12RIVEN -the Ψcliminal of integral-
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インフィニティーからインテグラルへ サントラ同梱版には特典として、全BGMとOP歌を収録したサントラ2枚組と、イラスト集が付いてきます。また、ショップ予約特典としてBGMアレンジCD及び声優インタビューCDが付いていました。特典が豪華なので、同梱版を購入する価値はあると思います。 12RIVENは、Ever17をはじめとする名作揃いの「infinity」シリーズを継承する作品です。2006年に制作発表があってから、2度の延期を経て発売されました。この間、制作会社のKIDが自己破産して、一時は本作の開発自体が危ぶまれたのですが、サイバーフロントがKIDの権利を取得してKIDが存続したことにより、発売まで漕ぎ着けたという経緯があります。 これまでinfinityシリーズで面白くなかったものはひとつもなかったので、クオリティーに関してはまったく心配していませんでしたし、結論から述べると、12RIVENは期待を裏切ることなく面白い一本でした。しかし、シナリオが面白い一方で(Rememver11の頃からでしたが)、ギャルゲーらしさが欠落していることは記しておく必要があるでしょう。ここをユーザーが受け入れられるかが、シリーズ存続の分水嶺となりそうです。果たして、12RIVENとはどのようなゲームだったのでしょうか? シナリオのためのストーリー ■シナリオ 2人の主人公を操りながら『第弐エクリプス計画』の全容を明らかにしていくサスペンス。このシリーズには、プレイヤーとキャラクターの住み分けを上手く利用したトリックに驚かされてきました。今回もそのトリックは健在です。本作の注目ポイントは、プレイヤーとキャラクターの情報量を極限まで共通化しているところです。プレイヤーが感じた違和感を、キャラクターも感じてところに注意してゲームを進めてみると面白いかもしれません。12RIVENの目的は、トリックを解くことそのものと言っても過言ではありません。後半になると、あらゆる設定はトリックのための伏線でしかないとすら感じられるほどです。キャラクターより「プレイヤー」に「気付い」てほしい……そんなシーンも随所に見られます。せっかくキャラクターと情報量を共通化しているにもかかわらず、プレイヤーにプレイヤーであることを意識させる矛盾した構造。それらはすべてトリックのために用意されているのです。ストーリーへの感動よりも、シナリオ構造への驚きに重点がおかれた逆説的なゲーム、それが12RIVENなのです。意味不明かもしれませんが、クリアーした時に意味が分かると思います。ただし、例によってゲームの全容が明らかになるのは最後までプレイした時ですのでご注意を。 ■キャラクター 面白いことに、ルート毎に担当者を分けています。錬丸ルートは滝川氏、鳴海ルートはbomi氏。ですから、同じキャラクターでも登場するルートによって絵が違います。それには意味があったりなかったり? 詳細はネタバレになりますので語りません。是非、本編で確認して下さい。 どちらの担当者のキャラも、全体的にバランスがとれていますので質的には問題ありません。滝川氏は可愛い印象、bomi氏はクールな印象の絵です。あまりギャルゲーらしくないシナリオですが、2人とも上手く共存しています。 各キャラクターの設定ですが、設定そのものがシナリオの味噌なので、詳しくはここでは控えることにしますが、どのキャラの設定にも深い意味があり、すべて上手く収束させていました。ただ、唯一の攻略対象といって良いミュウが、幼なじみというには微妙な設定であり、しかも8年間会っていなかったにもかかわらず、錬丸と相思相愛であった点は苦しいと思いました。この点はシナリオ以外にキャラクターにも気を使って欲しかったところです。 ■テキスト 何人かライターがいて、それを打越氏が監修しているようですが、文章は安定していて、違和感をはありませんでした。シナリオの都合上、色々と説明が多いのですが、小難しく考えさせるようなことはなく、雑学クイズ感覚でスラスラと頭に入ってきます。一部、フラグ管理が甘いせいか選択肢と矛盾する行動が見られますが、それを除けば、一見難解なシナリオを無駄なくコンパクトに、且つ分かりやすくまとめた良テキストであると思います。 ■演出 OPムービーは、イベントCGを使ったものですが、キャラクター紹介風というには中途半端でゲーム紹介としては支離滅裂という何を狙っているのか良く分からない仕上がり。使われているCGのほとんどがプロローグに出てきたもので、今後の予測がまったくつかない点は良いのですが、いまひとつインパクトの薄いムービーです。 画像エフェクトは、目新しいものはありませんが、ところどころで挿入される意味不明な動画や画像処理が、後で意味を持ってくるなど油断できないものとなっています。シナリオと連動したゲームならではのエフェクトを堪能してもらいたいと思います。 ところで、このゲームは通常の会話シーンで二人のヒロインが登場する場合、ひとりが話している時にはひとりをアップしてもうひとりは映さず、話し手が変わる度にカメラを切り替えるため、目が少し疲れます。二人とも一緒に映して画面を変えなければ良いのに……。 音響は特に面白いものはありません。銃声にリアリティーが感じられないのがやや残念。 ■ゲーム性 本作は、主人公が2人がいます。共通ルートでは主人公を交互に進めていき、途中から単独ルートに入ります。それぞれにエンディングが用意されているのですが、ターゲットのヒロインを攻略していくのではなく、ひとつのグッドエンドを狙って攻略していくことになります。注意したいのは、片方のルートをクリアーしただけでは、まったくシナリオの意味が分からないこと。バッドエンドを回収する必要はありませんが、最後まで攻略しないと評価できないゲームであることは間違いありません。普通のギャルゲーとは異なった性格のゲームであり、ある程度の時間的余裕をもって臨みたいものです。 ■シチュエーション 本作をギャルゲーと捉えるならば、基本的に攻略対象としてのヒロインはミュウひとりだけです。主人公はミュウを守るために行動していくことになります。ただ、本作では、恋人同士の甘いひと時を楽しむようなシチュエーションは、あまり期待しない方が良いかもしれません。と言うのは、主人公の視点が頻繁に変わり、しかも一方は女性でもうひとりの主人公と接点が少ないため、ミュウひとりを追おうとした場合、どうしても集中力が途切れてしまうためです。謎の多いシナリオをプレイヤー的視点(いわゆる第三視点)で進めていく分には最適な作りをしていますので、ミュウひとりを見るのではなく、シナリオの全体像を見つめながらプレイした方が楽しめることでしょう。 ■グラフィック 背景は中々良い出来。必要な場面に必要な背景が出ますし、枚数が豊富です。 立ち絵数は、メインキャラが5パターン前後。あまり多くはありませんが、表情がコロコロ変わるので退屈はしません。キャラクター項でも述べましたが、錬丸ルートは滝川氏、鳴海ルートはbomi氏が担当しています。ですから、同じキャラクターでも登場するルートによって絵が違います。 イベントCGは106枚(差分含まず)。枚数は少ないのですが、概ね必要なシーンにはCGが出ていました。ただし、担当者の違いで違和感を覚えるCGがありました。また、これだ!というものはなく、地味な構図が多い気がします。
打越氏は付属の冊子で、12RIVENとは制作者とプレイヤーの識閾下同士の対話の物語であると述べています。プレイヤーとプレイヤーの識閾下は違うものを追っているのだと。であれば、本作はやはりトリックを解くことそのものが目的であるゲームなのでしょう。プレイヤーは表面上、キャラクターに扮して謎の多いゲーム内のストーリを進んでいきます。しかしながら、実際にはプレイヤーはあくまでプレイヤーであり、キャラクターの行動を眺める存在なのです。そこで私達は、ひとつのルートを進むキャラクターではなく、冷静にゲームの全体像から隠されたトリックを導き出そうとするプレイヤーとして振舞っているのです。それも無意識の内に。 12RIVENの世界では、プレイヤーは真の意味でキャラクター化するのかもしれません。それは錬丸や鳴海としてではなく……例えば、私の場合は「YAMA」というキャラクターとして。もし、前述したように本作が制作者とプレイヤーの識閾下同士の対話の物語であったなら、主人公はゲーム上で奮闘する錬丸や鳴海ではありません。真の主人公は、ゲームの裏に隠されたトリックを暴くべく、制作者と格闘する「12RIVEN」した我々プレイヤー自身なのです。 |