EVE The Lost One
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
大人気作品の続編はいつも……
2人の主人公を交互に操りながらストーリーを進行させるマルチサイトシステムを売りにした、EVEシリーズの第二作。大ヒットを飛ばした第一作から開発陣を一新し、シナリオライターに2008年に『私の男』で直木賞を受賞した山田桜丸(桜庭一樹)を迎えています。発売翌年には「The Lost One Last Chapter of Eve」とタイトルを変えてPC版でリメイクされ、2003年にはSS版と同タイトル・同内容でPSに移植されています。 SS版では、ゲームディスクが3枚に分かれており、操る主人公を変えるごとにディスクを入れ替える必要があります。また、エクストラディスクも付属しており、こちらはCG・音楽や声優メッセージを鑑賞することが出来ます。 本作は主人公を小次郎・まりなから杏子・SNAKEに変え、さらにSNAKEの正体をゲーム中盤までプレイヤーに伏せるという、面白い試みを行っています。しかも両者は対立する立場なのです。こんな二人を違和感なく操れるという点において、本作がマルチサイトというシステムを生かした意欲作であることは間違いないでしょう。 しかし、続編という観点からすると、キーマンであった真弥子の扱いがぞんざいで、前作へのリスペクトが薄いようにも感じられるゲームでもあります。これはライターの山田氏が前作を未プレイであることが多分に影響していると広く言われていますが、その通りでしょう。そのためか世の中の評価は概して低いのですが、良い点も挙げつつ本作について確かめていくこととしましょう。 マルチサイトシステムを存分に生かした設定 ■シナリオ 前半は盗まれた謎の薬品「記憶(メモリー)」の正体を探り、後半は「記憶」に関係する謎の存在「LOST ONE」について探る二部構成。いずれも主人公2人のルートから情報を得ながら、答えを見つけていくことになります。通常これだけで終わるところ、この2人の主人公を対立させ、さらにSNAKEの正体が分からないのが味噌です。 前作は別の事件を追いながら共通点を見つけ出していく展開でしたが、今回は始めから共通の事件を負いながら別行動をとっていく……という逆の展開となっています。別行動をとらなくてはならない理由は主人公2人がそれぞれ追う者と追われる者だからです。ストーリー上の繋がりを持った続編であるため、前作の設定を生かすという前提条件があったと思いますが、単純な「続き」にせずにアプローチをガラリと変えたのは評価の分かれるところ。こうしてしまった以上、前作をプレイした人にとって本作は、違和感を覚えるのか、あるいは新鮮味を感じるのか、どちらかだと思うのです。大ヒットしたゲームの続編で敢えてそんな博打を打ってきたところに、メーカーの意気込みを感じるのですが、以降売り上げが下降線を辿るところをみると、残念ながらこの賭けは失敗に終わったようです。ちなみに私は最初違和感を覚えましたが、次第にグイグイ飲み込まれていきました。決してパワーのないゲームではないんです。 ■キャラクター キャラデザはエルフ・C's Wareで活躍していた野口征恒氏。絵は前作からスタッフが変わったとは思えないほど似たタッチで、違和感なくまとめています。相変わらず陰影が濃いアニメ絵です。プリシアが大人っぽくなっているのが嬉しいところでしょうか。 設定面ですが、意外と正体が掴みやすいキャラが多かった印象です。犯人探しゲームなのに、捜査を進めるとすぐに身元が判明してしまうサブキャラばかりで「あっ!?」と言わせる人物はほとんどいません。まあ、一方で主人公SNAKEの正体を中盤まで上手く隠せているので、意外性という点に関しては50:50ということにしておきましょう。そんな単純なサブキャラ達ですが、出すだけ出しておいてあまり上手く使い切れていないキャラが多いです。このゲームは中盤で舞台となる国が変わるのですが、そうなると前半で出たキャラがほとんど登場しなくなるんですよね。折角前半で活躍しても、後半になるとまったく出ずに終わり。あまりに勿体無いです。玲奈なんかはもっと雄二と絡ませられたでしょうに。 性格面ですが、全体的にあくが弱くなっています。特に主人公二人はいまいち個性が感じられません。こちらもSNAKEの場合は逆にそれを生かして正体を掴みにくくさせたり、クライマックスの展開に使っているのですが、杏子の場合はどうしても弱体化したまりなという印象が拭えません。前作の小次郎とまりなが濃すぎると言えばそれまでですが、もっと暴れさせても良かったような……。 なお、前作の登場人物も登場しますが、小次郎と弥生はほとんど出番がありません。 ■テキスト 選択したあらゆるコマンドで、主人公がコメントをつけながらアクションをおこします。今回はギャグはかなり抑え目ですが、杏子が調査時に誰彼構わず自らの身分(内調捜査官)を明かすなど、かなり言動に?が付くキャラが多いです。SNAKEは本来の姿のときと、プレイヤーの意思で操作できるときの発言内容に差異を持たせたのは面白い工夫だったとは思いますが。 前作の説明を行う部分もあり、私としてはそこそこ分かりやすかったですが、EVEシリーズを初めてプレイする人にどのように映ったのか気になるところです。 ■演出 アニメーションのオープニングムービーは中々良い出来です。「LOST ONE」という文字が映ったパソコン画面を中心に、本編中のシーンをノイズをかけながら再生していきます。中でもパソコン画面中に開いた複数の動画ブラウザで、杏子が奮闘するシーンが幾つも同時に再生される場面はかなり格好良いです。 アニメーションは本編中の重要なシーンで挿入され、ゲームを盛り上げます。また、パソコンの画面上に現れるポリゴンで作られた謎の脅迫者ADONISは、2D世界で一人だけ異様さを発揮しており、終始画面上を動き回りプレイヤーの不安を煽ります。 また、終盤にSNAKEが突如「プレイヤーの言いなりにならない」と言い出し、SNAKEサイドであるにもかかわらず、SNAKEの立ち絵が現れるなど、不可解な演出もあります。 その他特筆すべきものとしては、SNAKE編で突如SNAKEが瞬間・時間移動することがあります。これは杏子編でSNAKEが登場しているシーンを、正体がばれないようにカットしているためです(杏子と会っているシーンをそのままやると正体がばれますからね)。この瞬間移動が実に唐突に起こり、初プレイ時には意味不明なので、私などは瞬間移動発生時に、場面がカットされたなどとは思いもせず、人格が入れ替わったのではないかと考えていたほどです。とにかく演出だけ見ると結構頑張っています。 ■シチュエーション 芽生えそうで芽生えない恋ばかり。どちらの主人公も恋愛に発展する材料は揃っているのに、先に進みません。玲奈やマイナといったヒロイン(ヒーロー)に匹敵する魅力的なサブキャラを用意して三角関係になりそうな要素を作っておきながら、結局何にも絡まないというのも中々度し難いものがあります。反面、こうした恋愛要素を前面に押し出さなかったために、シビアなラストシーンが際立っているとも言えますが……。 ■ゲーム性 基本システムはコマンド総当り方式です。出てきた選択肢をひたすら選択しまくることで、ゲームを進行させていきます。今回は地点移動時にマップが出るようになり、移動が容易になりました。 シリーズの特徴であるマルチサイトシステムについてはburst errorの批評を参照して下さい。両者が鉢合わせることで訪れるピンチの瞬間にサイトチェンジのタイミングが来るので、良い盛り上げ役になっています。両者ともほぼ同じ場所にいながらも、SNAKEの正体を上手く隠し通しているところは評価出来ます。 その他に、コマンド総当りでありながら、決まった順番に選択(移動)しなければ先に進めないところがありました。これは単純に難易度が上がっただけで、あまり意味はないような気がします。 ■グラフィック 前作同様移動が多いゲームだけに、背景は40枚以上用意されています。塗り、パースは問題なし。ただし、画面の上下左右に枠のようなものが表示されるため、全体的に表示範囲が狭まってしまっています。 立ち絵は各キャラ2〜3種程度、表情パターンも3種類前後。 イベントCGは立ち絵から質が大きく向上するわけではありませんが、問題なく見れるレベルです。全年齢対象になったため、サービスカットはなくなりました。
本作は最初から最後まで「対極」という単語がキーワードとしてしっくりくるゲームです。まず主人公2人は捜査官と犯罪者というまったく相反する立場です。二人は自身の二面性に悩みます。普段は強気だけれど、本当は寂しがりやの杏子。普段はどうしようもないほど弱気だけれど、最後は殻を破ってパワー溢れる本当の自分になるSNAKE。自分の中で反する感情を持ちながら、2人は互いにそれが真逆なのです。さらに、ゲームの結末もまったく対極的です。愛する者と手を繋いで立ち上がる杏子。そして愛する者を失い、倒れるSNAKE……。 そしてタイトルの「Lost one」ですが、ゲームに登場するキーとなる存在であるだけでなく、2つの内の片方を失ってしまう読んだままの意味も持っています。その内ひとつは結末のことを指しているわけですが、実はもうひとつ、片割れが失われてしまうものがあります。これは本編で確認してもらいたいと思いますが、EVEいうシリーズにとって、支持層をも失うほどの大きな損失でした。そのせいで奇しくも、前作の「対極」に位置する不人気作品となってしまったのです。 |