群青の空を越えて

ブランドlight 発売日2005.9.30
初回限定版8800円 
ハードPC ディスク数DVD1枚
OSWin98/Me/2000/XP ジャンルADG
原画黒鷲 シナリオ早狩武志
音楽樋口秀樹 
音声フルボイス ボーカル曲あり

ストーリー
「あの子は君の目の前にあるあの大きな楠の木になったの」
 幼い頃、子猫の亡骸を埋めながらそう教えてくれた隣のお姉さんは、 三毛猫のような柄をした戦車に轢かれ今はその隣に眠っている。


「アンダルシアの雨は気まぐれで時折平野に空き缶が降る」
 奇妙なシュプレヒコールと共に、いつも中身の入った空き缶を投じた向かいのお兄さんは、 催涙弾の豪雨にうたれ街角で二度と動かなくなった。


 明日は俺も歌うだろう。遮るもの一つ無い群青の空の彼方で。
「シュレーディンガーの猫は百年経っても決して死なない」


 蓋を開けるまで、勝敗は判らない。

「俺たちは決して死なない。魂は永遠(とわ)に引き継がれるから」
 叫んだ男は昨日死んだ。俺は彼の友ではないだろう。なぜなら俺は彼の魂が判らない。
 引き継がれない魂を抱えて彼は死んだ。


「わたしたちの愛は永遠なの。変わらぬ愛をわたしは誓うから」
 彼女が腕にぶら下がる男の背は昨日は低かった。変わらぬ愛は背を伸ばす。
 永遠の愛は連れ添う相手を選ばない。


 ならば俺も呟こう。力無き声をかき消されぬように。
「俺たちは絶対に絶対に絶対に負けない」


 言葉の時代が終わって、戦争が始まる。


 微妙に異なる歴史を歩んできた近未来の架空日本。

 主人公の父親、萩野憲二は政治・経済的に閉塞感漂う中、新時代の社会モデルとして、日本を政治的には分割し、経済的には逆に極東アジア全体を統合する『円経済圏構想』を提唱する。
 折からの地方分権熱と、変革に伴う経済効果を期待する勢力にも押され、議論のすえこの提案は受け入れられる。ほどなく各地域に広域行政府が発足。
  日本は順調に新時代にふさわしい社会システムに移行し得たかに見えた。


 だが、新制度発足後間もなく、関東圏行政府は突然、これは旧来と同様の国家単位だとして独立を宣言する(直前に、萩野憲二は暗殺される)。
 あくまで、政治システムの分割に過ぎないと考えていた他地域は、激しくこれに反発した。

 関東の独立は、経済利益を目的とした一部政財界の私欲に満ちたものだったからである。

 利己的な独立を許すくらいなら、旧日本を維持すべきと関西・西日本を中心に指揮された機動隊・一部自衛隊が関東に進出。独立を阻止しようと、強権的な統治を開始する。


 これに対し、自由を制約された学生が反発。予備生徒制度を発足させ、レジスタンス運動を開始する。東アジア団結を夢想する活動家の扇動、EU型大規模経済圏の成立を望む欧州の密かな軍事支援などもあり、その組織は急速に拡大した。
 主に学校単位で編成された予備生徒はやがて、武装蜂起して第一次独立闘争を開始する。内戦への備えのなかった関西系自衛隊勢力は不意をつかれ敗走。

 関東は独立状態を回復する。


 同時にアメリカ・ロシアを主とした国連軍が介入。富士川・糸魚川を中心に中立地帯が成立する。


 ……そのまま、戦況が膠着状態に陥って数年。戦闘は越境しゲリラ活動を行う一部のレンジャーと、停戦監視団の目を盗んで示威行為を行う双方戦闘機の間で交わされるのみになっていた。


 その夏、萩野社は筑波航空学校に通い授業と訓練に忙殺される毎日を送っていた。T-2による実習を終え、年下の水木俊治とペアを組んで、いよいよ念願のグリペンに乗れるようになったのだ。

  しかし、悪化する戦況にベテランパイロットは不足がちであり、二人がグリペンで満足な訓練を受けることは難しかった。その状況を危惧した筑波戦闘航空団司令・吉原大嗣は、目の負傷をきっかけにパイロットを退役して前線に赴いていた教え子、渋沢美樹を呼び寄せ、彼らの指導を依頼する。
  飛行予備生徒の一期生として、数々の激戦をくぐり抜けてきた美樹の指導は厳しかったが、社、俊治とも特に選ばれた飛行予備生徒であり、すぐにその教えを吸収していった。二人は次第に本物の戦闘機パイロットとして鍛え上げられていく。そして、予備生徒の活躍ぶりを報道する為に派遣されたきた報道カメラマン、澤村夕紀を後席にのせ、ついには初の実戦を経験する。

 一方、水木若菜は同級生であり、弟の相棒である萩野社に対して、複雑な感情を抱いていた。それは主にその父親・憲二の存在が理由だった。両親は憲二に心酔しおり、家庭を顧みない二人に反発する若菜には、逆に印象が悪かったからである。また社自身も、偉大な父親を持ったエリートのパイロット候補生として、クラスでは浮いた存在だった。

  だが、ささやかなきっかけから、若菜は社やその友人、藤川達也と大賀忠則たちに誘われ、文化祭で一緒に演劇をする事になる。仮初めの停戦であるにもかかわらず……否、実質的な戦争状態だからこそ、筑波航空学校の文化祭は華やかで盛大だった。明日の判らない日々に、誰もが想い出を求めていた。一度かぎりの夏を楽しむ蜻蛉のように。
  社や俊治、クラスメートの久我聡美、さらには俊治の同級生の日下部加奈子らと一緒におこなうのは、芝居マニアの達也が選んだチェーホフ『かもめ』だった。密かに演劇に興味があった若菜は、ヒロインの一人として舞台の練習に熱中した。
……相手役である社と、否応なしに心を通わせながら。


 数年ぶりに筑波に戻った渋沢美樹には、一つの気がかりがあった。怯えと躊躇いを乗り越え、かつての恋人であり相棒でもあった日下部諒の仏前に線香を供えに訪れた美樹は、その妹、加奈子と再会する。
  加奈子にとって諒は自慢の兄であり、美樹にとって加奈子は諒が最後まで気にかけていた妹だった。兄を自分から奪ったと、加奈子は美樹を恨んでいたが、美樹は諒に代わって加奈子を大切にしたいと願っていた。
  加奈子は整備の手伝いをしに筑波戦闘航空団に出入りしていた。パイロットの中でも、兄と同じ一種飛行予備生徒として実戦に参加する社は、もっともその立場が諒とよく似ていた。同級生・俊治をきっかけに、加奈子は次第に社に戦死した兄の面影を追い求めていく。俊治の気持ちに気づかぬままに。

  美樹にとって、社と俊治は初めて得た生徒だった。諒を失って以降、望んで危険ばかり引き受けてきた美樹にとって、教官役は想像以上に意義のある任務だった。訓練にはげむ二人に、ついかつての自分と諒を重ね合わせてしまう美樹。二人を庇ってカメラマン、澤村夕紀と反目してしまうのも、自分が一次闘争の英雄とマスコミにまつりあげられ苦労したが故だった。

 社たち有志による文化祭での演劇は大成功だった。

  だがその頃、海の向こうでは、九月第一月曜日の労働祭(LaborDay)を皮切りに、米大統領本選が本格化していた。   ……夏が終わり、政治の季節が訪れたのだ。

キャラクター名私的お気に入り度声優属性
萩野社■■■■■■ 7/10小池竹蔵主人公
水木若菜■■■■■■■■ 9/10榊原ゆいポニーテール
水木俊治■■■■■■ 6/10中里真沙後輩
日下部加奈子■■■■■■ 7/10安玖深音ショート・元気っ娘・後輩
渋沢美樹■■■■■■■■ 8/10上坂莉緒美人・巨乳・お姉さん
澤村夕紀■■■■■■■■ 8/10安倍有紀お姉さん・ショート
藤川達也■■■■■■ 7/10平井達矢親友
大賀忠則■■■■■■■■ 8/10秋山樹親友
久我聡美■■■■■■ 7/10本山美奈親友・元気っ娘
吉原大嗣■■■■■■ 7/10滑川菊太郎上官・学者
鈴木隆史■■■■■■■■ 9/10富士爆発上官・パイロット
岸田徳治■■■■■■■■ 8/10山中荘一上官・軍人
香坂恵実■■■■■■ 6/10伊藤瞳子上官・軍人・強気
萩野憲二■■■■ 4/10
萩野真優■■■■■ 5/10松田美奈

主要搭載システム
BGM及びボーカル曲
●オートメッセージ
●スキップ(既読判定あり)
●バックログ
●バックログ中の音声
●オートセーブ
●クイックセーブ
●クイックロード
●マウス追尾
●CG鑑賞(クリアー後)
●音楽鑑賞(クリアー後)
●シーン鑑賞(クリアー後)
●アナザーストーリー
●BGM29曲
●OP歌
 アララト(ショート)
 White Lips
●OP歌
 アララト(ロング)
 White Lips
●ED歌
 tell me a nursery tale(ショート)
 White Lips
●ED歌
 tell me a nursery tale(ロング)
 White Lips
雑感
個人的名曲
 lightのシステムは、今、エロゲー界で最も使いやすいシステムの一つだと思います。
 オートメッセージはコンマの世界で調整可能であり、個人的には文句無し。
 レスポンスよし、セーブも使い勝手よし、おまけにアナザーストーリーをダウンロー ドしたり自分でつくったり出来るという、至れり尽くせりな搭載システムは本当に素晴 らしい。音声も各キャラクター毎に設定可能で、Hシーンのみ男性ボイスを切るなどの配慮もきっちり為されています。他のメーカーも見習って下さい。
 明るい曲は明るく、暗い曲は暗く、格好良い曲は格好良く。場面場面に合った使い方がきっちりとされていました。変化に富んでいるので、好きな曲が多い反面、あまり好きではない曲も多かったです。ただ、全体的に重厚感溢れる曲が多かった印象ですね。

●アララト
●tell me a nursery tale
●Section 3
●Last Flight
●Sugar baby
●Festival
●Slow food, Slow life
●Over the sky
グリペンランデブー
(C)light
とても美少女ゲームとは思えません(^^;
僕夏再び……!?


 公式ページによると本作のジャンルは「本格未来架空航空戦記ADV」とのこと。……濃い。何だこのジャンルは。ストーリーや設定もやたらと硬派な印象がするし……。とても美少女ゲームとは思えない――そんな謎のゲームを買ったのには訳があります。本作を手がけたシナリオライターが早狩武志氏だからです。早狩氏はあの名作僕と、僕らの夏(以下僕夏)のライター。音楽も僕夏とDMFの樋口秀樹氏。僕夏を愛する私にとって期待しないわけにはいきません。ここで、僕夏の魅力とはなんだったかを振り返ってみます。「僕と、僕らの夏」は、主人公とヒロインが色々あった末にくっついてハッピーエンドと言う従来のギャルゲーとはまったく一線を画する内容でした。社会性を背景に様々な思惑を絡ませつつ綺麗な面と汚い面の両方を見せながら成長していく大人と子供の現実的な成長物語。美しく微笑ましいストーリーばかり展開するゲームとは違って、清濁併せのむ姿勢が僕夏の魅力です。詳しくは批評ページを見ていただきたいと思います。そんなゲームの開発陣が送る本作ですから、普通の恋愛物語が出てくることは勿論期待していません。今回も一味も二味も違った話が展開する……そんな予感を胸にプレイした「群青」でしたが、私の予想とはまた異なる展開が繰り広げられていくことに。


リアリティーの生むパラドックス


 さて、本作はスタート画面が戦闘機のランデブー飛行であって、Hシーン目当てで購入するといきなり驚くことになります。さらに、ゲーム開始後音声再生中にメッセージ表示がされずに驚きます(設定で表示可能)。初っ端から本作は「ゲーム」ではなく雰囲気を大切にした「ドラマ」であることを匂わせるわけです。……ちなみに私は馴れないので常にメッセージ表示してプレイしました(^^;
 しばらくするとオープニングムービーが流れるのですが、これがまた圧巻。ヒロインどころか登場人物がまったく出ずに、戦闘機の飛行シーンがずっと流れています。しかもかなり素晴らしい出来で、思わず「あれ? 俺間違ってエースコンバット買ったのか!?」と錯覚するほど。ゲーム中も何度か戦闘機の飛行シーンやドッグファイトムービーが流れますが、いずれも丁寧な出来(一部ミサイルを発射したのにムービー上はされていなかったりする場面があったりしますが)。

 キャラクターですが、至って普通な感じですが、どのキャラも自己主張が強すぎて人の話を聞かないのでプレイ中に疲れるかも。
 絵としては激しく微妙。萌え系の絵ではありませんが、ゲームの雰囲気を考えるとむしろ正解と言えます。ただ、人を選ぶ絵であることは間違い無いでしょう。パッケージの絵を見て買うと実際は少し違うので戸惑うかも。また、立ち絵のバランスがおかしい。横を向いた時は可愛いけれど正面を向くと不気味です。それでもイベントCGは、塗り、バランス共に一流だったりするので評価に困ります。
 背景は草薙が担当なだけあって素晴らしい仕上がり具合。ただし、人が沢山いそうな場面で誰一人描かれていない絵が多いところがやや気になります。

 Hシーンは、意外と濃い……様な気がする。キャラによってバラつきがあるんですが、どのシーンもシチュエーションに普通では無いこだわりが見られます(若菜がコンドームを広げているCGとか)。しかもイベントCGがバシバシつぎ込まれているので時間としては短くても満足度は高いかと。また、意義はかなり高めであると思います。Hシーンが無くても話は成り立つとは思いますが、Hシーンがあるためにゲームの(キャラよりも)舞台に深みを出すことに成功しています。

 次にシステムについて。通常ギャルゲーは主人公の視点で進行して行動やセリフの選択を行いますが、本作では僕夏と同様に主人公だけではなく、同一周回でヒロインや他のキャラの視点でもゲームを進行して行くことになります。各キャラの表面だけを見るのではなく裏面をも描くスタイルは今回も変わりません。このシステムによって、各キャラの魅力が倍増しています。特に若菜の他ヒロイン攻略時の姿はある意味本編よりも魅力的です。

 続いてストーリー。関東対関西と言う戦争を描く「群青の空を越えて」。今回も早狩氏はこのゲームで普通の純情恋愛劇を描くつもりはまったく無いだろう……という予想は大当たり。様々な人物の想いが錯綜する重い話になっています。そして今回も妥協の無い舞台設定。綺麗な所から汚い所まで見せて、関東と言う舞台を「単なるキャラクターが『登場する』場所として終わらせることなく、人々が『住む』一つの世界」として確立させています。しかし、僕夏では素晴らしかった舞台の作り込み様が、逆に弱点となっているのです。 ここで、群青と僕夏の決定的な差をピックアップしてみます。両作とも各キャラ毎に視点が変わっていき、恋愛の悲喜両方を描き出す作品です。丁寧で繊細な心理描写があります。そして作り込まれた舞台設定があります。ポイントはここです。ゲームの舞台が両作の決定的な差です。僕夏が我々が体感し得る極現実的な「ダム建設で沈みゆく田舎町」と言う舞台設定だったのに対し、群青は「関東と関西が交戦中の近未来」と言う非現実的な舞台である面です。前者で、登場人物達が「ダム建設は雇用創出に必要な事業なんです」「しかし使い道にならないダムなどつくってどうするんだ」と言う会話を行って舞台にリアリティーを出していたのに対して、後者では「関東が負けないためにはヨーロッパの援助が必要だ」「もし降伏するなら米大統領選の前が良い。その方がアメリカに借りを作れる」と言う会話になります。確かに後者の形は群青の舞台にリアリティーを出すのは間違いありません。しかし、プレイヤーの住む世界とあまりにかけ離れた会話なために、リアルであるが故の白け効果を生んでしまうんです。群青の舞台を見たとき、プレイヤーの感じ方は二つに分かれると思うんですよね。「とても作り込まれたリアリティーのある世界」と感じる人。もう一方で「夢想家の想像による陳腐な創作世界」と感じてしまう人。悔しいことに私は後者です。どうにも群青の世界がチープに感じられてならないのです。僕夏での成功が群青で通じない理由。それは現実と非現実をまったく同じ扱いにしてしまったからに他ならないのです。
 それと、個人的な興味として、主人公が関東サイドなために関西が悪者扱いを受けている感がありますが(これも一概にはそうは言えないのですが)、関西在住の方はこのゲームをどう思われるのでしょうか(^^; 北海道人の私としては微妙なところなのですが……。そして円経済圏理論にも言いたいことは山ほどと(笑)


総合得点■■■■■■ 79/100
おすすめ度■■■■■  5/10
ボイス■■■■■■■■  8/10
シナリオ■■■■■■■■  8/10
テキスト■■■■■■■■  9/10
キャラクター1■■■■■■  6/10
キャラクター2■■■■■■  7/10
音楽■■■■■■■■  8/10
演出■■■■■■■■  9/10
システム1■■■■■■■■■■ 10/10
システム2■■■■■■  7/10
Hシーン1■■  1/5
Hシーン2■■■■■■■■  4/5
グラフィック1■■■■■■■■■■  5/5
グラフィック2■■■■■■■■■■  5/5
大掛かりな仕掛けの裏には


 様々な理論や思想が飛び交う本作。最後は含みを持たせて終わっていますが(GRANDエンディングです)、このゲームのテーマはここに集約されています。全ヒロインを攻略して現れるもう一つのルートでは一つの疑問が呈示されます。我々は何のために戦うのだろう。愛のため? それは違いそうです。友情のため? それも違いそうです。自分のため? 合っていそうでこれも違う気がします。このゲームが訴えたかった答えは、「自分の存在を残すため」であると思います。ゲーム中、何度も登場する主人公の父親の論文。小難しい単語がずらずらと出てきますが、その端々から窺い知れることは「生きたことへの証明」の憧れです。深刻なことばかり考えている様に思えるこのゲームの登場人物ですが、何らかの形で自分の存在を必死にアピールしようとしているだけなんですよね。これらが最後にあのような形で纏まったのではないでしょうか。
 「生きたことの証明」……それは一見ありがちですがとても大切なことです。証明のアプローチが人によって違うから、戦いは起きるのかもしれません。しかし、人々の考えの根底には同じものが流れていることもまた事実。だからこそ、人はお互いを認め合わなくてはならないのかもしれません。……そんな考えが本作にはあると私は感じました。

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