この1つの嘘が、大きな嘘になってしまうなんて。 華〜付き合って〜 「跡部くん、おはよう!」 「・・・・あぁ。」 「ねぇ、跡部君って、お姉ちゃんのこと好きなの?」 「はぁ?」 外の空気も冷たくなる中、暖房の効いた教室では俺にこんなことをきいてきた。 「なんなんだよ、いきなり。」 溜息まじりに、俺は聞き返した。 「だってさ、なんていうか...2人の雰囲気楽しそうっていうか、すっごい恋人同士みたいな...。」 「....そんなんじゃねぇよ。」 「でもみんな言ってるよ?跡部君にとうとう彼女が!?って。」 「それが、お前の姉だと?」 「うん!」 自信満々に答えられると、なんと反論していいのかわからなくなる。 今までだってこんな噂は数え切れないほどあったし、その度に否定し続けてきた。 でも今回のは、否定するのを忘れた。いや、したくなかったのかもしれない。 「....で?」 「え?」 「だから、なんだよ。」 「だから...え〜っと、本当なの?」 「....さぁな。」 「えー!なにそれ!ちゃんと言おうよ」 「うっせぇな。どっちでもいいじゃねぇかよ。お前には関係ねぇことだろ。」 「......関係、あるんだもん。」 「はぁ?」 「関係あるの!あたしには!」 「なんでだよ。」 「.....好き、なんだもん。」 「は?」 「あたし、跡部君のこと、好き...なの。」 「.....」 「入学式のときの、答辞のときから、ずっと...」 頬を真っ赤に染めて、俺の席に両手をついて俯く。 でも俺は座っているため、の顔は丸見えだった。 同じ顔で、こんなにも違う顔をすることができるのか。こんなときにもあいつの事を考えて、比べてしまう。 「....わりぃけど、俺はお前と付き合う気はねぇよ。」 「.....お姉ちゃんとつきあってるから?」 「あいつとは、付き合ってねぇ。」 「じゃぁ、なんで?」 「お前には関係ないだろ。」 「ちゃんと説明してくんなきゃ、諦められないよ。」 「.....」 「お姉ちゃんのこと好きなの?」 「....」 「お願い、誰にも、言わないから...」 「....」 「跡部君...」 「....好きだよ。」 「....」 「あいつのことが、好きだ。」 「そっか....でも、ね。」 次の言葉で、俺はどん底の暗闇につきおとされるだなんて、思いもしなかった。 「あぁ?」 「お姉ちゃんはね、跡部君のこと、嫌いだって...言って、たよ。」 「....」 「この前、言ってたの。ホント、だよ。」 本当なのか、嘘なのか。そんな事、その時は考えられなかった。 頭の中がからっぽになって、真っ白になった。 今考えれば、そんな風になったのは初めてだった。 あいつの顔をちゃんとみていれば、嘘だということはわかるような、苦い顔をしていたというのに。 「ねぇ跡部君。」 「.....なんだよ。」 「あたしと、つきあって。」 「....」 「お姉ちゃんのかわりでもいい。あたしと付き合ってみて、それからでいいから、あたしのこと、好きになってみて...?」 「....」 「さ、3ヶ月っていうのはどう?」 「は?」 「3ヶ月付き合ってみて、ダメだったら、あたしも諦める。跡部君のことはすっぱり、諦めるから。お願い...」 「...少し、考えさせろ。」 「う、うん!ありがとう、跡部君!」 「まだ付き合うなんて言ってねぇよ。」 「ううん!それでも...ありがとう!」 「.....変な奴。」 フッと笑って、外をみる。 たぶん、中と比べて外は寒いんだろうな。そんな事を思ったときには、窓を開けていた。 「跡部君!?寒いよ、閉めようよ!」 開いていたのは数秒。がパシャリとすぐに閉めたから。 その数秒の間に、俺の息は外の寒さに触れ、白くなった。 冬独特の寒さ。 白い息。 暖かい教室。 あぁ、この冬、俺は初めての恋を失恋に終わらせたのだと思い、胸に込み上げる何かが、あった....。 「お姉ちゃん、話があるの。」 「ん?どうしたの?」 家の姉妹の部屋。 風呂からでてきたばかりのに、が真剣な面持ちで話し掛けた。 「あたしね、跡部君と付き合うことになったの。」 「え....」 今までの妹からはみたことがないような顔。 嘘ではなく、本当なのだと感じた。 「だからね、お姉ちゃんも協力してね?」 「協力って?」 「....色々と。お母さん達にばれないように口実作りとか。」 「....あぁ、うん。わかった...。」 「あたし、跡部君のことずっと好きだったの。お姉ちゃんだって知ってるでしょ?」 「うん...・」 「たとえ、お姉ちゃん達が両思いだったとしても...。あたしは...」 小さい声で、同じ部屋にいたとしてもききとれなかった声に、もう一度言ってと、言った。 「...なんでもない。」 「そう?...跡部も、のことが好きだったんだ。」 「....うん。そうなるのかな。」 「そうなるのかなって、そうなんでしょ?」 「そうだね!そうだよ!うん、両思いなんだよ!」 「変な子。」 その後、少ししゃべって眠りにつく。 二段ベットの上で、眠りにつけない自分がいた。 自分はさっき、ちゃんと笑えていた? 話を聞いて返事して、頷けていた? さっきのことなのに全然覚えていない。 その時頬を伝う、冷たい何かに気づく。 「なに....?」 涙、だった。 ベットから起き上がり、部屋をでて廊下にでた。廊下の窓をあけて、外に顔をだす。 寒い。 そう思ったけど、窓は閉めなかった。 「なんでだろ...なんで、泣いてるんだろう..。」 その日あたしは、声を殺して泣いた。 妹に、にきかれないように。 理由のわからない涙は頬を伝い、どんどんどんどん溢れる。 なんでこんなに悲しいのかわからない。 でも、もうあたしは、跡部の隣にいちゃいけないんだと思うと、すごい淋しくて。 冬の寒い日、あたしは、初めての恋を失恋という結果に終わらせたのだ。 ← 華 → ---------------------------------------------------------- やっと謎の真相があきらかに・・・。 一番書いてて長い時間をかけた話でした。疲れた・・・。 ってかちゃんものすごい悪役になっちゃった!?わぁ! 2005.9.24 片桐茜 |