには……5階は遠い。諦めるしかなかった。
 ……仕方がない。後は学級裁判で黒幕を突き止めるしかない。
 切り替えて、私は足早に赤い扉へと向かった。



「あっ、灯滝さん! 捜査中には全然会わなかったね。」
 赤い扉に向かう廊下で鉢合わせたのは、苗木くんだった。複雑そうな表情の彼は、扉に入る前に私に尋ねた。
「あのさ……本当は捜査中に聞きたかったんだけど……。ボク、モノクマからヒントとして写真を貰ったんだ。ボク以外のみんなが揃いの制服を着て、親しそうな……。灯滝さんは、そんな写真を撮った覚えって、ある……?」
「……ないよ。でも……それは本物の写真なんだと思う」
「…………そっか。わかった……」

 苗木くんは私の態度と返答に少し面食らった様子だった。
 私はというと……どうやら苗木くんが同じ結論を導き出していたと知って、心強く思えた。
「私……まだ半分の中の一部しかわかってないけど……、絶対に黒幕に勝ちたい。7人で生き抜いて、ここから外に出たい。」
「うん……。ボクも、覚悟は決めた。」
 私の言った“半分の中の一部”の意味を理解したらしい苗木くんは、納得した顔になった。そして……目の前の赤い扉を強い眼差しで見つめると、一気に押し開いた。


 エレベーター前にはすでに霧切さんがいた。間もなく他のみんなも集まったけれど、後から来た十神くん、朝日奈さん、葉隠くんは珍しく無言で……しかも物々しい雰囲気でいた。
 遅れて来た腐川さん……ではなくジェノサイダーがクシャミをして、腐川さんに戻ったところで、集合を確認したモノクマは学級裁判場へと促して引っ込んだ。
 ……始まりがあれば終わりがある、終わりがあれば新しい始まりがある……モノクマが校内放送で言っていた言葉を思い出した。
 今日がコロシアイ学園生活の終わりで、私たち全員が外に出るという新しい始まりになる――そう願って、私は下降するエレベーターの終着点を待った。





 最後の学級裁判だからと、モノクマはずっと空席だった朝日奈さんと葉隠くんの間の席……17番目の証言台に跳び箱を据えて立ち、参加する姿勢を見せた。
 それは、黒幕が“私たち以外の”参加者の誰か、という証明じゃないかと思う。
 モノクマは今回の特別ルールを改めて説明し、どちらが敗者になってもオシオキを行うと宣言した。
 霧切さんの念押しにも「クマに二言はない」と胸を張るモノクマ。正々堂々の勝負、学級裁判は開廷した。


「そんな事より……俺から聞きたい事がある……」
 最初に話を切り出したのは、葉隠くんだった。彼らしくない神妙な面持ちで、葉隠くんは「自分以外の全員が黒幕と繋がっている」と主張した。
 しかも、朝日奈さんも十神くんも……3人ともが同じことを言い張った。
 その原因は、モノクマの渡したヒント――受け取った本人だけが写っていない、私たちの集合写真のせいだった。苗木くんは、私たちを争わせるためにそんな写真を見せたのだ、黒幕の罠だと切り返した。

 揃いの制服まで着せた、手の込んだねつ造写真……そう決めつける葉隠くんや朝日奈さんに、モノクマは「本物だ」と小首を傾げて返し、苗木くんも本当にねつ造なのかと疑問を投げた。
「私も、ねつ造なんかじゃなく、本物の写真だと思う……」
「はぁっ!? 灯滝っちまで信じるんか!?」
 葉隠くんみたいな反応のほうが、どう考えても正常だ。私だって、事実を受け止めきれていないところがある。
 返答に詰まった私を見て、苗木くんは……それを、ついに言った。
「ボク達全員が記憶を失っている……それが理由だとしたら、どうかな?」
 

 非現実的、オカルトじみた話、いくらなんでも信じられない……阿鼻叫喚といった反応も当然だった。
「でも……全員が記憶喪失だとしたら……全てが繋がるんだよ。」
「記憶喪失の可能性を示しているのは、あの集合写真だけじゃないんだ。このDVDもだよ。」
 苗木くんは更なる根拠として、学園長と私たちが個人面談している様子を映したDVDを提示した。そこでは、学園長が私たち一人ひとりに「この学園での一生を受け入れるか?」と尋ね、全員が受け入れていたのだと言った。

「なんで……受け入れてんのよ……ッ!?」
「ボクにも、わからないよ! だって、覚えてないんだ!!」
 腐川さんの疑問に答えられる人は居なかった。DVDを持ってきた苗木くんでさえ、だ。
「シェルター生活……」
「え?」
 その答えは……私が見つけたメモが手がかりになる。ここで言わなければと、とにかく口を開いた。


「私たちは、学園内でシェルター生活をしていたから……いつ出られるかもわからなかったから、学園長はそんな映像を……」
灯滝ちゃん……何、言ってるの……?」
「たぶん、学園長は私たちを守ろうとして、だけど……」
 戸惑うみんなの顔、朝日奈さんの声……。それでも紡ぎ続ける私に、十神くんが堪え切れない様子で尋ねた。

灯滝、お前は覚えているのか? 記憶の断片があるのか?」
「違う……私も覚えてはいない。でも……寄宿舎の2階に、私の電子生徒手帳で開くロッカーが一つだけあったんだ。そこに、私の筆跡のメモが数枚入ってて――」
「“シェルター生活”という言葉が?」
「うん……」
 先回りして促されたので、私の説明は途中で途切れた。それでもみんなには、大きな情報として受け止められたようだった。

「そ、そんなの……灯滝に似た筆跡の、赤の他人が書いたかもしれないじゃない……」
「だけど、他のメモには、“むくろちゃん、盾子ちゃん、葉隠くん、さやかちゃん”って名前が書かれていたんだよ? 他の名前は一切出て来なかったのに……。元々在籍している先輩が書いたのなら、どうしてこんなに“入学してもいない後輩の名前”ばっかり出て来るの?」
「そ、それは……」
「戦刃むくろ、江ノ島盾子、葉隠康比呂、舞園さやか、か……。4人も、となると……偶然で出て来るとは思えん……」
 腐川さんの反論も、私の説明から更に返すまでは至らなかった。追従した十神くんの言葉からも、記憶喪失が事実と認めざるを得ないという雰囲気になった。



 それでも、信じろって方が無茶だとこぼす葉隠くんに、霧切さんは「信じない事には話が進まない」と言って、モノクマに真偽を確認した。
「そうだね。正解だからね。」
「じゃ、じゃあ……本当に……?」
「そう! みんな仲良く記憶喪失なの!!」
 聞き返した腐川さんだけでなく、オマエラも開き直れよと言わんばかりに、モノクマは全員の記憶喪失と、自分が記憶を奪ったことを開けっぴろげに認めた。

 さらにモノクマは、記憶を奪った方法ではなく、記憶を奪った目的に注目するように勧めた。それがコロシアイをさせる動機にも繋がっていたのだ、と。
「舞園さんの動機は、私たちが顔見知りで共同生活を送っているような関係だったら起こりえなかった……だから記憶を奪った、ってことでしょ?」
「うーん。当たってはいるけど、それだけじゃ足りないんだよね。ほら……動機って、一つだけじゃなかったでしょ? うぷぷぷ……」
 私の推測をモノクマは正解と言ったものの、他の事件の動機でも記憶を失った事が絡んでいるとほのめかした。
「でも、まだ内緒なの!! だって、忘れてもらっちゃ困るんだけど、これって“戦刃むくろ殺しの学級裁判”なんだよね!」

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