BLISSFUL RELATION -2- |
『なぁ剛くんと光一くんてやっぱアレなん?相思相愛・・・ってゆうんかそーゆーカン ケイなん?』 楽屋の廊下が静かになったんを確認して、ソファへ歩みよる。 バサリと倒れ込むとホーッと長い息をついた。 「そーゆーて、どーゆーやっちゅうに・・・」 さっき岡田に尋ねられた問いかけを改めて思いかえして困惑する。 そもそもコトのきっかけは、いましがたリハが終わってひきあげようとしていたトキや。 交替に入ってきた岡田がなんの前フリもなしに、そう切りだしてきたんであやうくパニックに陥りかけた。 幸いにもすぐ後ろにおった光一が他のメンバーと話し込んでたんで聴かれてややこしならんと済んだけど・・・。 『なぁんや、違うんか?こんな仲ええし・・・光一くんは否定しぃへんかったからオレ はすっかり。でも剛くんのほうは、その気ナシなんやな』 やたらガッカリしたように肩をおとす岡田のコトバに、多少ひっかかりをおぼえながらなんかあったんやったら相談だけでも・・・なんて思わんとけばよかった。 『う・・・ん。ホンマは剛くんに教えてもらおと思てたんやけどな。どないに言うたら上手くいくんか、とか。光一くんはなんも言ってくれへんし』 口ごもりながらそれだけ言うと岡田は、急に顔の前で手をヒラヒラさして『今のはナシな?聞かんかったコトにしといて』なんて逃げてきよったけど・・・。 「やっぱ相手はイノッチなんかなぁ?上手くいったら・・・て、いったらなんやオレ? カンケーあらへんがな」 浮かびかけたコトバを慌ててかき消して首をふる。 でも・・・ホンマはわかってるんや。 あの会話のあと妙に光一の存在を意識してもーて、いてもたってもおられへんかった。 これ以上一緒に・・・おんなじ楽屋にふたりきりでなんかおったらみんな言うてしまう気ィして。 『光一くんは否定しぃへんかったから・・・』 そら光一の日頃の言動を考えれば、そんなコトくらいは当たり前やとおもうけどな。 ささいなコト・・・気にしてんのはオレくらいなもんなんやろうけど。 『剛くんのほうはその気ナシなんやな』 まるで光一にはあるみたいな言い方に一瞬でも期待しようとしてしまった自分がつくづく厭わしい。 そんなことあらへんて、オレがいちばん分かってるハズやのに。 気楽で心地よすぎる関係に甘えて・・・頼りきって安心しとりたかったから。 これが岡田の言うてたんと違うコトくらい明白や。 ただ・・・。 『つよしぃー。今度の誕生日プレゼントは“HappyHappyGreeting”がええなぁ。弾 き語りで俺だけのために・・・どぉ?』 少し前にした光一との約束。 コンサートの曲よりはりきって練習しとるオレは、光一のいったい何なんやろ、て。 今まで考えてもみんかったコト・・・考えんよーにしてた想いの名称がいま目の前にある気ィがするから・・・。 「もぅアカンて。オマエと・・・オマエにラブソングなんかうとーてみぃ・・・」 光一は気づいてしまうやろ。 どうせ、今のままで居られへんのやったらその前にいっそこのコンビ解消してしまった方がなんぼかマシや。 光一がホンマのところオレのコトただの仕事仲間としか見てへんのを知ってるから。 きっと、こんなキモチに気ィつかれたら二度とこれまでみたいな関係ではつき合ってなんていけへんと思う・・・。 「失いたないねん・・・オマエの良き相棒の位置を」 ずっと大切に築いてきたこの関係を壊してしまうくらいやったら・・・“いい想い出”として、このままどうか黙って別れさせてくれ。 そう・・・願わずには居れんのや。
楽屋を締め出されて数分後。 戻ってきた扉の前で仁王立ちになる。 「・・・・」 なかから人の動く気配が微かに感じられてるから剛は、まだ楽屋にいるらしい。 いくら考えたかて出てこん答えと格闘するんは早々に諦めて策にでることにした。 作戦はもうはじまってるから、あとは待てばええだけなんやけど・・・じっとしてると否が応でも気持ちが昂ぶってくる。 『オマエと歌うたいたない』なんて俺になんや至らんトコでもあったんやったらなんで先に言うてくれへんのや。 「そんなに俺と組んでるんがイヤやったんか・・・?」 小声で呟く自分の声が剛の言葉と重なって視界がにじむ。 気ィの抜けそうになるんをグッと唇をかみしめてこらえた。 『お呼び出しを申し上げます。堂本剛くん。ご実家から電話です。至急事務のほうまで 来て下さい。繰り返します・・・』 そうしているうちに突然、呼び出しの放送が流れはじめた。 手筈通りの仕掛け・・・こうすれば剛も楽屋から出て来ざるをえられんはず。 よぉ聞けばこれが太一くんの声やて分かるかもしれへんけど、瞬時には判別もつけにくいし大丈夫なハズや。 0カチッ。 「なんやろ・・・」 予想通り扉がゆっくりと開けられる。 そして俺は一歩さがって剛が廊下に出るまで待った。 「・・・こう・・・いち。ずっとここにおったんか?」 こっちの存在に気ィついて剛がそんだけ言うんが、えらい長う感じられた。 “剛を失いたない”て、最初に言おうとしとった言葉が喉元をかすって声にならんのがすごいもどかしかった。
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