朱 −Aka−
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
続・銀色 舞台は広大な砂地へ…… ねこねこソフト第3弾は、中世の大陸を舞台にしたシリアスノベルです。初回限定版はDVDとCDが同梱されています。この他に初回特典として、ねこ缶とサウンドトラックと設定資料が付いてきます。 さて、同社のデビュー作「銀色 −完全版−」は、ラストに「to be continue」という意味深なコメントを付けて幕を閉じました。つまり物語として完結していなかったのです。実はその銀色の続編として登場したのがこの朱なのです。パッケージには続編であることは明記されていませんが、ストーリーを進めていくと、銀色をかつてクリアーしたことがあるプレイヤーは、本作が銀色と深い関連性を持っていることが分かるでしょう。かと言って、前作をプレイしていないと内容が分からないかといえばそんなことはなく、普通に楽しめるのでご安心を。ともあれ、そんな銀糸にまつわる物語は本作で終わりをみることになります。しかし、その終わり方にまたしても問題があり……? 回収されない伏線 ■シナリオ 全六章で構成されるオムニバス方式を採用。エンディングが一つの一本道シナリオです。前半三章では、三組の「眷属」と呼ばれる謎の力の持ち主であるヒロインと相方の主人公が、章毎に分かれて登場し、それぞれの旅が描かれます。後半三章では彼らの旅路と思惑が交錯しながら「眷属」についての秘密が明かされていきます。つまり主人公は三人いるわけですが、どの主人公もヒロインに旅の目的を委ねて自分はヒロインを護ってついていくだけ……という共通点があります。しかもどのヒロインも目的が同じなので、銀色よりはいささか単調な印象を受けます。舞台が砂漠という無味乾燥な場所であることも影響しているでしょう。その目的はとある謎解きであり、前半では答えの気配を感じさせずに上手く伏線を引っ張っているとは思いますが、もしヒロインが四人いれば引っ張りきれなかったでしょうね。 ところで、便宜上主人公は三人と述べましたが、全体を通してみると第一章の主人公がメイン主人公であることが分かります。さらに言うなれば、二章、三章の主人公は、全体を通してみるとストーリー進行そのものにはさして重要な存在ではないことも分かります。では、何故わざわざ二章と三章を用意したのか。それは、本作のテーマに対する答えをプレイヤーに選ばせるためです。詳しくは第三節で述べますが、このゲームはメイン主人公(+α)が、自ら提起した問題に対する解答が明示しない形でエンディングを迎えるため、プレイ後は釈然としないものが残ります。ただし、二章・三章の主人公はメイン主人公が答えなかった解答をまったく互いに正反対の内容で答えているのです。つまり、このゲームは最終章ではなく二章・三章で変則的に結論を出しているのです。ポイントはそれがメイン主人公が出した結論ではないことです。では、何のための結論なのかと言えば、それはプレイヤーが選ぶための結論なのだと考えられます。つまり、本作ではメイン主人公が結論を出さない代わりに、プレイヤーが二章・三章の結論の内、好きな方を採用出来るわけです。そのため、最終章のエンディングは、プレイヤーがどちらをこのゲームの「答え」として選んだとしても、成り立つように作られています。ただ、この製作手法には疑問を感じざるを得ません。どうせなら選択肢を用意して、メイン主人公にどちらかを選択させ、ルートを用意した方がゲーム的ですし、後腐れなくすっきりと終われるでしょう。着地点を用意せず、敢えてプレイヤーの脳内で答えを想像させるだけというシナリオ構造は、責任回避的だと謗られても反論は出来ないと思います。また、ストーリーとしては成立していますが、かなり重要な伏線を回収し切れていないところも問題ですね。 ■キャラクター この頃になるとそろそろ慣れてきたねこねこの絵。メインキャラとサブキャラでかなり印象が違うので、原画家の担当を分けているのでしょう。例によって目が特徴的です。個性のある絵を描けるというのは素晴らしいことです。 各ヒロインにはそれぞれ回想シーンが設定してあるため、どのような過去を持っているかは分かるようになっています。彼女らはその過去の中でルタの眷属となるわけですが、このゲームの特徴は、同じ眷属という集団に属していながら、その集団に対する立場や捉え方、理解度がまったく異なる点でしょう。こうした設定にこだわっている反面、性格面はかなり意味の無いもので、キャラクターの単純な味付けレベルに収まり、過去の事象とリンクしていないのが残念です。 ■テキスト 淡々と事実を述べつつ、要所要所で伏線めいた独白を差し挟み、プレイヤーの興味を惹くスタイル。物語をストレートに受け取ることが出来るよう、感情的な表現を極力回避している点が好ましかったです。ストーリー進行重視の場合、プレイヤーを思考の迷宮に誘い込まないことは大切だと思いますので。 ■演出 二行しか出ない字幕のような画面や章構成の冒頭部分など、映画を意識した演出は銀色と同じ。OPムービーは存在しない代わりに、初起動時はタイトル画面に移行する前に自動的にプロローグが始まる一風変わった構成なっています。また、各章を攻略するとタイトル画面が変わるのも特徴的。ゲーム中、aviファイルを上手く組み合わせて、陽光や嵐などを動画で違和感なく表現していたのが、本作独特のポイントです。反面、音楽が良いのであまり気になりませんでしたが、効果音はほとんどありませんでした。 ■Hシーン 実用性は皆無。一応各ヒロイン1回ずつ用意されていますが、オートで流すと1シーン5分以下で終わります。必要性を見ても、なくてもまったく差し支えないレベル。銀色と変わらず映画に出るちょっとした濡れ場程度のものを想像して下さい。 ■ゲーム性 章構成になっており一本道で進んでいきます。早い話が分岐しません。一応選択肢が幾つかあって誤った方向へ進むとバッドエンドを迎えたりしますが、非常に分かりやすいので難易度は皆無です。ってこれ、前も同じことを書いたような。 ■グラフィック 背景はみずいろを挟んだことから進化していて綺麗になっています。ベタ塗り一辺倒ではなく、陰影を付けて立体感を出しています。街並みの古ぼけた色味もしっかり出されていて、手抜きはされていない印象です。また、人がいるべきところにモブが配置されているのも良いです。 イベントCGは本編149枚,おまけ6枚の計155枚。多くも少なくもありませんが、日常的なシーンにも一枚絵をかなり用意しているためか、ゲーム中はイベントCG登場回数が多く感じられます。構図は銀色に比べると大人しく、映画的な「動き」を感じるような絵は少ないですが、塗りは相変わらず高い水準を保っています。 立ち絵は服装が変わるだけでパターンは少なく、服装を入れなければ各ヒロイン3、4パターン。表情は5パターン以上用意されており、顔だけがコロコロ変わるゲームです。銀色時代の頭でっかちが改善されており、バランスは良くなっています。
前作では代償を伴いながらも勝ち取った幸せ……言い換えるなら「成果」を「生きた証」と呼んでいました。そこから「生きた証」を、成果を得るために支払った代償と言い換えることが出来ます。では、その成果を得るために果たした行為……即ち「生きた証」のことを完全に忘れ去ることが出来たなら、それは幸せと呼べるでしょうか? 勿論、成果自体は消えるわけではなく、支払った苦しい「代償」のことを忘れるだけです。 実はこれは本作のテーマなのです。ゲームにはその代償のことが例え苦しい過去であっても、ずっと記憶にとどめ続けねば「生きた証」とは呼べないという者、結果だけ残してすべて忘れ去りたいという者、二パターンの人物が登場しました。しかし残念ながらゲーム中にどちらが正解か答えが示されることはありませんでした。過程から成果までを含めて幸せと呼ぶのか、成果だけをとって幸せと呼ぶのか。それはケースバイケースでしょうが、願わくば前者であって欲しいものです。何故なら、忘れてしまわなければ精神に支障をきたすほど残酷な過程が必要なら、得た成果そのものを幸せと呼べるのか疑問符が付くからです。 シナリオの項でも触れましたが、ゲームは主人公がどちらの正解を求めたのか答えをプレイヤーに想像させる形で終わっています。皆さんはどちらを答えとするでしょうか。それによって印象がガラリと変わる……朱はそんなゲームです。 |