CHAPTER6
状況をひっくり返された江ノ島盾子は、このムードを「寒い」「ウザイ」「ダサイ」と連呼して、ひたすらに否定した。
彼女が思いつく限りの絶望を並び立てても、苗木くんは動じなかった。
「ボクは諦めたりしない。飽きたりしない。捨てたりしない。絶望なんかしない!! だって、前向きなのが、ボクの唯一の取り柄なんだ!」
「希望は前に進む」――“超高校級の希望”の言葉が、超高校級の絶望・江ノ島盾子を穿った。
現実を受け入れきれない江ノ島盾子をそのままに、私たちは学級裁判を終わらせるべく……全員が積極的“投票”を始めた。
結果は――満票で江ノ島盾子。
霧切さんに負けを宣告された彼女は、たじろいで暫く言葉を発しなかった。
負けを認めないつもりなのか、自分への絶望に慄いたのか――そんな私たちの推測は、見事に瓦解した。
「そんなのってぇぇぇぇええええッ!! ……最高じゃない!!」
江ノ島盾子は恍惚とした表情で……自分を襲う“2年越しの計画の失敗”という絶望に、これから味わう“死”という絶望に、打ち震えていた。
死ぬことが楽しみだった、絶望的に幸せだと涎を垂らす江ノ島盾子の思考は……やっぱり“究極の絶望フェチ”と言うに相応しいものだった。
勝ち負けもどうでもいい様子の彼女は、それでも私たちを取り巻くのは絶望だらけである、と最後の置き土産と言わんばかりに語気を荒らげた。
「オマエラが勝とうが負けようが、結局は一緒なんだもん……外も絶望、中も絶望! あんたらには絶望しかないんだから!」
「ち、違う……そんな事……」
「……そんな事はない!」
否定をしようとした苗木くんより早く、十神くんがキッパリと江ノ島盾子に切り返した。
「言っておくが、今の俺達は、もう絶望など恐れていない。」
“希望”を持って外に出ていくのだと朝日奈さんが、苗木くんにそそのかされたんだと葉隠くんが続いた。
私も、そうだ。何があろうと……どんなに絶望だらけでも、覚悟は決まっている。
絶望だけでなく、希望も伝染して広まる――。霧切さんの言うように、苗木くんがそれを実証してくれた。
「希望があるところには必ず絶望もあるんだよ。それでも、オマエラは、希望を持ち続けていられるかしらん?」
独り言だと後から付け足して、私たちの返答を遮った江ノ島盾子は、彼女待望のオシオキの実行に移ろうとした。
自分で自分のオシオキを始めようとする彼女に、死んでもらうつもりで勝負をしたわけではないと苗木くんが言いかけても、実行を止めるという行為に烈火のごとく怒った。
“死の絶望”への期待に高まった江ノ島盾子は、最後に……今自分が感じている絶望の一部でも、世界中のみんなにもっと味わって欲しかったと、うわ言めいた。
「最後にふさわしいスペシャルなおしおき!! では張り切っていきましょう! おしおきターイム!」
江ノ島盾子は高らかに笑って、自らの手でボタンを押した。
そして……自らの足で、進んでオシオキを受けに移動した。
*
イスの上に立ち、自分を見よと言わんばかりに大手を振る江ノ島盾子。テレビ越しにその姿を見るであろう視聴者に向けての、派手なアピールだろう。
彼女の周囲にはいくつものセットがゴチャゴチャと立ち並んでいた。教室・野球場・サーカステント・欧風廃墟・工事現場・プレス機……どれも見覚えのあるものばかりだった。
野球帽を被り、右手にバット、左手にグローブを持ち……ピッチングマシンの真ん前に立った江ノ島盾子は、機関銃の如き白球の嵐・“千本ノック”の刺激に打ち震えた。
彼女はすぐさまバイクにまたがり、腕組みをしたまま勇ましく爆走。“モーターサイクルデスケージ”の中へ突っ込んで、したたかに目を回し続けた。
ケージから出た江ノ島盾子は“ベルサイユ産 火あぶり 魔女狩り仕立て”の炎の中で座禅を組み、身じろぐこともなく過ごした。心頭滅却すれば火もまた涼し……いや、彼女にすれば「心頭絶望すれば火もまた快感」といったところか。真上からトラックのような大きな塊が落ちてきても、何の動揺もなかった。
まだまだオシオキは終わらない。背後から“ショベルの達人”に超高速の匠の技で打ち叩かれると、江ノ島盾子は目を星のように輝かせて、口の両端をこれ以上無いというほどつり上げた。
匠の腕を堪能した後は、モノクマの顔がてっぺんのオブジェとなったカプセル型の装置の中に座った。
手足がスラリと長い彼女は、足を組んで手を振っているだけでも様になる。さすがモデルという姿を見られたが、カプセルの扉を閉じられ暫しのお別れとなった。
突如、カプセルは轟音とともに下方に炎を吐いて浮き上がった。
教室の天井を破り、校舎を突き抜け、遥か彼方へと飛び立ち……“宇宙旅行”を終えたカプセル、もといロケットは、やがて真っ逆さまに落下した。
そして戻って来た江ノ島盾子は、ウサギのマスコットが揺れる王冠を頭に被り、モノクマを抱えて、プレス機へと運ばれるベルトコンベアー上のイスに座った。
後ろ向きに運ばれる彼女は、終始満面の笑顔だった。いよいよ、というところでピースサインをして、死という絶望を享受できる喜びを見せた。
それからほんの数秒、プレスまで間があった。
今までのオシオキの間、ずっと楽しそうだった彼女が、すっと真顔になったのが見えた。
刹那、プレス機が江ノ島盾子を肉塊に変えた。
“補習”が終わると同時に、江ノ島盾子の“超高校級の絶望的おしおき”は完遂された。
江ノ島盾子の存在が消えた空間――血塗れの床には、装置が落ちていた。
昔の特撮のリモコンのように分厚いそれは、真ん中に赤く大きいボタンが付いていた。
>>>CHAPTER6_END
【 DEAD 】
・江ノ島盾子 a.k.a“超高校級のギャル”“超高校級の絶望”
オシオキ・超高校級の絶望的おしおき
>>>生き残りメンバー 残り7人
>>>To Be Continued.