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これなんて不燃物?
魁!氷結クリフト
第19幕 「お墓参りは静かに」
「なにこの広さ! 声が響くじゃない!」
「しっ! 静かに。死者の安らかな眠りを起こしてはなりません」
ここはサントハイム王家の墓。アリーナ姫とて日常では余程踏み入れる所ではありません。
本来ならばサントハイムの王族しか立ち入れぬこの墓所にソロ達勇者一行が入れるのは、ここから確かにかの芳しい メ タ ル の匂いがするからです。
世界を救うためならば仕方ないと、アリーナ姫は立ち入りを渋るブライを説得し、一撃必殺アイテム・どくばりを片手に敷地内をウロウロとしていました。
「これ全部アリーナのご先祖さまなわけ?」
「そうみたい」
「みたい、ではありませぬ。姫様、先王様方にくれぐれも粗相なきよう」
物珍しいものを楽しむように周囲の壁などを見渡すマーニャはまるで観光気分。ブライはそんな彼女に呆れた溜息を吐きながら、こんな所にまでモンスターが棲んでいるとはとブツブツ小言を呟いています。
歴代の王の名前を辿りながら深部へと歩いていたアリーナは、そこでふとクリフトの姿のない事に気付きました。
「あれ、クリフトは?」
よくよく辺りを見回してみると、彼はアリーナの祖父の墓前に座っているではありませんか。
敬虔な彼のこと、死者の祈りでも唱えているのかと思いきや、
「お爺様。アリーナ姫のことは私にお任せください」
何のお話ですか。
「貴方のお孫にあらせらる姫君は私がお守りいたします」
「クリフト」
アリーナ姫、ちょっと感動。
「この冒険が終われば、私はお転婆な姫様のオンナを開花させ、清らかな中にも一入の色気をまとったアリーナ様と、いかがわしいこともなんのその! なラブ☆ライフを歩ませて戴きます」
「え」
「そしてサントハイムの一層の発展を願い、
「仔作りにいそしみフケこみシケこみたいと思いますッ!!」
「ちょ、クリフト」
「充実した夫婦生活を、姫様とご先祖様方にお約束致します! ぶはァ!!」
「貴様が一番うっさいわボォケがアァァァッッッ!」
「死者の眠りを妨げる間男めが! キサマが眠れ!! 永遠にッ!!」
禿げた額に血管を浮かばせて罵った老魔導師の背中には、どの墓よりも立派に屹立した氷柱が、キラキラと冷気を放って聳え立っていました。
「あんたも大変よねー」
それはクリフトのことなのか、ブライのことなのか。
まるで他人事のように言ってのけるマーニャに、アリーナ姫は肩を落として頷くのでした。
哀れ、氷結クリフト。
二人とも埋めておけばいい。
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