EVE ZERO
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賛否両論のEVEの原点 セガサターンからプラットホームを変え、2000年3月にPSソフトとして発売。初回限定版は化粧箱入り。本革製「桂木探偵事務所手帳」、外伝ドラマCD「Another EVE ZERO」、メモリーカードシールが付属します。同年6月にWindowsへ「Eve Zero 〜ark of the matter〜」(R15)として移植され、さらに2001年にはDCへ「EVE ZERO完全版The ark of the matter」として移植されています。移植版ではエピソードが追加されているようですが、私がプレイしたのはPS版です。 本作はEVEシリーズ3作目で、EVE burst errorの2年前を描いた作品です。時間軸としては「ZERO→burst error→Lost One→TFA」ですから、一番早いことになります。Lost Oneの評価が一様に低かったのに対して、本作は「シリーズで一番好き」という人もいれば「中途半端なな駄作」という人もおり、好き嫌いがかなり分かれる一本です。その理由は、説明不足が多い――言い換えれば完成度が低い――ことにあります。この辺りは追々触れていきましょう。実のところ、それでも私としてはかなり気に入っているんですけどね。 リアリティーのある巨大な陰謀物語 ■シナリオ シナリオライターが今回も変わってこれでシリーズ3人目となります。何度もライターが変わるせいか、シリーズを通して見ると設定に矛盾があるのですが、それはご愛嬌としておきます。 EVEシリーズは2人の主人公を操って両ルートから情報を得ながら、最終局面で2人が合流してストーリーが収束していく点に特徴がありますが、今回は2人は一度も合流することがないため、ひとつの結末ではなく、主人公1人ずつの結末――すなわち2つの結末――という形になっているのが特徴です。これは、EVE burst errorで2人が初めて会うことになるというシリーズの設定上、止むを得ないことなのですが、意外にも違和感はありませんでした。というのも、結局主人公2人の情報をまとめるのはプレイヤーであるという構図が変わっていないためです。 国家規模の陰謀が絡む展開がシリーズの魅力ですが、今回はさらに陰謀色が強くなり、国家と企業が深く関わってきます。このようにバックグラウンドが巨大で、リアリティーのある設定が次々と飛び出しくるため、プレイしていると世界を股にかける007のような気分を味わえます。これはTFAでも同様ですが、本作のライターは陰謀物が得意なようですね。 またSF色も濃く、超能力的な要素が飛び出すため、前半の推理は困難です。この超能力は目に見えないために、テキストでの説明が必要になります。しかし説明が不十分で、事件の経緯や動機が不明な箇所が1点(ネタバレのため反転:高畠の死因)あるのが、本作の大きな弱点です。この1点が完成度を下げており、非常に悔やまれます。逆にここさえ許容すれば良作だと言えます。 ■キャラクター シナリオライター以上に毎回変わる原画家。今回はCARNELIAN氏。シリーズでは最も大人しいタッチです。誰も他の作品と比べると可愛らしく感じますが、それもそのはず設定上皆若いのです。弥生の絵はZEROが一番好きです。 各キャラの人間関係は複雑で、誰がどの会社に勤めており、どのような役割を果たしたか、そして現在どのように暮らしているのか、しっかり把握しなければなりません。ダミーの職業を使っているキャラも少なくないので、注意が必要です。このように社会的地位を意識させる設定は、サスペンスらしくて好感が持てます。 ただ、最も重要な真犯人についてもう少し語られても良いのではないかと思います。語られないことでミステリアスな雰囲気は出るのですが、思考がまったく読めず終わってしまうのでは勿体無いと思います。 また、シリーズを通してみると、源三郎が小次郎を連れてきた経緯などキャラ設定に違いがみられます。作品単体で見れば矛盾はないのですが。私はそれ程五月蝿く言うつもりはないのですが、気になる人も多かったようです。 ■テキスト 例によって選択したあらゆるコマンドで、主人公がコメントをつけながらアクションをおこします。今回はプレイヤーに対して冷たい発言が目立ちます。ヤクザの事務所に対して「石を投げる」というコマンドがありますが、選択すると「やるならアンタがやってくれ」といった感じで、コマンドがあるから選んだのにその態度はなんだ!と怒りたくなります……ってそれは私だけ? もう少し、茶目っ気を出して欲しかったですね。 その他はひたすら真面目に解説を行いながらゲーム進行に血道が注がれています。TFAもそうですが、ライターはおふざけのないハードボイルドなサスペンスをやりたいんでしょうね。EVEのような愉快さはありませんが、私としてはこういう形もOKです。 ■演出 セールスポイントのひとつであるアニメーションは、この頃のPSとして見ると良い出来です。オープニングムービーは、プロローグとしての意味を持つ場面もあるので、見なくてはなりません。今思うとストーリーをトレースした内容になっており、結末に近い部分も描かれているので、かなりネタバレ要素が大きなムービーですが、プレイ時は「まさかこんなことにはならないだろうし、随分意味深なムービーだな」くらいにしか思いませんでした。それぐらい意表をついたシナリオだったとも言えるのですが。 ストーリー中に挿入されるムービーは11本。ほぼすべてアクションシーンです。選択肢によってはすべて現れません。 効果音は扉を開けた音など、物理的なものが用意されていますが、多用はされていません。 ■ゲーム性 コマンド総当り+マルチサイトシステム(burst error参照)に、新要素「フォーカスモード」が加わっています。これは、立ち絵が映っているキャラにL1かR1ボタンを押すことでズームアップして近寄り、二人だけでこっそりと聞かれたくない話をするシステムです。画面に二人出ている状態で左の人間ならL1で、右の人間ならR1で近付きます。これを行わないと話が進まなくなることもあるので、結構厄介です。実はやっていることはコマンド選択と変わらないという説もあります。 今作は小次郎とまりなが出会う前の話ですから、常にすれちがってはいるのですが、サイトチェンジを行って小次郎とまりなが合流していくようなことはありません。ストーリー上、あまり意味のないところにサイトチェンジのタイミングが設定されていることもあるせいか、無意味に難易度が上がっています。また、Lost One同様、移動時にはマップを利用します。 ■シチュエーション 毎度の如く喧嘩が絶えない小次郎と弥生に対して、まりなの方は他の作品のように男に惚れるような展開は用意されておらず、ひたすら事件を追い続けることになります。そのため、まりなサイドは正統派の探偵サスペンス物と言っても良い程の手堅さで進んでいきます。 例によって二人とも子どもを連れて歩くことになるのですが、実際の同行時間は短いです。しかも男同士、女同士の(まりなはいつもですが)ために、同行者同士の絡みもあまり盛り上がりません。ですから、全体的に浮ついた展開は期待しない方が良いでしょう。 ■グラフィック 正確に数えたわけではありませんが、背景は50枚以上あります。塗り、パース共に問題なし。モブキャラもしっかり描かれています。また、後半に外国にすっ飛ばされるシリーズ恒例の展開もあるので、外国の背景もあります(といってもエルディアのようにあちこち行くわけではありませんが)。 立ち絵は各キャラ3種程度、表情パターンも3種類前後。 イベントCGは、192枚。引き気味の構図は少なく、ドアップだったり見上げ気味の構図が目立ちます。つまらない絵はなく、良く頑張っていると思います。恒例の風呂CGもあります(笑) ……それにしてもアップになると益々まりなの若さが際立ちますねぇ。
この非常に後味が悪く、抽象的な結末のゲームからテーマを導き出すことは困難です(Windows版やDC版ではエピソードが加えられているようですが、私がプレイしたのはPS版)。一体、真犯人は何を考えて殺人を行ったのか、動機が見えてこないのです。復讐的な要素があることはありましたが、無関係者が死にすぎています。特に最後の殺人はあまりに無意味である気がします。しかし、もしその殺人に意味があるならば……。真犯人は、他の人間と同じように代替のきかないただ一人の存在になりたかったのではないかと、私は推測します。クローン要素を持つ真犯人にとって、その唯一性を揺るがす者(すなわちクローン)は、実は耐え難い存在だったのではないでしょうか。その真偽の程は分かりませんが、どうも真犯人は殺人を犯すことによって自らの存在を確認している節があったように思えます。そしてその最たる確認行為が、最後の殺人だったのではないでしょうか。結局その後、真犯人が何を考えどのような行動をとったかは語られることはありませんでしたが、閉ざされた内なる世界から外界へと飛び出したのは確かなようです。これはようやく「個」としての生命を勝ち得た真犯人による自らの存在の「証明」なのかもしれません。 |