Bravado from Anxiety


<とんで一ヶ月後、模試終了後の上田>

 はぁ〜終わったぁ☆

 まだ受験が終わった訳じゃないけど、ちょっとした開放感。

 今までで一番手応えがあった気がする。

 信じられないけどこの一ヶ月、中丸が手出してこなかった。

 でも、そのおかげで模試がうまくいったってことは、今までかなり負担になってたってことだよね。

 …どうせなら入試までお預けにすれば良かったかも。

 あーでもそれはオレが無理か。

 そんなことを考えながら家へと急いでいると、突然声をかけられた。

「上田、どうだった?」

 振り向くとそこには満面笑みの中丸の姿が。

 オレが笑顔でVサインを出すと、ぎゅって優しく抱き閉めてくれる。

 慌ててキョロキョロ周囲を確認するオレの耳元に、誰もいないよって中丸が囁く。

 こんな近くで声聞いたの久しぶり。

 安心して中丸にしがみつく。

「中丸のおかげだよ。正直、お前には無理だと思ってたからね」

「言ってくれるじゃん。こっちは必死で押さえてたんだぜ?」

 誰もいないとはいえ、道の真ん中で抱き合ってクスクス笑ってるオレたちって、かなり異様。

「ありがと。それと中丸がオレのこと、躰目当てなんじゃないかって疑ってゴメン」

「は?もしかしてそれで俺を試したの?」

「うん」

 本当のことだし、正直に頷いた。

「っちゃ〜…。…お前バカ。マジバカだよ」

 …なに、バカって。






 今日は上田の模試当日。

 場所と終了時間は前もって聞いていたから、帰り道となるであろう公園で上田を待った。

 なぜそんなストーカーじみたことするのかって?

 もちろん早速襲…じゃない、上田を労うために決まってんじゃん。

 まぁ、どうやって労うかが問題なんだけどね。

「上田、どうだった?」

 やっと姿を見つけて声をかけると、振り向いてVサイン。

 晴れ晴れした笑顔の上田が凄く可愛い。

 無言で抱きしめるとあたふたと周りを気にし出すし…もぉマジ可愛い!

 誰もいないよって囁くと大人しくなって、お礼まで言ってくれる。

 そこまではいいよ、そこまでは。

 俺に一ヶ月は無理だろうと思ってたって、そこまではいいんだよ。

 俺も正直ダメかと思ったし、実は上田に内緒である人に相手して貰ったし。

 あ!これ絶対内緒だからな!

 けれど躰目当てじゃないかって疑われてたなんて…。

「お前バカ。マジバカだよ」

 うっわー凹む…。

 上田は何がどうしたんだって言いたいんだろう、キョトンとしちゃってる。

 お〜い、しっかりしてくれよ天然ちゃん。

「いいか、よく聞けよ。俺が好きなのはお前なの。お前の躰じゃないの」

 もちろん躰も大好きだけど♪

 まぁこれ言うときっと怒るからやめておこう。

「仮に躰だけが目当てだったとしたら、ここまで深く付き合ったりはしない、分かった?」

 コクンと頷く上田。

 疑ってゴメンねって切なそうに抱きついてくる。

 その時気づいた。上田の身体が震えていること。

「…不安だった?」

 再びコクンと頷く。

「中丸、オレに会うとすぐ触れようとするし…赤西たちみたいな『恋人』って雰囲気がオレたちには欠けてるような気がしてた」

 顔を上げさせると、潤んだ瞳と目があった。

 久しぶりにまっすぐ見た、綺麗な瞳。

 その瞳が上田の心情を…『寂しかった』『怖かった』『不安だった』って心情を痛いくらい俺に伝えてくる。

 胸が詰まりそうになる。

「俺さ…俺単純だからさ…。お前を手に入れてすっごく幸せで。ずっとお前と繋がりたかったから有頂天になってて、お前の気持ちにまで考えが回らなかったんだと思う…。お前を守るって決めたのに、俺がお前を苦しめてたんだな…」

 ゴメン。

 ぎゅうっと強く、優しく抱きしめる。

 上田はふるふると頭を振って、触れるだけのキスをくれた。

「オレも勝手に一人で疑ってたから…お詫びね」

 自分の行動に頬を染めてるのが、誘ってるんじゃないかと思う。

 俺は上田を安心させようと、柔らかく微笑んで見せた。

「お詫びだったらもっとくれない?一ヶ月間、我慢させたお詫びをね」

 上田には俺がいるってことを、体と心で感じて欲しいから。

「…いいよ。じゃあオレの家に…来て」






 誘いに乗ってきた上田に多少驚きつつも、折角の機会を逃す手はないので俺は上田の家に向かった。

 歩きながら聞いた話によると、上田の家は両親が旅行中で、それをいいことにお姉さんも遊びに行ってしまったらしい。

 明かりのついていない玄関に鍵を差し込む姿を見て、俺は上田が誘いをあっさりOKした意味に気づいた。

 寂しかったんだろう。

 そう思ったら、邪な考えでここに来た自分が急に恥ずかしくなった。

 玄関先で立ち止まってしまった俺を、上田は本人が言うのも頷けるほどの可愛らしい天使の微笑みで招き入れた。

「中丸、今日このために待ち伏せしてたんだろ?」

 見事にバレてるし。

 さっきの今だもんな、軽蔑されてもおかしくない。

「いいよって言ったのは、寂しかったからなのもあるけど、中丸の気持ちが分かったから。だから、今日は遠慮しなくていいから」

 上田は自分の部屋に入るとベッドに腰掛けた。

 スプリングが軽く軋む。

 そうは言ったって、泣きそうな顔してるじゃん。

 辛そうな顔して震えてるじゃん。

 …そんなヤツに手出せるわけないだろ?

「わかった。じゃあ今日はしない」

「何で!?」

「俺が躰目当てじゃないってことを証明してやる。寂しいならずっと側にいてやる。お前の不安が、少しでも消えるように」

 俺は、上田が大切なんだよ。

 不意に、上田の瞳から大粒の雫がこぼれ落ちた。

「…っく、ゴメン、ゴメンな、中丸…」

「泣くなって、俺は平気だから。いいだろ?側にいるだけだって」

 コクンと頷く泣き顔の上田。

 華奢な体がより小さく見えて、何も言わず抱きしめた。

 これで上田の不安が少しでも拭い去れることを願って。

 俺が開けた心の穴は、俺の愛で埋めてあげたいから。

 二人きりなのに上田に手を出さなかった、初めての夜は、こうして静かに更けていった。











ごめんなさい、今の私にはやばいシーンを書くだけの文才と発想力がありません…。今回は姫をボロ泣きさせることが目的だったと言っても過言ではないです。半コメディー、半シリアス、みたいな。話が淡々と進んでしまうのもどうにかしたいですね。もっと心情を、中身を強く書けるようになりたいです…。次回でラストです。

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