その日から、あたしは人を信じたりしないと、自分に誓った。












    華〜裏切り〜














、お前明日の試合スタメンででろ。」


小学6年生の夏。中学受験をするあたしにとってはミニバスでの最後の試合。
今までスタメンどころか途中交代ですらあまり任されたことはなかったのに、いきなり監督に告げられた。
もちろん監督はあたしが受験のためにミニバスを止めることも知らないし、誰にも言っていなかった。



「あたし、ですか?」
はお前以外に誰かいるか?」
「え、いぇ、いません...」
「それとも何処か怪我でもしてるのか?俺にはそうは見えなかったが?」
「怪我なんて!そんなの、してません!」
「ならでれるな?」
「はい!ありがとうございます!」



監督の言葉にあたしは余計やる気がでた。
最後の試合に、初のスタメン。
ワクワクしてたまらなかった。
練習が終わり、あたしは急いで家に帰った。
お母さんに、に、きいてほしかったから。でも、家に入りリビングに行けば、あたしの居場所は存在しなかった。




「お母さん、明日映画連れてってくれる約束忘れてないよね?」
「はいはい、忘れてないわよ。」
「約束やぶんないでね?絶対つれてってよね!」
「そんなに何度も言わなくてもちゃんと守るわよ」



夕飯の支度をしてる母のそばにぴったりとくっついた妹。
あたしが立った事のない、場所。
あたしの居場所は、ない......。


?帰ってたの?」
「あ、お姉ちゃん!」
「...ぁ、ただいま。」
「おかえり。疲れたでしょ?お風呂はいってきなさい。」



いつのまにか振り向いた母が濡れた手を布巾で拭きながら柔らかな笑顔で言ってきた。
母に続いてもあたしに気づき、いつもどおりの笑顔をむけてくる。



「...うん。」



言えなかった。
明日試合があるから見にきて。なんて。
もっと前から試合のことを告げて、空けておいてもらえばよかったなんて少し後悔しながら、あたしは一度部屋にもどって荷物を置いた。
ドサリ、といつもより音が大きく感じた。
その足で風呂場に向かうためまた下の階に下りた。
せっかくの、スタメンの試合なのに。
誰にも応援してもらえないのかな....。





お風呂からあがりタオルで頭をふきながらリビングに行った。


「お風呂、空いたよ。お母さん入ってくれば?」
「それじゃぁはいってこようかな。」
「......」
?どうしたの?」
「おかあ、さん。」
「なぁに?」
「明日、は....」
「...と映画にいくけど、はバスケの練習じゃなかったっけ?」
「うん、そうなんだけど....」



言葉を繋げられないあたしを、母は待ってくれた。どれだけ待ってくれてたのかはわからないけど。
「明日、試合が、あるんだ....。」
が、でるの?」
「うん。初めての、スタメンで、もうミニバスもやめちゃうし...でも、みにこれないよね。映画、じゃ...。」
「みにいけるわよ?」
「え!?」
「映画は何時にでもみれるもの。でも、の試合はその時にしかみれないでしょ?」
「いい、の?」
と一緒に応援にいくからね。」


頭の上におかれた、母の優しい手。安心できる、手。


「うん!」
満面の笑みを母に返した。
きてくれる、みにきてくれる!
その夜はワクワクして眠りにつくのが遅くなった。










でも次の日、お母さんとは試合会場には姿をみせなかった。
キョロキョロと入り口の所を見る。



、もうすぐ試合がはじまるぞ。」
「はい...。」
「誰か、くるのか?」
「.....いいえ、誰もきません。」
「...そうか。なら試合に集中しろ。今回の相手は手強いぞ。」
「はい。」



約束を、破られた。
ユニフォームを握り締め、込み上げてくるものをおさえた。
まだ、来てくれるかもしれない。息をきらして、「ごめんね」と言って現れるかもしれない。
今は、目の前の試合に、集中するんだ。
体が思うように動かない。体が重い。こんなの、あたしじゃない。
前半が終わる直前。あたしは相手側の激しいあたりに耐えられずふきとばされた。その衝撃で強く頭を打ちコート外に運ばれた。
目を覚ませば、医務室なのだろうか。カーテンに囲まれた場所で眠っていた。



「あれ...?」
「起きた?」


すぐそばから聞こえた声に頭をそちらにむける。


「遠藤、さん?」


今回の試合で、あたしの代わりにスタメンからはずされた子。
あまりしゃべったことがないため、どういう子なのかわからないけど。



さん、頭打って医務室に運ばれたの。覚えてない?」
「頭...?あぁ、あの時に打ったんだ。」
「意識ないからびっくりしちゃった。」
「....試合、試合は!?」
「まだ後半はいったばっか。まだうちが勝ってるよ。」
「あたし、試合にもどらなきゃ...」



起き上がろうとした時遠藤さんの手で止められた。



さんは試合にもどらなくていいよ。」
「え、なんで?」
「あたしが試合にもどるから。」
「え?」
「今日のさん動き悪いし、あれだったら私がでたほうがチームにとってはいいはずよ。
あたしが落とされて、あなたがでてること自体信じられないのに...!ねぇ、転んだときに手首ひねったってことにしてよ。
そしたら、あたし試合にでれるわ! そうよ、ねぇ、手首痛くない?」


気持ち悪い手つきであたしの手を掴む。


「痛いっ!」
「あぁ、ごめんね?つい強く掴んじゃったみたい。」


パッと手を離す。
今の事態がよくわからなかった。
頭が混乱してて、でもあたしは文句を言われているんだっていうことだけはわかった。
「前半のあたしの動きは、よくなかった。だから後半でとりかえしたいの。
お願い、試合にださせて。文句はその後にきくから!」
「....でれるもんなら、でれば?」


彼女の言った事がよくわからなくて、あたしは急いでベットから出た。
その瞬間、ドンと背中を押される。
思わぬ衝撃にあたしは転んで両手を床についてしまった。


「なんでこんなっ...!」
“なんでこんなことをするの!?”と言おうとしたとき、もっと痛い痛みが手におそった。


「いたっ!!」


手を、踏まれた。バッシュだとはいえ、思い切り踏まれたらかなりの痛手だ。


「あ、ごめん。そんなとこに転がってるもんだからまちがってふんじゃったわ。」


手を変にひねってしまった。
動かしただけで痛い。手首をひねることさえできなかった。







結局、試合にはでれなかった。
あたしの手首は全治2週間。
手首に包帯を巻いたままあたしはミニバスを去った。








なんでお母さんがきてくれなかったのかとか、なんで遠藤さんがあんな行為をしたのか。
もうどうでもいいことだった。
家に帰れば、ひたすら謝る母。怪我も、心配された。
でも、もう無理。
なにもききたくないし、きこえない。
約束を守ってくれると信じていたから、チームメイトはあたしを信じて任せてくれると信じていたから。
だから、あたしは....。








信じるのは、無駄。
信じれば信じるほどあたしを傷つける。
ならば、あたしは人と接しなければ、傷つかずにすむんじゃないかな。
もう、疲れた。
もういいでしょ?傷つかない方法を選んだとしても....。






誰もあたしを叱らないでしょう?



  

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景吾さんでてこないよ。
本当にこんなことあったら大変と思いつつすごい遠藤さんを暴れさせました。
こんなことあっちゃいけないですよ。

2005.10.10 片桐茜



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