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「・・・私のクラスの生徒だ。」
もう5度目の”社会見学”。
先生のプライベートを覗いた瞬間、生徒を強調されてしまった。
先生との距離が近づいたかと思ったら、何も無かったように先生は先生で。
あと半年で、卒業。
このまま教師と生徒、という間柄を埋められないのなら・・・。
―このまま離れてしまうしか、無いのだろうか。
私は最後の務めを終え、自室へ入ると枕に顔を埋めて泣いた。
もう殆どの荷物は、私の夫となる方の家へ運ばれてしまっていて、
閑散とした部屋は却って悲しみを増やしていった。
もっとも欲しくて堪らない人は、あんなに近くに居るのに。
手を伸ばせば、触れられるのに・・・。
繰り返しそう思う度に涙が溢れ、それを想い出にしなくてはならないと言い聞かせるほど、
悲しみが込み上げてくる。
―君の昨日の言葉を、嬉しく思った。
―君が此処へ茶を持ってくる事を、何時からか楽しみにしていた。
それが・・・無くなってしまうのは、残念に思う。
一つ、一つ噛みしめるように思い出す。今日旦那様からかけて頂いた言葉を、心に刻み付ける。
そして、胸の奥にしまい込んでいた自分の想いを言葉に変える。
―旦那様、初めてお会いした時から・・・お慕いしておりました。
―私にも気付かず論文を読んでいる横顔も、お茶をおいしいと褒めてくださるその顔も、
思いが深まるばかりでした。
「本当は、このまま・・・旦那様のお傍に居たいのです。」
音となった言葉は、私の一番強い想い。
旧家の奥様などに、ならなくてもいい。
一生仕える身でも、叶わぬ恋と知っても、それでもお傍に・・・居たい。
泣きつかれて窓を見やると、月が明るいのが襖越しにも解った。
どうせ眠れないのだからと、初めて旦那様に出会った庭へと出る。
今は初夏の候であっても、夜風はまだひんやりと冷たく、泣きはらして火照った顔には心地よい。
つやつやとした玉砂利の感触を足に感じながら、可憐に咲き誇る薔薇を見に、奥へと歩みを進めた。
薔薇の香りが、鼻腔を擽る。
あの角を曲がれば、一面に広がる薔薇の垣根。
初めて旦那様と、奥様に出会った場所。
・・・旦那様への想いが、生まれた・・場所。
ここに咲き誇る花たちに別れを告げようと、垣根へ歩みよると人影があった。
「誰だ?」
もう何度も頭の中で繰り返し思い出していた声が、私に問い掛けた。
舞い降りた奇跡に、苦しいくらい鼓動が早まる。
「・・お綾でございます。」
「どうした?こんな夜更けに。」
足音と共に、影ははっきりとした姿になる。
「眠れないので、こちらの花たちに別れを告げに参りました。」
旦那様の顔を、この目に焼き付けたい。
そう思うと強いもので、恥じらいながらも見上げてみる。
・・・その瞳は、とても悲しそうで。
・・・唇を、何かを堪えるように噛みしめていて。
「・・どうなさったのですか?」
只ならぬ様子の旦那様に問い掛けてみても返事は無く、私から顔を逸らす。
「旦那様?」
俯く旦那様の顔を覗き込むと、不意に抱きすくめられた。
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