「勝ち誇るのは、オマエラの記憶の秘密を解いてからにしてもらえる?」
 自分の種明かしを終えた江ノ島盾子は、モノクマのような喋り方をして、“もう一つの謎”を全て明かしてみろと居直った。
 ……これでやっと、最初の話題の決着を付けられる。
 奪われた記憶は、殺し合わせるための動機と関係していると、先ほども言っていた。
 私がさっき指摘した、“私たちが以前から顔見知りで、共同生活をしていたこと”以上に奪いたかった記憶が、黒幕にはあったのだ。

 黒幕が提示した動機は――大切な“人間関係”を台無しにした映像、知られたくない“思い出”を公開するという脅し、“欲望”を刺激する現ナマのお金、“裏切り”をバラしたことによる疑心暗鬼。
 希望があるから絶望は育つという性質を使って……絶望をもたらす為に記憶を奪い、私たちに「外に出たい」という思いを――希望を持たせた……。江ノ島盾子はそう補足した。


 記憶があったら外に出たいなんて思わない――。その意味を今までの情報から考え直して……私は一つの終着点に至った。
「まさか……学園内でのシェルター生活は……、廃墟化した学園内に閉じ込められた私たちが、一部をシェルター化させて生活していたんじゃなくて……この学園内自体がシェルターで、“学園外のほうが悲惨な状況になっている”……?」
「ありゃー? どうしちゃったの灯滝さん? 今までの、全然議論に参加出来ないスカスカ脳ミソとは段違い! キレてるねー!」
 江ノ島盾子はモノクマ口調を続けて、人形遊びをするように抱えたモノクマの首を傾げさせ、手を口にあてた。

 「百聞は一見にしかず」「オマエラの絶望に染まる顔が見たい」……そう言って江ノ島盾子は、私の疑問の答えとなる“外の世界”の映像をディスプレイに出した。
 そこには……世界の名だたるオブジェがどれもモノクマフェイスになった映像と、頭にモノクマの被り物をした人たちや巨大なモノクマが街で破壊行動をしている映像群が入れ替わりに映された。
「……は?」
「ヤバイ……世界がヤバイ……そういう訳なんです……」
 見たものの意味がわからないと混乱するみんなに対して、具体的な説明はなかった。



 にもかかわらず、記憶を奪った側の江ノ島盾子から「過去を思い出せ」と圧力を掛けられるのは、理不尽だった。
 無理だと音を上げる面々の中で、苗木くんが腐川さんの別人格・ジェノサイダーの特徴を思い出した。
 腐川さんとジェノサイダーは、知識は共有していても記憶は共有していない。だったら、腐川さんの記憶がなくてもジェノサイダーは覚えているかもしれない……。
「……腐川、お前だけが頼りだ。」
 十神くんの一言で、腐川さんは自分のアイデンティティーを一瞬にして壊した。
 クシャミをした腐川さんは……もうジェノサイダーになっていた。

 ジェノサイダーは初対面の黒幕・江ノ島盾子と挨拶を交わし終わると、みんなに急かされて映像を確認した。
 映像に見覚えがある、知っていると言うジェノサイダーは、世界に起こった事態を、現在進行形の“人類史上最大最悪の絶望的事件”だと答えた。
「やっぱり……“絶望的事件”は、希望ヶ峰学園にじゃなくて、外の世界に起きていたんだ……」

 つまり世界は終わったのだ、と宣告する江ノ島盾子は、受け入れられない様子の十神くんに“十神家の滅亡”を知らせた。十神くんはもう超高校級の御曹司でもないのだ、と。
「ほ、滅びる訳がない……! 十神家は……世界を統べる一族だ……!」
「つーか、その世界自体が終わってんだよ! しかも1年前になぁ!!」
 ……信じたくなかったけど、思ったとおりだった。
 ロッカーで見つけたメモは間違いなく昔の私が書いたもので、全部本当だったのだ。……しかも、学園内ではなく世界のほうが壊滅状態だったという、大きな衝撃も加えて。

「外は壊滅、天下の十神家ですら跡形もなく消えた世界で、他がどうなってるかなんてお察しだろ! オメェらの大切なモンは何一つ残っちゃいねーよ! あんのは瓦礫くれーだよ!」
 その言葉は……最初に渡されたDVDが真実だと言っているに等しかった。
 私の尊敬する師匠と、職場の仲間と、あの厨房は…………。
「1年も前に……そんな事が起きてるはずがない……!」
 苗木くんが、江ノ島盾子の言っていることはおかしいと主張していた。
 でも……私たちの感覚では確かにそうだけど……、私たちの知らないところで、世の中は遥かに未来だったのだ。


「苗木くん、それは違う……!」
 悲しさをこらえて、事実を受け止めて……私は静かに言葉を発した。
「さっきにも言った、シェルター生活について書かれていた“私の筆跡のメモ”が本当なら……私たちはすでに1ヶ月以上、希望ヶ峰学園内のシェルターで共同生活をしている。そして、シェルター生活に至った原因が“人類史上最大最悪の絶望的事件”なら、私たちの記憶は少なくとも1年以上の長期間を奪われているってことだよ……」
「……灯滝さん、そのメモは今も手元にある?」
「うん、見る……?」
 私は実際のメモを見たがった霧切さんに、それをポケットから取り出して渡した。

「確かに灯滝さんの字ね。“シェルター生活も1ヶ月”という記述もある……」
「それより灯滝、持っているなら何故すぐに出さなかった……!」
「や、十神くんとかみんなが喋ってタイミングが……」
「馬鹿か。こういう時は料理に対する姿勢と同じくらい、がっついてこい!」
 回し読まれたメモを見て、みんなは信じられないなりに納得していた。
 十神くんからはお叱りを受けてしまったけど……それはみんなの主張が強いから、普通の感覚だと埋もれてしまうんだ……とは、返せなかった。

「白夜様ッ! 灯滝を叱るのはヤメて!! 叱るならアタシを叱ってー!!」
「オメーが喋るとややこしいから、ちっと黙っててくれ!!」
 証言台から飛び出さんばかりに十神くんにラブコールを投げるジェノサイダーを、葉隠くんが諌めんと奮闘する間に、証拠のメモはモノクマを抱えた江ノ島盾子の元まで回っていた。
「おやおや……過去の灯滝さんは優秀なメモを残したんだねえ。……これで7割方正解って感じかな。だけど、期間が正確じゃない。……そこは重要だからね、3割の減点だよ。」


「じゃあ……私達がここに来たのは、ついこの間なんかじゃなくって……!?」
「うん。1年以上って、ついこの間じゃないよね? 今回は灯滝さんに免じて教えちゃうけど……オマエラがこの学園に入学したのは“2年前”だもん。」
 蒼白になった朝日奈さんに、江ノ島盾子は正解を告げた。
 私たちは……入学して以降の2年間の記憶を奪われたのだ。

 あのロッカーも、以前から私たちに割り当てられていたと判明し、裏付けられた。
 苗木くんが見つけたという一冊のノートには、あの美麗な文字で“葉隠康比呂”とあり、板書が書き写されていた。
 霧切さんは自分のロッカーから手帳を見つけ、私と同じように書いた記憶のない自筆のメモ書きを見つけていた。
 私だけじゃない……3人分も見つかっては、もはや疑う気も失せる。



 何も覚えていないけれど、私たちは2年間も共に過ごしていたクラスメイトだった。
 しかも、ヒントとして渡された写真や私のメモからして、かなり仲良く過ごしていた。
 だけど1年前……“超高校級の絶望”江ノ島盾子たちが、人類史上最大最悪の絶望的事件を起こしたことで世界は崩壊し、希望ヶ峰学園の生徒もほぼ全滅。生き残った私たちを守るために学園長は学園内をシェルター化した。
 私たちは自分の意志で閉じ込められた生活を望み、学園長の先導ながら私たち自身が学園内を封鎖した。
 しかしシェルター内にこそ“超高校級の絶望”が存在したために、学園長の思惑は空転し……コロシアイ学園生活を行う絶好の環境となってしまった。

 そして電波ジャックをして、“希望の象徴”と言われる希望ヶ峰学園生――私たちのコロシアイと絶望する姿を世間に見せつけ、絶望を伝染させる……これこそが真の目的・人類絶望化計画のクライマックスなのだと江ノ島盾子は語った。
 そのために……そして超高校級の絶望とクラスメイトだったために、私たちは生かされ、無意味な動機と知らずに殺し合わされ、絶望的な真実に直面して――絶望させられようとしていた。

←BACK | return to menu | NEXT→

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル