3.分析過程1

「出来たーっ。我ながら完璧なレポートだ」
 風折達が去ってから5時間後。時刻はAM4時。
 智史は、バキバキと肩を鳴らしながら、用紙3枚に及ぶレポートを書き上げた。
「わたしも、取りあえず着色は終わった。レポート見てもいいか?」
「ああ、補足も含めて俺が説明する。まず……」

 このまま、智史に説明させても良いのだが、台詞だけで話を進めると、必要以上にページをくう危険性があるので、とりあえず彼のレポートを、そのままご覧になっていただきたい。

『神崎智美の文章の特徴と、偽物の比較』

1.チャプター(章)の長さについて
 神崎智美(以下Aと表記する)は推理小説によく見られるような、短いチャプターを特徴としている。
 一方、偽の神崎智美(以下Bと表記する)もチャプターを短く区切っており、この点についてはA・Bどちらも非常に似通った区切り方をしているのが認められる。
 が、Aが平均12.3ページ(以下、ページで表記される枚数は、すべて400字詰原稿用紙換算枚数とする)でチャプターを区切っている一方、Bは13.7ページ。
 この違いは、極く些細なものであるという見解もできるが、Aの文章では、チャプターごとの区切りがはっきり分かれているのに対して、Bのものは前のチャプターの内容を引きずっているものが多い。この点から、Bは通常もっと長いチャプターで文章を構成しており、無理に長いチャプターを途中で分断し、Aに似せた長さに区切ったものと思われる。

2.句読点の使い方について
 1ページの句点、読点の数の平均を出してみると、Aは句点6.3個、読点17.6個、Bは句点7.8個、読点14.5個という結果が得られた。
 このことから、Aはチャプターの短さの反面、センテンスは長く、Bはその逆であるという事柄が浮かび上がってくる。
 更に細かく言えばAが『と、いうことは』という読点の使い方をするのに対して、Bは『ということは』という風に、『と』の後に読点を使っていない。
 加えてAが絶対に使わない、「 」直後の『と言った』をBは使っている。

 一例
『橘は、風間に向かって、「冗談じゃないですよ」と言った』

 Aは、このような表現を非常に嫌っており、いかなる文章を書く時にも、使用しない。Aの今までの出版物が、それを証明している。

3.漢字の使い方について
 諸事情により、Aは『と、いう事は』という文章を書く場合、『と、いうことは』の様に『事』をひらがなで表記するのを通常としている。
 しかし、Bの文章では、『事』は漢字で表記されているとう、決定的な違いがある。
 他にもA『ばか』・B『馬鹿』、A『先刻』・B『さっき』、A『解る』・B『分かる』などいった漢字の使い方の違いがあげられる。

 以上、1〜3の事柄からAとBは別人であり、それが証明できると判断致します。

 はい、つまらないレポート形式の文章はここで終わり。ふたりの会話に戻ってみよう。

「以上、QED(証明終わり)。どう、納得出来た?」
「出来た。しかし、データ入力+分析で4時間かかって、レポート作成には30分しかかかっていないというのは間抜けだな」
「ぬかせっ。データを完璧に取ってるから、レポート書くのは早いんだよ」
「時に智史、コレはどうやって、使うんだ?」
 着色の終わったイラストをヒラヒラさせながら、弘樹が問いかけた。
「ああ、それは、明日にしようぜ。とにかく、飯食って寝よう。俺、もう限界だ」
「それもそうだな。全く、今が試験休み中で助かったな。ところで、飯って、誰が作るんだ?」
「お前」
「……了解」
 ちなみに、飯なんか食っていないでさっさと寝ろっ、というの作者の意見である。
「その間に俺、コーヒー抽れるよ。飲まないと寝られないから」
「……変な奴」
 と、言いつつも、智史に付き合ってしまうせいで、しっかり自分も寝る前にコーヒーを飲む習慣がついている弘樹であった。

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