アトリの空と真鍮の月
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2000年に発売された「果てしなく青い、この空の下で…。」(以下青空)の続編で、青空から6年後の世界を描きます。和風クトゥルフといった趣漂う前作が好きだったので、今作にもそれを期待して購入しました。 結果から述べると、期待以上に……というか完全なクトゥルフの同人作品といっても良いほどクトゥルフ色の濃い和風ホラーでした。ただし、大怪獣のような神がジャンジャン登場して大暴れするので、ラヴクラフトではなくダーレス的という感じです。例えを変えるなら、前作がウルトラQなら今作は怪獣総進撃といったところでしょうか。そんなわけでかなり大味な話になっていたのですが、個人的にはそこそこ楽しめる内容でした。ただ、問題もあります。最後のエピソードがあまりに意味深且つ謎だらけである点です。それは半ば未完と捉えられても仕方のない内容で、なかった方が無難だったことは確かです。その辺りを含め、お勧め出来るか批評に移ります。 なお、初回予約キャンペーンで、OP&EDボーカルが入ったCDがプレゼントされています。 数百年に及ぶ因縁が密接にリンクする壮大な物語 ■シナリオ 前作から引き続き、農村に古くより伝わる因習に巻き込まれていくヒロインを助ける、ホラーミステリー。春夏秋冬の4部構成で、ゲーム内期間は約1年間に亘ります。その展開は極めて前作に似ており、舞台と登場人物を変えただけではないかという気もします。前作からの引継ぎ要素も多いのですが、概ね説明が入るので、知らなくても問題はないでしょう。 本作において主人公はヒロインの触媒的な意味合いが強く、どのシナリオも主人公が格好よく活躍するというより、ヒロインの活躍をサポートするという内容となっています。実際にゲーム世界を動かしていくのはヒロインであり、主人公はある意味ただひたすら流されていくだけの傍観者にも見えます。スター・ウォーズに例えるなら、ルークが同盟軍と一緒になって仕方なくストームトルーパーを退治している間に、レイア姫がジャバ・ザ・ハットとダース・ベイダーとパルパティーン皇帝を始末してしまった感じでしょうか。ですから、客観的に物語を読み進めていく分には問題ありませんが、主人公の活躍を楽しみたい方にはお勧め出来ません。 一方、ミステリーといいながら、どのルートもクライマックスの展開が同じであるため、最初の1周で大方の謎が解けて2周目以降飽きてしまうのが難点。個別ルートで語られる各人の過去(あるいは前世)が現在にリンクしていく構造はハイクオリティなだけに、エンディングまでの展開にもう少しバリエーションを用意しても良かったと思います。その点では、前作の方が優秀でした。 また最終章の結末が、説明がつかない上に状況がよく分からないというのも如何なものかと……。この最終章がなければ良作だったのですが、意味不明なものをつけたために完成度が下がってしまっているのが残念です。 ■キャラクター 原画はかどつかさ氏。うーん……記憶にありません。青空がジブリ調でクセが強かったのに対し、こちらの絵はクセのない万人向けな絵となっています。そのため、青空から引き続き登場する文乃は、かなり人相が変わっています。個人的には今回の文乃も好きですけどね。全体的に表情の変化が少ないキャラが多いのですが、それだけに時折見せる笑顔がとても印象的です。 性格・設定ですが、各ヒロインはそれぞれシナリオ進行上重要な役割を担っており、不必要なキャラクターが一人もいない点が高く評価出来ます。RPG風に例えるなら、それぞれ異なる属性を持っており、時に相反し時に接近する……といった相関関係があるのも魅力のひとつです。そうした属性を含めた各キャラの謎は、文乃を除いてどのルートでも等しく明かされるので、2周目以降が退屈になる欠点もあるのですが。 ■テキスト クトゥルフ的なストーリーではありますが、テキストまでクトゥルフ的なわけではありません。抽象的な単語が飛び交うだけで、示唆しているものの正体が想像する人によって違う……なんて訳の分からないことにはなりませんのでご安心を。ややこしい設定は多いですが、プレイヤーが疑問に思うであろう点については事細かに説明されますので、丹念に読んでいけば話は理解出来ます。また、縦書きであることを意識してか、地の分(主人公の独白)がかなり大目なのも特徴的です。 ■演出 オープニングムービーは、実写と作中CGを織り交ぜたもの。イベントCGと立ち絵を使ってキャラ紹介をしていくタイプです。ヒロインが雨の中で泣いていたりする重苦しい絵が幾つも出る割には明るい歌が流れ、あまり意味のない立ち絵が無秩序に現れるなど、いまいちコンセプトがはっきりしていません。 効果音は、田舎を舞台にしているだけに、小鳥の囀りや川のせせらぎ、変り種としては耕運機の稼動音など、のどかなものが中心に集まっています。画像効果は、精神的ショックを受けたシーンで画面がグラグラとゆらいだり、天候不順の際は雨が降ったりと基本的なところが押さえられています。 ■ゲーム性 青空同様、春夏秋冬の4部構成。選択肢によって、季節が進むに連れて攻略ヒロインが確定していきます。文乃と月乃は他のヒロインを攻略後、新章が現れて攻略出来るようになります。砌編では難しい連続選択肢があり、ミスるとバッドエンドもあります。それを除けば難易度は低いです。 ■Hシーン 立花×7、三葉×5、朝×2、砌×4、月乃×1、文乃×1〜2、他×3と、回数にバラつきがあります。今回は攻略ヒロインはすべて和姦、陵辱系は非攻略ヒロインに回されています。月乃と文乃を除き、必要性は低く、特に朝の設定は如何なものかと……。質もバラバラで、短かったり、裸のCGが出るだけというものまであります。最早それをHシーンにカウントするのは憚られるのですが、一応数に含めてあります。 ■グラフィック 背景は水彩画風で、建物の汚れや陰影などを淡いタッチでぼかしながら自然に表現しています。道端に転がる小石や遠くに設置された建物など、細かな情景にもこだわっています。ただし、モブが描かれていないのは残念です。 立ち絵は各キャラ5パターン前後。表情ごと変わります。 イベントCGは差分抜きで120枚。数量は十分でしょう。ただ、ほとんどがHシーンで消化されるので、比率的にもう少し状況説明シーンでCGが出ても良かったかもしれません。必要なところでは出てるんですけどね。自然や和風建築物の内部で何かをしているというパターンが大半で、この辺りは流石に田舎ゲーです。
本作の舞台は自然が溢れる農村で、古いしきたりが未だに残り、迷信深いながら人々が多く暮らしています。ここには神と人と獣が共存しているのです。文明的とは言い難い状態ですが、共感度が高く思考の純粋性を失っていないとも捉えることが出来ましょう。 物語のある結末で主人公は村を去り都会に移り住むことになり、未開の地とでも呼ぶべき村には、開発の手が入ることになります。これは「神」などという非科学的な存在がなくなり、獣と共存するようなことはしなくなっていく人社会の変化を告げています。去り際、主人公はあるヒロインの忘れ形見ともとれるアイテムを入手することになります。主人公はこれを「自分のことを忘れないでほしい」というメッセージだと解釈するのですが、私はこのヒロインを、性格や設定から、先述した、人間の持っていた「共感性・純粋性」と置き換えることが可能だと思っています。つまりこの二点が、都会という多種多様な人間が共存する社会でに必要なエッセンスというわけです。 本作のような田舎ゲーをプレイしていると、豊かな感受性を維持するために「自然」が果たすであろう役割は大きいように感じます。都会で始終人工物に囲まれていると、どうにも淡白な生活になり勝ちで、身近に生き物がいないとなれば、確かに共感性や純粋性が損なわれていくようにも思えます。低下していく「純度」を回復するためにも、偶には自然に触れるのも良い……そう思える一本です。 |