LOVE RECOMFIRMATION -2-


 逃げて来ちゃった。

 楽屋のドアを開けた瞬間に飛び込んできた映像が信じられなくて、だけど頭から離れてくれない。

 忘れたくて目を閉じても、瞼の裏に鮮明に焼き付いてしまってる。

 無かったことにしてしまいたかった。

 誰かにウソだよって言って欲しかった。

 ……認めたくない。

 誰よりも大好きな人と、大切な仲間。

 泣きたくて、でも泣いてしまったら認めることになりそうで。

「坂本くんのバカ……。」

 口に出してしまうと、余計に涙が込み上げてくる。

 スタッフの姿が見えないところまで来たとき、後ろから足音が響いてきた。

「剛! 待てよ!」

 聞き慣れた、男のものにしては高い声。…健の声。

 かまわずに歩いていると、健は肩を掴んで俺を立ち止まらせ、振り向かせようとする。

「待てって! いいからちょっと話聞けよ! あれは誤解……。」

「誤解……? どこが誤解だって言うんだよ……っ。裏切り者!!」

 パシン!

「……っ。」

 健の発した一言に我慢できなくて、気付いたときには手を出していた。

 手のひらが痺れて痛い。

 自分が何をしたのか認識した途端、抑えていた涙が溢れてくる。 だけど、それと同時に健の顔に怒りの色が浮かぶ。

 本気で怒った、そう思った直後に頬に鋭い衝撃を受けた。

「!!」

「話を聞けっつってんだろ!?」

 驚いて、殴られた頬に思わず手をあてる。

 俺が声も出ないでいると、健は大きく息をついた。

「落ち着けよ、剛。ホントに誤解なんだって。」

 俺の肩を抱いて、近くにあったパイプ椅子に座らせた。

 健は俺の前に立って、肩に手を置き見つめてくる。

「誤解を招いたことは謝るよ、ゴメン。でも坂本くんは……勿論俺もだけど、そんなつもりであんなコトしたんじゃないよ。大体、すると思うわけ? 剛は。」

 俺は首を振って、否定の意志を示す。

 そうだよ。井ノ原くん一筋の健が、自分から……なんてコト、あるわけない。

 でも……だったら、坂本くんは?

 最近何かと忙しくて、なかなか二人きりになれないでいるうちに、健に愛情が移っちゃったとか?

 ヤだ。絶対ヤだよ、そんなの。

「……くんは……?」

「ん?」

「坂本くんは、何であんなコトしたの? 俺のいないトコで、何であんなコトしたの?」

 涙目で訴えると、健はニッコリと微笑んだ。

 まるで、俺の抱えてる不安すべてを見透かしたように。

「剛は、何でだと思う?」

 逆に聞かれて困惑する。

 もう頭の中ぐちゃぐちゃで、よく分かんないよ。

「分かんない……。」

 やっとの事でそれだけ言ったものの、健の顔を見ていられなくて俯く。

 健って、俺の目から見ても守ってやりたくなるタイプだから、きっと坂本くんも……。

 どんどん悪い方向に考えてしまう。

「剛、ねぇ剛、顔上げて? 坂本くんは、いつも剛のことだけ想ってるよ。」

 健に肩を揺さぶられて、やっと重い頭を上げた。

「最近剛とラブラブできないせいで、禁断症状がでちゃったんだって、坂本くん言ってたよ。」

「……え?」

 言ってる意味がよく分かんなくて、俺は目を丸くした。

 健はポンポンと俺の肩を軽く叩いてから手を放す。

「剛が好きで好きでたまんなくて、抱きしめたくて、でも剛がいないから仕方なく俺を剛の代わりにしたんだってさ。全く、される方は冗談じゃないっての。」

「それ……ホント?」

 まだ信じ切れなくて惚けたように聞く俺に、健は笑いかける。

「ウソ言ってどーすんのさ。もう剛ってば、それだけ坂本くんに愛されてるってコトじゃんか。幸せモンだね。」

 多分に冷やかしを含んだセリフに頬がゆるむ。

「あーあ、ニヤけちゃって。なぁんか俺、他人の恋人に身代わりで抱きしめられるし、誤解されるし殴られるし……めちゃくちゃ被害者じゃねー?」

 早速目ざとく見つけて呆れたように言う健の言葉で、俺はさっき怒りにまかせて健を殴ってしまった事を思い出した。

「ゴメン。勝手に勘違いした挙げ句思いっきり殴って。痛かったろ?」

「全くだよ。でも俺も思わず殴り返しちゃったしさ。ゴメン。」

「いや、あれで目が覚めたっつーか、冷静になれたから。」

「そう? まぁ、お互い様だね。」

 こんなふうに殴り合いですらあっさり解決してしまうのは、付き合いが長い健だからだろうな。

 さりげない仕草で俺を立たせると、健は言った。

「ホラ、坂本くんのトコ行ってあげないと。剛に誤解されたって、かなり沈んでたよ?」

「……ん…。」

「俺も楽屋の前まで一緒に行ってやるからさ。早く早く!」

 まだちょっと逃げ腰な俺を引っ張って、楽屋に戻ろうとする。

 こういう時、コイツが仲間で良かったって、心から思える。











はい、剛くんサイドでした…。実はこの話は、この回に出てくる剛&健の平手打ちのシーンが唐突に頭に浮かんだところから始まったんです。無性に殴り合い(といっても綺麗にね)が書きたくなって。無事にひとつのストーリーになったときはほっとしましたよ。次回は坂本くんサイドです。坂剛としてはラストになります。

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